無題

錆の島

 ハルサキの兄ぃはどうして死んだ? 鉄傘から垂れた酸毒雨が皮膚に付着し中毒症状を起こしたためです。どうして? 酸毒雨は通常皮膚接触で炎症を起こす程度ですが、浸透中、塗料や錆を含み毒性が凝縮されるためです。なんでたれた?鉄傘の経年劣化によるものです。劣化ってなんだよ? 建造当初計画されていた維持管理プランが日日テック社の敗戦に伴い打ち切られたためです。つーかなんで鉄傘なんてたてた? 島民を他社兵器から守るためです。だれが錆び雨をふらした?わかりません。なんで?わかりません。

 その回答にどっと歓声をあげ、ガキ共はダマ坊を蹴り倒した。ダマ坊は慌てたように四つのタイヤがついたアームを伸ばし、起き上がり、距離をとる。半分潰れかけた旧式とは言え、よくできた玩具だ。与えた甲斐がある。

「なー、おっちゃん。あいつききまくるとすぐ答えにつまるんよ」

 脳味噌が煮溶けたような間抜けな笑顔。ラボの奴らが言うには、蒸発した酸毒雨を慢性的に吸うことで本当に溶けているらしい。こいつの名前はツジだったか。覚えても仕方がないが。ガキ共のサイクルは早く、死んで生まれてすぐ入れ替わる。

「知りたいか?」
「なによ」
「誰が酸毒雨を降らしたか」
「別に。んなことよりまた錆び雨あつめてきてやったからくれよ」

 レートは玩具一つにつき、一瓶。そして、この一瓶は島の連中が見たこともないような量の金を生む。島の発見は偶然だった。名目上は無人の島に市民コードも持たない人間が三千人ばかり生き残っていた。当初、俺に下された命令は焼却。保証が面倒だからだ。だが、鉄傘と酸毒雨という特殊な条件が生んだ名産品……濃縮酸毒液がその判断を覆した。未発見の猛毒。利用価値は無限にあり、隠ぺいの難しい人体実験もガキ共が収集の過程で済ませてくれる。災い転じて何とやら。企業間戦争でうちがぶちこんだ汚染兵器は、三十年の間にとんだ儲け話を生んでいた。

【続く】