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動的平衡ー福岡伸一著「もう牛を食べても安心か」の衝撃ー(1)

 彷蜃斎です。ライターとしての福岡伸一さんに惹かれて、「もう牛を食べても安心か」(文春新書)を読んで、少なからざる衝撃をうけました。「もう牛を食べても安心か」は、タイトルから容易に想像できるように「狂牛病」について言及された著作ですが、それ以上に生物としての本質的な有り様に示唆的な内容をもっていると思われるのです。

 もちろん、「狂牛病」に関しても、病気としての本質が明確になっていないと読めるので、それ自体極めて深刻な問題提起となっていると思われます。そもそも、我々は「狂牛病」の病原体として「プリオン」なる存在を、認知していましたが(少なくとも私はそうでした)、それとて学界では相当数の研究者が疑問視しているというから驚きではありませんか。しかも、1997年には「新しい感染原理としてのプリオンの発見」という理由で、スタンリー・プルシナー氏がノーベル医学生理学賞を単独で受賞しているというのです。

 そもそも、「プリオン」とはなにかというと「微小なタンパク質感染性粒子の略称」で、もともと羊の感染症であったスクレイピー病原体のことを指していたといいます。
 しかも、この病原体は30分間の煮沸でも2ケ月間の冷凍でも死滅せず、ホルマリン・フェノール・クロロフォルム処理でも、組織サンプルに病原性が残存すらしいのです。
 また、この病原体は減菌フィルターを通過し、超遠心分離にかけても沈殿しないほど小さく、病原体由来の感染症にもかかわらず、宿主には発熱や炎症、特異抗体生成などの免疫反応が一切起こらない驚くべき性質を有しているのです。
 それゆえに、スクレイピー病原体は非定常型ウイルスとか、スローウイルスと呼ばれていたというのです。先述のプルシナーの独創は、それまでのウイルスの常識が当てはまらぬスクレイピー病原体に「プリオン」という新しい名を与えたことで、それこそが彼をしてノーベル賞受賞者たらしめたというのです。

  少なくとも、「もう牛を食べても安心か」が出版された2004年12月の時点で、著者福岡伸一さんがいうには、プリオン説に対するノーベル賞授与は時期尚早であり、プリオンが狂牛病を発症させる病原体であるという説は不完全な仮説であるということのようです。(続く)

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