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『ルビーが詰まった脚』ジョーン・エイキンを読みました。

オオカミがしゃべったり、服を着たうさぎが二本足で走ったり、猫が長ぐつを履いていたり…
まだ行ったことのないどこかには、ひょっとしたらそういうことがあるのかもしれない。
幼い私はどこかにあるのかもしれない未だ見ぬ世界にワクワクしながら絵本や童話を読んでいた。

小学生になったばかりの頃、風邪をひき、病院へ連れていかれ薬をもらった。
その夜、夕食後に飲まなければいけない粉薬が苦くて飲めず、水に溶かしたり砂糖を加えて混ぜてどろどろにしたりしてグズグズしていた。
そんな私をしばらくは泳がせて、ついに見兼ねた母に叱られて玄関の外へ出された。
鍵をかけられた玄関ドアの前で5秒ほど泣いた時、ふと足元が明るいことに気が付いた。
見上げると空にはまんまるの月がピカピカと光っていた。
その瞬間に、こんな夜には犬や猫や虫たちの話し声が聞こえるんじゃないかと思い、夜の住宅街を裸足でかけ出して家族をあきれさせた。

姉のお古の世界のむかし話やクリスマスに買ってもらったジンジャーブレッドマンの絵本がお気に入りだった私は、大人になって知ったチョコレート工場の秘密などのロアルド・ダールの世界にもすっかりはまった。
そしてもっと大人になった今、ジョーン・エイキンの『ルビーが詰まった脚』に出会った。

その不思議なタイトル、フォント、色、さかたきよこさんが手がけた装画、帯にある文章、そしてカバーを外した本体のデザインと、装丁の全てにがっしりと心をつかまれた。
十編の話はどれも子供のころに感じた、知らない森の中へ探検に行くようなワクワクがありつつ、現実の世界にあるようなせつなさがスッと差し込まれている。
もし子供の頃に読んでいたらどう感じたのかは今の私にはわからないけれど、これは今出会えて良かったなと思います。

キンバルス・グリーンに登場する、孤児院から里子を引き取り生活をしているヴォーン夫人、ヴォーン夫人がビンゴに行っている夜に外で待たされる里子のエメリーン、その友達で昔は有名な音楽家だったというヤキーモーさんもノラ猫のスクローニーもきっと今もどこかにいる。

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