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『<あの絵>のまえで』原田マハ を読みました。

音楽を奏でることも、写真を撮ることも、美術を鑑賞することも、ましてや制作することなどは誰も興味がなく、そういった芸術的なこととは全く無縁な家庭で私は育ちました。
子供の頃、私が知る限りでは地元の瑞浪には美術館もなかったので“美術館に行く”などということはどこか遠くの世界のことで、そういったことが理解できる特別な人たちが行くところだと思っていました。と、いうよりたぶん図書館や博物館は知っていても美術館というものを知らなかったような気がします。

原田マハさんの短編集『<あの絵>のまえで』は、実在する美術館に実際にある絵に1つずつの物語が描かれています。
ひろしま美術館の<ドービニーの庭>フィンセント・ファン・ゴッホ、大原美術館<鳥籠>パブロ・ピカソ、ポーラ美術館<砂糖壺、梨とテーブルクロス>ポール・セザンヌ、豊田市美術館<オイゲニア・プリマフェージの肖像>グスタフ・クリムト 、長野県立美術館<白馬の森>東山魁夷、そして直島にある地中美術館の<睡蓮>クロード・モネ。
母親との思い出、旅立つ恋人との約束、セザンヌとの対話、おばあちゃんとスガワラさんとの約束、亡き恋人との約束…
やさしさやせつなさを含んだそれぞれの物語がどれも背中にそっと添えられた手のように温かい。
そして1つ読むごとに、違う次元にあると思っていた絵と自分との間にあった透明なドアがスーッと開いたように感じました。
そしてこの本を持って美術館に行きたい気持ちがじわじわと湧いてきました。
たとえ美術とはだとか、芸術とはなどという難しいことはわからなくても人生の中でたった1枚だけでも、心に留まる作品に出会えたら素敵だなと思います。
ふと思い出した時には背中にそっと添えられた手のような温かい場所がそこにできるような気がします。

原田マハさんの小説を読むのは初めてでしたが、以前に読んだ『すべてのドアは、入り口である。』を本棚から探してもう一度開いてみました。
するとそこに「ここで私たちが現代アートへの入り口をつくれればいいなと思っています。」と書かれていました。
マハさんの小説はまさにそういう本だったんだなぁと私の中で今目の前にある二冊の本がつながりました。

ドア、開きました。

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