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【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(2020.5.17)

 ゴールデンウィークは長めの小説を色々読もうと思っていたのに、ニンジャスレイヤーの感想にほぼ全ての時間を捧げてしまった私です。初再読が3月なので、完成まで2ヶ月かかった計算になりますね……。テキスト自体は3時間くらいで一気に書いたので難産だったとわけでもないんですが、アレもコレもと凝ってる内に楽しくなっちゃってなんか大変なことになりました。読書感想文を書く上で、文章構成の設計図まで作ったのはさすがに初めてです。あと、あまり引用しすぎてもノイズになるし、なんか厭らしさも出てしまうので(直接的に参考にした『虚無への供物』以外)カットしましたが、イメージリソースとして結構な数の小説をパラパラ流し読んだりしてそれも楽しかったなあ。手元にない奴をわざわざ購入したりもして、いい手の込みようだった。私は、感想文を書くときに自分の中からキーワードを拾い上げ、膨らましてゆくタイプなんですが、その過程をたどる途中、自分への刺激としてキーワードが共通してる別作品を流し読みする癖がある。「同音異義語」的な作品であり、類自作ですらないですけども。雰囲気づくりのBGMみたいなノリですね。


水晶のピラミッド/島田荘司

 上述したGWで長めの小説を読もう企画、唯一の達成作。推理小説の癖して開幕後400ページ延々、タイタニック号沈没記と古代ピラミッド御伽噺をやる堂々たる遅延行為にビビり散らすものの、それが文句なしにおもしろく、頭を垂れて読むしかないという小説力(ぢから)は最早暴力。「ピラミッドの秘密を名探偵が解き明かす」というそれはもう推理小説というより学研まんがでは?という題材、そして「冥府の使者アヌビスが5000年の時空を超えて突然甦り、空中30メートルの密室で男が溺死する」という風邪ひいたときに見る夢みたいな謎を、真正面から一切ひるみなく執筆(や)れる島田荘司という小説家の「太さ」には憧れます。俺は世界一凄い小説を書いているぞという自信がみなぎっている。最後に明かされる真相は、正直「大山鳴動して……」なんですけども、これだけ「太い」ものを書かれてしまうと、その痛快さに、「お前の小説……ドォデカい!!」と大笑するしかありません。あと、私は、吉敷竹史ものは最新作以外全部既読なのに、御手洗潔ものは四作しか読んでいないという結構珍しいタイプの島荘読者なんですが、これを機に御手洗ものもちょくちょく読んでいきたいなあと思いました。

ヴェロニカの鍵/飛鳥部勝則

 「本格推理小説への暗い妄執」、そしてそれに囚われ「非推理小説に推理小説要素を盛り込んでしまうことで小説が失敗する」という恐ろしくニッチなテーマ(総じて、『本格推理の幽霊』と名付けられている)を取り扱い続ける、飛鳥部先生の六作目。飛鳥部作品には推理小説以外にもう一つ、「挫折した芸術家」という車輪があるのですが、本作は推理小説の型をとりながらも、そちらを主体として組まれたもの……言うなれば、とんかつDJアゲ太郎のとんかつ編のような立ち位置の作品です。前述のニッチで複雑な題材が、描きたい女「ヴェロニカ」を喪った絵描きの物語として極めて精緻に翻訳されており、彼のお話を読み解くこと自体が、その裏側に貼りつく『本格推理の幽霊』の解体、そして作中で起きた殺人事件の真相を暴くことと結びつく。女・ヴェロニカ、『本格推理小説』、そして青春。交わることない観念上の三軸は、いずれも等号で結ばれており、その終わりは三倍の威力となって、読者の胸をうちます。手に入れにくい本ですが(下のアマゾンリンクを開いて見よ)、強くお勧めしたい傑作です。

名探偵コナン(86~90巻)/青山剛昌

 ここ数年の発行巻を読めていなかったので、現状に追いつくべくレッツ名探偵コナンです。ちなみに、この辺りから未読かな……とあたりをつけたのですが、五巻全部既読の巻でした。個人的な白眉は幼稚園児・工藤新一の事件です。工藤新一という探偵は、自己顕示欲とゲーム感覚に基づき人の死で遊戯をする「悪い名探偵」でありながら、同時に探偵の倫理や社会正義を説くという、どうにもつかみどころない造形をしており、80巻近く読んでもどういう奴なのかよくわかってなかったんですよね。それが、この幼稚園編で晴れました。つまり、いずれもが根っこは「好きな女の子(ひいては他人)にいいかっこがしたい」という……悪く言うならば幼稚な、よく言えばかわいらしい理由だったというもの。未成熟な、「頭脳は子供」の名探偵。それが彼の個性であり、魅力だったんだなと。あと、鎌鼬事件・ゾンビ事件あたりに顕著ですが、近年の「事件の怪奇性を一切強調せず、最初から作り物だと冷めた調子で描写する」作風は、あまり語られませんが名探偵コナンの大きな個性だと思います。このドライさは、ちょっと他に見たことがない。いわば、アンチ・ジョン・ディクスン・カーですね。


神々の山嶺(1~5巻)/夢枕獏・谷口ジロー

 元々はGWで長めの小説を読もう企画で原作を読むつもりだったのですが、冒頭に書いたアレやコレで漫画版に切り替えたのが私の登山の経緯です。羽生さんに殴られても文句は言えない感じですが、漫画版もめちゃくちゃおもしろく、私は大満足で下山することができたので、胸をはって殴り返したいと思います。画がうまい!男がえろい!山が凄い!それ以上の感想がいるのか……?という感じですね。「読みとる内容」以上に「読むと言う体験」自体に輝きがある、そんな本が偶にありますが、本作もまさにそんな感じでした。「こいつら他人の事、みみっちく気にしすぎじゃないか?」「山を出汁にして内的闘争してるだけじゃないか?」「要は山以外何もないから山を選んだだけでケーキ作りが特異ならお菓子屋さんで同じことやってたのではないか?」「山である必然性がないのではないか?」と、見た目に反して神経質な山屋たちに対して浮かぶ様々ないちゃもんが、最終巻で作中人物の心理とリンクし、一気に吹き散らされるカタルシスはちょっと言葉にできないものがありました。お話の気迫に、圧されるという体験。


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