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映画【聖なる犯罪者】

原題 Boze Cialo
製作年 2019年
製作国 ポーランド・フランス合作
配給 ハーク
上映時間 115分
映倫区分 R18+

【概要】
少年院で出会った神父の影響で熱心なキリスト教徒となった20歳の青年ダニエルは、前科者は聖職者になれないと知りながらも、神父になることを夢見ている。仮釈放が決まり、ダニエルは少年院から遠く離れた田舎の製材所に就職することになった。製材所への道中、偶然立ち寄った教会で出会った少女マルタに「司祭だ」と冗談を言うが、新任の司祭と勘違いされそのまま司祭の代わりを任された。司祭らしからぬ言動や行動をするダニエルに村人たちは戸惑うが、若者たちとも交流し親しみやすい司祭として人々の信頼を得ていく。一年前、この村で7人もの命を奪った凄惨な事故があったことを知ったダニエルは、この事故が村人たちに与えた深い傷を知る。残された家族を癒してあげたいと模索するダニエルの元に、ある男が現れ事態は思わぬ方向へと転がりだす…。

【評価】
★4.8(5段階評価)

【感想・レビュー】
−善悪と信仰と赦しの成れの果て−

2019年ヴェネチア国際映画祭内のヴェニス・デイズ部門でプレミア上映された本作、その後世界中の映画祭で上映され数多くの賞を獲得した。また、第92回アカデミー賞®国際長編映画賞に見事ノミネートされた。
監督は本作が3作目となるポーランド出身のヤン・コマサ。主演は、弱冠28歳のバルトシュ・ビィエレニア。

まず本作は実話を元に作られたという。
前科を持ちながら本来なれるべきではない司祭という立場につく主人公のダニエル。きっかけは軽く口をついた嘘だ。初めはまさか本当に信じるとは、と戸惑いながら司祭の仕事をこなしていく。
村人たちもどこか奇妙な雰囲気に戸惑いながらもダニエルのどこか核心をつく言葉に司祭として受け入れていく。

いわゆる「成りすまし」の映画だ。本作は常に成りすましがゆえの「不安」とそして「不穏」がつきまとう。
「不穏」に関してはバルトシュ・ビィエレニア演じるダニエルの存在感と危うさが大きいだろう。

少年院生活を映した冒頭で、そこは暴力に溢れた場所であること、そしてダニエルの立場は危ういということ、その中で唯一キリスト教に触れている時間が救いであることが描かれている。

しかし、司祭になりたいというダニエルの想いも前科者には不可能であることを告げられる。

少年院を仮釈放となり尊敬する司祭に「酒やドラッグはするなよ」と言われるもすぐさま、クラブにて酒、ドラッグ、SEX三昧。

ここまでが一つのキーだったと思う。
少年院で蔓延る暴力に手を貸す。
聖職者に憧れ、神を信じ、慣例的なミサも熱心に行う。
外に出た瞬間から退廃的に欲求に溺れる。

この軽薄な悪と純粋な善が繰り返され内包しているのが本作の主人公であるとこの冒頭部分でまず突きつけられる。

この冒頭によって本作で行われる主人公の善行も悪行もどちらも信じきれなくなり、常に不穏な空気感を漂わすのだ。

村で嘘の司祭を演じるダニエルは"司祭らしさ"がない分、若者にも好かれ、訝しげに見ていた村の人たちからも受け入れられる。更に一年前に起こった凄惨な事故についても積極的に首を突っ込み聖職者としてあるべき行動をとろうとする。

ここから一気に良い司祭として進むのだが、やはりダニエルへの不穏が拭いきれない。本当に改心しているのかどうか。もちろんバレるのではないかという不安もある。

その不穏がドキドキに、不安がハラハラになり常に緊迫した雰囲気を緊張した状態で観ることができた。

この作品は"善"と"悪"を宗教という信仰のフィルターを通して非常に剥き出しにされていると思った。こうあるべきだ、こうに違いない、と盲目的になればなるほど善悪の壁が溶けていくのが非常に良く映されていた。

ダニエルが司祭として村の事情に突っ込んでいくほど"何が正しい"と問いかけられているようだった。

一年前の事件へダニエルはどう関わるのか、ダニエルは本当に改心したのか、ダニエルの嘘はどうなるのか、ダニエルは聖人か悪人か少しでも気になったら是非映画館で見てほしい。

深く観れば観るほど非常に旨味がでるような上質な映画だったと思います。観たあと色々考えてしまうような余韻が残る映画でした。とっても良かった!

【余談】
本作にはダニエルがなぜそこまで宗教が好きになったのかは描かれていないのだが、もしかして少年院に入った理由とかがきっかけなのかなーと。実はずっと怖くて赦されたくて神様にお願いしてたのかな。なんて。

【公式HP】
http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/
【予告】