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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その5

 五十部警部は浴室に置かれた洗面器のふちにあった、革の鞘から出してあるカミソリの刃が二か所欠けているのに目を止めた後、足元に横たわる花山ススムの遺体にかがみこんだ。
右の頸動脈がスッパリと切断されたような鮮やかな傷口であった。
割れたレコードを右手に掴んでいた。
田山監察医はその側に落ちていた吸い殻のニオイを嗅ぎ、「こりゃ大麻草だな」とつぶやいた。
二人はそのまま居間へと移動した。
「あの晩は僕らの出ているキャバレーのショーが終わって、ここにいる歌姫のアッコと俺とベッターの花山とで寝酒をやっていたんです。アッコはこのアパートの二階の一番端に部屋があって、そこで飲んでました。花山は少し飲んでから自分の部屋へ戻っていきました。そしたら、十五分くらいしてかな、なんかドスンという音がして、アッコが何だか気になる。花山さんは前から眩暈の症状があったでしょ。というもんだから、あいつの部屋へ行ってみたんです。
声をかけても返事が無いし、部屋のカギは掛かってなかったんで中へ入って玄関からすぐ6畳になっているですけど、そこにも居ない。変に思って浴室の方へいってドアを開けたら…いや、驚いたのなんのって。」
ジャズバンドのピアニストでリーダーの鳥尾啓介が声を震わせて説明した。
「彼は普段から大麻草を吸っていた?」
「ええ、奴は不眠症でもあったんです。それでだと思いますよ。」
警部の質問に鳥尾は答えた。
「彼は苦しんで亡くなったの?」
歌姫のアッコこと遠藤明子がおずおずと尋ねた。
監察医の田山はため息をついた。
「ここまでスッパリとやっていると、倒れて頭を打つ前に心臓は止まっていただろうね。」
二人は顔を伏せて聞いていた。
その二人をしげしげと見ていた五十部警部は突然きっぱりとした調子で二人に向かい告げた。
「君たち二人、署まで来てもらえるかな?」
 
なぜ警部はこれを自殺ではないと考えたのかな?

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