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最近読んだアレやコレ(2020.12.31)

 2020年最後の読書感想文になりますが、書き始めたのが12月31日22時50分なので、記事をアップするのは普通に年が明けてからになるかもしれません。ただ、今回扱う4冊はいずれも年内に読んだものであるため、タイトルのナンバリングは12月31日に固定しておこうと思います。年の瀬ですね。私の両親は、年末気分を味わいたいので紅白は観たいがTVの音声が嫌いなので、無音のまま紅白を流して「この歌手は口を大きく開けているなぁ~」など言いながら笑い合うという奇癖を持っており、私はそれをおもしろがっていました。彩色豊かな無音の紅白が、静けさを保ったままゆくとしくるとしに移り、画面の彩度がフッと下がる瞬間が好きでした。TVは持っていないの今は紅白を観れないのですが、この時期になるとそのことを思い出し、ちょっと惜しい気持ちになります。

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ツクツク図書館/紺野キリフキ

 再読。先日読み返した『キリハラキリコ』が抜群におもしろかったので、同作者の2作目も読みました。読んでて思い出したんですが、こっちも読んだことがありました。つまらない本しか収蔵していない奇妙な図書館・ツクツク図書館を舞台にした、ヘンテコな職員たち・利用者たちの悲喜こもごも。他人の家からつまらない本だけを盗み出す『運び屋』の師弟のお話や、猫らしく鳴くことができない読書家の黒猫のお話など、前作同様、奇妙なショートショートを積み重ねてゆく型式が、スナック感覚で楽しめ、やめどきがつかめない。牧歌的で童話のようなおだやかさをたたえながらも、要所要所でぎょっとするような生々しさ、残酷さがプツプツ顔をだすのが非常に癖になります。なんというか、七味をかけた茹で新じゃがみたいな小説です。ほこほこぽこぽこ湧いてくる不思議な物事が、結びつき、ゆるうくゆるうくお話を形作ってゆく。あと、主人公の「着ぶくれ女」(本作は固有名詞がほぼ登場しない)の、とことんどうしようもない人間のクズでありながら、全く自分を飾らない姿が妙な愛嬌を持っているという造詣が個人的には非常に癖(へき)でした。


るん(笑)/酉島伝法

 酉島伝法の新作だ!やったぁ~! スピリチュアル・エセ科学が科学を淘汰し、価値観のスタンダートとなった日本を舞台としたSF短編3つ。「腋の下で毬藻が回転しているような異物感があった」「生海老の殻でも剥くような音をたてて錠剤を掌に落とす」などの、有機的な異物感を持つ美文・怪文が、読む者の五感を著しく刺激し、ゆっくりと助走をつけながら脳に穴をこじ開けてゆく。酩酊に誘われるままにふらふらと自らの頭の穴に近づいた読者の隙をつき、大量に注ぎ込まれるのは、ことばのオーバードーズを引き起こすほどの造語・造語・造語の嵐。日常からかけ離れた異界舞台であった前作と比べ、我々の日常と地続きであるからこそ、そしてそれが、善意の押し付けや同調圧力、ヒステリックな科学性の否定といった、強烈な「厭さ」の毒を含んだものであるからこそ、このオーバードーズはとんでもなく、酔える。3つの短編は、それぞれ働き盛り・老人・小学生の3世代を主役としており、ゆえに、この異様な世界はより立体的に、魅力的に立ち上がってゆくこととなります。私のベストは、老人編の『千羽びらき』。痴呆の進行と病熱の眩暈が、この世界の読み心地と合わさり、よりいっそうの酩酊感をもたらしており、立ち上がることすら困難です。何より「千羽びらき」といアイデアの邪悪さがとんでもなく、読んでいてもどしそうになる。


新本格魔法少女りすか3/西尾維新

 再読。シリーズ第3巻。敵幹部『六人の魔法使い』との戦いのみで構成された巻なのですが、鳴り物入りでホームから旅出たにも関わらず、1場所目のホテル内で幹部全員倒しそうになっているのは、西尾作品らしい奇の衒いぶりで好もしい。 何も解決できない推理を振り回し続け、変わることのできない少年を語り手にすえた同時期の別シリーズと比するように、本作の語り手は、強力な推理を奮い続け、どこまでも変わり果ててゆくことになります。それは読者目線では好もしい人間性の獲得であるものの、彼自身からすると、彼を大目的から逸らしてゆく「痛みと出血」を伴う変身であり、成長であることでしょう。それと共に力を増してゆく彼の言葉は、容易に事件を解決し、しかしそれらの全ては、とりたてて意味もない「推理小説の見立て」の中に飲み込まれてゆく。どこまでも変わってゆく少年は、どこまでも変わらない世界を、大人になる前に変えることができるのか。少年少女の冒険譚として、王道に回帰し、空虚なジャンルの自家中毒に遊ぶさまは、まさに「新本格」と呼ぶにふさわしいのかもしれません。ところで『六人の魔法使い』の元ネタって、やはり『六人の超音波科学者』なんですかね?


新本格魔法少女りすか4/西尾維新

 シリーズ最終巻にして、13年ぶりの新作。再度物語の火を入れるには、あまりにも13年という期間は長すぎて、知恵と勇気の少年少女の冒険譚は、今や完全に死骸となっていたはずでした。「変わり果ててゆく少年少女」の停止という矛盾を打ち破り、再度動き始めるおとぎばなしは、作者とキャラクターにそのツケを払わされるように、過去最大級と激痛と出血を伴わせ、「変わり果てる」と称する事すら生ぬるいとばかりに、壊し、切り刻み、殺し尽くして、大人へと成長させてしまいます。これは果たして、どこまでも駆けてゆく子供たちの物語だったのか、もうどうしようもなくなってしまった大人たちの物語だったのか。在りし日の冒険は「長かった少年の夏休み」として、今や、振り返る過去でしかないのか。まっかなおとぎばなしは、どこに赤を挿していたのか。痛みと出血は全てを掻き混ぜ、時間すらもでんぐり返し、この背伸びをしすぎて歪んだボーイミーツガールに相応しい、醜悪で美しいハッピーエンドをもたらせます。意味もなく繰り返された「新本格ミステリ」の見立てが、ついに、子供らしく身勝手な、出来損ないでご都合主義の推理小説を完成させる時が来たのです。13年待った甲斐がある素晴らしいグランドフィナーレでした。軍艦島のくだりで泣いてしまった。


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