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最近読んだアレやコレ(2021.10.26)

  10月は創作(1)とカレー(2)とゲーム(3)の月だったので、あんまり本が読めなかったですね。(1)例年通り開催された逆噴射小説大賞に3本投稿し、今年の目標としては投稿作全てを完成させることだったので、ちまちま小説を書いていました。現時点で2本完成済みです。(2)S&Bから出てるカレー手作りキットがおもしろくて、2週間くらいずっとカレー食べてました。ケララカレーはまだ作ってないので楽しみです。(3)地獄を脱出した回数が通算40回になりました。一見微妙に見える釣りバカ親父セットは、狭小空間で戦う毒鼠通路が楽になるのでそんなに悪くないことを周知しておきます。

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私はあなたの瞳の林檎/舞城王太郎

 短編集。文庫発売に伴い再読。舞城作品を読むのは久しぶりなのですが、やはり意味がわからないですね。どうしたらこんなもんが書けるのかさっぱりわからない。指に刺さるほどに作為的であるにも関わらず、最初からそういう自然物が町中に転がっているみたいな当たり前さがあり、びっくりします。「えっ……なんで?」ってなる。読み終わることで「テーマ」がくっきりとした輪郭を伴って立ち上がる姿は、間違いなくその小説が作り物であることを証明しているのに、読んでいる間も、読み終わったその後も、文字によって綴られたその物語世界は、実際にあるものとして本当にそこにある。そう確信させるだけのREALを持っている。本当にそこにある世界が、たまたま1つの傾向に偏った時を狙って切り抜いたような、小説というよりも「写真」や「スケッチ」に近しい何かを感じます。舞城作品共通テーマである「愛」から少しぶれ、「恋愛」に寄った収録作3つは、いずれもが林檎の酸味を備えており、みずみずしく、鮮やかで、そしてほんの少しの出血をもたらす痛みを抱えています。傑作ですね。


日本以外全部沈没:自選短編集③パロディ編/筒井康隆

 パロディ編を銘打つだけのことはあり、収録短編のほとんどに底意地の悪さがべったりはりついているわけですが……筒井康隆の小説は別にパロディしてなくても底意地が悪いだろと思わなくもないですが……原点が異なり、さらにそこからの飛躍も多岐に渡った結果、本作はバラエティ豊かな実験小説集となっています。小説という家の天井のあっちこっちに頭をぶつけてまわるような自由すぎるアルバムであり、ページのどこを開いてもなんか変なことが書いてある。個人的なベストは2つ。「読者罵倒」は、タイトル通りの一発ネタのように見えて、「罵倒」という1テーマで語彙と可読性の限界に挑んだテキストスポーツとでも呼ぶべき代物。「小説「私小説」」は、私小説作家が書いた「私小説」を、実際に起きた出来事との差異を露わにする形で「小説」として描写するという眩暈のするような1作。言うなれば、「一人称視点の小説」を三人称視点で描写した小説であり……この意味がわからなすぎる構造を、実際に成り立たせてしまう技巧にはほれぼれします。


死体の汁を啜れ/白井智之

 豚の頭を被った死体。胃袋が破裂した死体。死体の中につめられた死体。日本最悪の犯罪都市・牟黒市では今日も新たな死体が見つかり、悪徳警官とヤクザが隠ぺい工作に東奔西走する。……「奇妙な死体」を題材にした、連作短編本格推理小説なのですが……いやあ、白井智之って、ひょっとして、現代日本で一番の推理小説作家なんじゃないでしょうか。そう思ってしまうほど、水準が高い。ちょっとおかしいくらい、高い。収録されたホワイダニットの全てに読者の発想の上をゆく奇想が準備されており、かつ、その手がかりは事前に堂々と作中で示されている。驚きがあり、納得があり、そのいずれにも図抜けた「おもしろさ」が備わっている。推理小説というジャンルにおける王道を、この上ない完成度に仕上げており、まったく文句を言わせない。今までの作品と比べ異形性は薄いのですが、その代わりに白井ミステリの持つ高い地力を直で味わうことができました。あと、悪辣ながらもユーモラスなキャラたち、そして何より牟黒市の最悪ぶりにときめきました。シリーズ化しないかなあ。この町とまだ別れたくない。


八月のくず/平山夢明

  平山夢明短編集の新刊!やったー! 酔っ払いの反吐と血まみれの臓腑が混じった肥溜めの中に、ショートケーキのいちごが1つ転がっているこの感じ。徹底的に陰惨で、露悪的で、悪趣味なのに、どうしてこんなにもロマンチックで、爽やかなんでしょうか。ポエム、そう、ポエムです。このポエム力(ぢから)に殴られたくて、撫でられたくて、私は平山作品を読んでいる。基点となるのは地獄の底の底にたまった煮汁で溺れているような現在であり、そこからほんの少し上昇しただけの相対的な救済を世界一美しくうたい上げる詩情がこのアルバムにはある。あるいは、煮汁のたまった鍋の底をぬいて、最早なにもなくなった「空」を見せつける絶望がこのアルバムにはある。個人的なベストは「祈り」「ふじみのちょんぼ」「あるグレートマザーの告白」の3つ。中でも「祈り」は素晴らしく、タイトル×平山夢明×「交通事故で娘を失くした夫」の掛け算において、私が想像しうる限り最も理想的なものでした。あんまりにも望み通りのものを見せられて、読み終わった時、赤ちゃんのようにキャッキャと喜んでしまった。





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