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最近読んだアレやコレ(2021.06.06)

 前回のアレコレからひと月以上間が空いたわけですが、虚無になっていたわけではなく、ポケモンスナップしたり、引っ越しの準備で本を段ボールに詰めたり、出来合いのパスタソースを食べ比べしたり、有名タイトル漫画でまだ読んでいないやつをまとめ買いして読んでみたり、『オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case』の連載開始が発表されて発狂したりしていました。漫画の感想を書けばよかったのでは? それはそうと、ポケモンスナップおもしろいですね。何か非常に性に合っており、もう100時間くらい遊んでいます。旧作は「毒ガス噴霧ボールをマンキーに投げつけ、もがき苦しみ転げまわる動きでスイッチを押し扉を開く」などする暴のゲームだった記憶があり、毒ガス噴霧ボールはまだまだかと待ち望んているのですが、100時間遊んでもまだ出てこないですね。あと、パスタソースですけど、30種ほど試した中ではハコネーゼの海老クリーム味が一番おいしいです。オリーブオイルとニンニクで炒めた海老を具にするとよりおいしい。

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こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ/岡田淳

 こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ!? こそあどの森のおとなたちが子どもだったころが読めるってのか!? 買った! 100億円! としか言いようのない、あまりのも「わかっている」ファンサービスぶりにぶったまげ、気づけば読み終わっていました。「こそあどの森」は、児童に向けて語られる児童文学でありながら、その「語り」を行っている大人の視点も鏡写しのように描き出してゆく小説です。主人公スキッパーの目を通して描かれてゆく森のおとなたちの姿は、そのまま、おとなたちがスキッパーを見つめる視点の描写にもなっている。5人のおとなたちが語る冒険の記憶は、彼らの現在と比べると、どこか夢見心地で空想的で、しかし、今の生活にもやわらかく接続されている。寓話でもなく、郷愁でもない、おとなたちにも子どもの頃があったのだという、それだけの驚きと喜びがここにあります。ポットさんが昔からごんたくれだったという実感に、意味もなく涙腺が緩くなるんですね。しかしスミレさんが最後の語り部を努めているのも、あまりにも「わかってい」ますね。スミレさんはこそあどの森シリーズのヒロインですから……。


アンデッドガール・マーダーファルス3/青崎有吾

 最高のボンクラパルプミステリであったシリーズ前作が出て、早5年。ついに! 出たぜ! 待ちに待った3作目が! 人狼村と人間村をまたいで同周期で発生する連続殺人、マジモンの人狼を参加者に加えたリアル人狼ゲームという趣向の時点でケレン味たっぷりなのに、その上さらにそこに盛り込まれるのは、ホームズ的なキッチュな冒険フレーバーに、ロンドン怪奇怪人オールスターズが繰り広げる異能バトル、そして明らかに作者の趣味が炸裂している女女間精神背徳情欲憎愛関係性! 怪奇の特性を徹底的に使い倒す興趣とそれを成立されるロジックの明快さ・鮮烈さは最早言うに及ばず、何よりも感動するのは、自分の考える「おもしろい」をどこまでも真摯に、それこそある種の執着すら感じ取れるほどに、真直ぐにやり通したその輝きです。理性と獣性の2つの欲望がタペストリーにのように織り込まれ、その血流の中には、ヘルシングから嘘喰いまで、百合から本格ミステリまで、ありとあらゆる「好き」と「おもしろい」が、一切の妥協なく練り込まれ、1編の小説として昇華されている。除夜の鐘を連射コンで連打するような、めくるめく本気の煩悩の濁流が、読者の脳天をぶちぬき、鼻血を噴出させる。パルプ×エンタメ×ミステリの福音のような傑作。最高です。みんな読め。


黒牢城/米澤穂信

 織田信長を裏切った有岡城下で、次々と起きる怪事件。城主・荒木村重は無用の騒動を避けるべく、監禁中の黒田官兵衛に事件の解決を持ちかける。何よりもまず、荒木村重と黒田官兵衛で戦国版『羊たちの沈黙』をやろうというコンセプトが最高ですね。姿の見えない破滅への足音、剣呑としてゆく民草の空気は、この上なく生々しくひたひたと読者に迫りくる。言葉では浮き上がりにくい人間関係の細やかなヒダを、推理小説に落とし込むことで詳らかにしてゆく米澤作品の十八番。それを「落城の気配が徐々に色濃くなってゆく城」という時代劇に転用する発明には膝をうちました。推理小説と時代劇の融合という点でも絶品で、探偵的手法による真相究明の限界を説く考察が、そのまま荒木村重という人物の再解釈に繋がっているのが素晴らしい。一方で、そのマッチメイクが「解決編で陣太鼓を鳴らして事件関係者を集める武将」「諸将の動きを整理すべくアリバイ表をしたためる武将」など、絶妙にトンチキな情景を生んでしまっているのには笑いました。一見、新機軸のようでいて、しっかり『氷菓』からの系譜を継いだ、堂々たる米澤ミステリの王道です。おもしろかった。


君たちは絶滅危惧種なのか?/森博嗣

 オーガニックな動物がほぼ全て絶滅し、模造人間「ウォーカロン」が人口の多くを占める未来。国定自然公園内の動物園から、1体の「動物」が姿を消し、次々と人を襲い始める……。「謎の巨大動物が逃げ出す」「その正体はどうやら兵器転用を目的としたクローン生物」「モンスターの姿がほとんど画面に映らない」など、ボンクラB級モンスターパニック映画のチェック項目ほぼ全てにチェックが入る内容でありながら、一切、パニックすることなく、ひたすら冷静沈着に淡々と進行し、なるべくしてなる方向におさまってゆく。本シリーズは、サイバーパンクな世界観で別種ジャンルの小説をやってみようというチャレンジが愉快なのですが、それ以上に「森博嗣でやってみた」とてでも言うべきすっとぼけ感が楽しいですね。私は、小説に対する「気負わなさ」にかけて、現在の森博嗣に勝る作家はまずいないと思っているのですが、本作もそれが強烈な味になっている。肩の力のぬけきった、衒いの全く感じられない、脱力のなせる奥義。一方で、その抜け目なく意図的に演出された「森博嗣らしさ」こそが、実は最大の色目・作為・不自然であり、斜めから見た時の愉快さを生んでもいるとも思うんですけれど。


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