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最近読んだアレやコレ(2022.07.17)

 アウトプットの気分になんねーな、と感想行為を2ヶ月ほどサボっていたら、太陽がこちらに敵意を向け始め、これは命がある内にちゃんと感想行為をしておいた方がいいなと思った次第です。背筋をただし、やっていこうと思います。小説は連休か出張中でないと読む気にならず、基本的に漫画ばっかり読んでいたので、今回とは別に漫画オンリーのアレコレも1回挟んでおいた方がかいいかもしれない。近況報告としては、最近、加工肉にはまっており、スーパーで新しいのを見かける度に買っているのですが、ジョンソンヴィル(デカくて高いソーセージをよく売ってるところ)のグリルパティがとても美味しくてよいですね。食べている時の思考が3割くらい、「肉だ!」という現状認識に支配されるほどに、肉々しくて、いい。

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リアルの私はどこにいる?/森博嗣

 近未来。物理肉体が行方不明になり、ヴァーチャルから戻れなくなるトラブルが起こる。WWシリーズ第6弾。WWシリーズの世界は、前シリーズから引き継いだ通算16冊に及ぶ時間経過の中で様々な変化が起きており、中には非常に大きなイベントも含まれているのですが(今作で起きたヴァーチャル空間上で独立国家が誕生する、などは最たるものでしょう)、それらの出来事はあくまでもセンセーショナルに演出されることはなく、淡々と受け止められ、思考の材料のひとつとして提示されるにとどまります。本当に劇的なものは、出来事それ自体ではなく、それについて「考える」ということの中にある。涙が出るほどの美しい衝撃は、自分の思考が生じるスパークからしか生まれえない。では人間の本質はヴァーチャルなのか。それならば、「リアルの私はどこにいる?」 ……「考える」ことを描いた本作は、勿論、その結論自体に意味はなく、その過程と発端を肝に据えています。問いかけることは、答えることよりも価値がある。それは、このシリーズに通底しているものでもあるように思います。


BLEACH Spirits Are Forever With You(1~2巻)/成田良悟、久保帯人

 漫画『BLEACH』のノベライズ。続編「Can’t Fear Your Own World」を読むために再読。エンタメ作品としては未だに自分のオールタイムベストの1つとして輝いている傑作で、数年ぶりに読み返してもその評価は変わらないものでした。3人の魔人が1人の女を巡って殺し合う。1人の人間が女を守るためにヒーローになる。魔人たちの「強さ」の由来はケレン味たっぷりに演出され、その由来を元に組み立てられるシナリオは、ドミノ倒しのように滑らかに噛み合い、カタルシスに向けて収斂されてゆく。動物的な悦楽と理性的な快楽が織り込まれてできた「おもしろさ」は、巨木のようにぶっとく満腹感があります。また、本作は原典『BLEACH』の重要な命題でもある、魔人たちとは別種の「強さ」の尺度……「恐怖」と「勇気」の関係性を描くものでもあるでしょう。本編主人公・黒崎一護くんが担ったその役割を果たしうるものとして、ドン観音寺を登板させるセンスは目を見張るものがありますし、彼の語り部を藍染が務めていることは、本編最終回を踏まえると慧眼が過ぎます。原典の芯をがっちりと噛んだ上で開かれる風呂敷の全てに、その1歩先をゆく新しい解釈と挑戦的な創作が満ちている。2次創作として、メディアミックスとして、個人的には理想的な作品だと思います。


オルゴーリェンヌ/北山猛邦

 海に沈み滅びゆく世界の中で、娯楽は大人たちによって検閲されていた。オルゴール職人が集う孤島で起きる連続殺人。集うのは音楽と推理小説に狂った少年少女、そして少年の検閲官。落日の中で、最後のピンに向けてオルゴールは歌い、探偵の音楽を奏で続ける。鼻白んでしまうほどの詩情、そして「推理小説」への自己言及が破裂しそうなほどに詰め込まれた本作の陶酔ぶりは、ある意味ではとても幼いもので、読んでいて少し恥ずかしくなってしまうのですが、それでも、これだけのものを完成させるためには、その陶酔こそが絶対に必要であったと確信させる気迫を備えています。本格推理小説という閉じた小箱を開き、誰もいない海に向けて自分たちだけの言葉を放ち続ける、身勝手で、一方的で、オートマチックな自分に酔った歌声。それはまさしく、オルゴールそのものであり、オルゴーリェンヌでもあるでしょう。物語それ自体は勿論のこと、フレーバーや世界設定、そして何より死と殺人と謎解き、そして探偵と『本格推理小説』の全てが、一個のオルゴールとして完成しているその完全性は本作に悪魔的なまでの魅力を与えており、読む人を狂わせるに足る力を帯びています。傑作というより、劇薬と言いたい代物。おもしろかった。学生時代に読んでおきたかった。


BLEACH Can’t Fear Your Own World(1~3巻)/成田良悟、久保帯人

漫画『BLEACH』のノベライズ。前作SAFWYが原典と小説のマリアージュによる進化を見せた傑作であるならば、本作は、ひたすらに原典に殉じその独特な作風自体もトレースしうる精度を見せた逸品だと思います。本編最終回で示された「恐怖」と「勇気」の別解に到達するこのお話は、題材的には原典の一歩先をゆくものでありますが、その問いを追いかける過程の全てが、徹底してBLEACHナイズされています。キャラクターと作品世界のREALを「おもしろさ」よりも優先することで生じる、血肉の通った歪さこそがBLACHという作品の凄味でありどうしようもなさだと私は思っているのですが、このノベライズではその特異なバランスが(……それが頂点に達していた破面編ほどではないにせよ……)千年血戦編ほどの配分で適用されており、読んでいる時の「ああ、BLEACHってこういう変な漫画だったなあ」という手触りの再現度はちょっと恐ろしくなるほど。そして、その歪さを飲み下せるものとするために、突き詰めて描くキャラクターを檜佐木修兵に1人に絞り、彼ならば別解に到達しうると目算し、見事的中させたことは、やはり原典の芯を掴んでいるからこその慧眼であると思います。歪な個性をロジカルに再現し、変な漫画を変な小説に置換する技術力。前作とはまた違った挑戦的な創作であり、やはり理想の2次創作だと思います。


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