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創作おとぎ話 うさかめサイコロジー かぐや篇<連続3日掲載:後篇>

前回までのお話) 白ウサギは、月への興味を実際に行くことにまで発展させ、とうとう宇宙船「かぐや」を作ってしまいました。そして月への旅を競争にしたいとカメをさそうことにしました。
 
 
月への競争の話を聞いて、自分で走らなくていいなら勝てるかもしれないと思ったカメのおじいさんは、勝負を受けて立つことにしました。
大きくて石のように物静かだったカメの赤ちゃんは、今も変わらず物静か。おじいさんからは石ちゃんと呼ばれ、愛されています。
 
石ちゃんは、にっこり微笑ほほえんだあと、「がんばるよ!」と言って、甲羅こうらの中に首を引っ込め、「集中モード」に入って考え始めました。内向型の石ちゃんは、ひとりでジーッと深く考えるのが大好きです。

 
「集中モード」は1ヶ月続きました。
 
そして、ある日。甲羅の中からひとしずくの水がポトリと落ちました。
 
「おや、石ちゃん、泣いているのかい?」
おじいさんが優しく声をかけると、石ちゃんは首を出して、コクリと小さくうなずきました。

 
「ひとりで考えていたら、どうしたらいいかわからなくなってしまったんだ」
 
【ワンポイント心理学】
内向型は刺激を避けるため、ひとりになりがち。さわがしい場面から気持ちを落ち着けるためにひとりの時間をもつのは、必要でとてもいいことだが、行き過ぎると孤立こりつしてしまうことも。内向型はひとりの時間を大事にしながら、外の世界とのつながりも適度にもつよう自分で調整すると心のバランスがとれる。
 
 
「どうやら、プレッシャーをかけてしまったようじゃな。早く気づいてあげられなくて済まなんだ。安心せい、何も独りで抱え込むことはないんじゃよ。よし、知り合いのハヤブサに何かいい知恵がないか相談してみよう」
おじいさんは早速ハヤブサのところに行き、事の次第しだいを話しました。
そして帰ってくるとこう言いました。
「ハヤブサのおじさんは空を飛ぶのが得意だから、月まで連れて行ってくれるそうじゃよ」
 
石ちゃんの顔がパーッと晴れ上がりました。
これで勝負の準備は整いました。

 

そして、満月の明るい夜のこと。
 
いよいよ出発の時がきました。
世紀の大レースを見ようと会場は様々な動物たちでにぎわっています。
 
さあ、カウントダウン。動物たちは大合唱。
5・4・3・2・1・ゼロ 発射!
 
白ウサギは宇宙船「かぐや」で、石ちゃんはハヤブサに連れられて、大空のかなたへとグングン速度を上げていきました。

 
「ハヤブサは威勢いせいはいいが、おっちょこちょいじゃからのう。上手くやってくれるといいが」
カメのおじいさんはハヤブサと石ちゃんが飛び去った方向を、首を伸ばしていつまでもいつまでも心配そうに眺めていました。
 
 
さて、はるか空の上。
 
白ウサギの目には、まん丸の月がどんどん、どんどん大きく近づいてきます。
そして、いつしか目の前は真っ白な光だけの世界になりました。
あまりのまぶしさに目を閉じて飛び込んだ先には・・・。

 
さらに一層の「白い世界」。
ふわふわ、モコモコ、たくさんの白ウサギが所狭ところせましとあふれ返っていました。
 
勝ったのは竹から生まれた白ウサギ!
早速、月のウサギと仲良くなった白ウサギは、勝利のお祝いにみんなでおもちをついて大盛り上がりです。山のようにできたお餅は月一面をおおい、地球から見えるその日の満月は一層白く輝いて見えたそうです。

 

一方、カメの石ちゃんとおっちょこちょいのハヤブサコンビ。
なんでも月を通り過ぎて、はるか遠くの小惑星「リュウグウ」まで行ってしまったとか。シンプルな装備で、そんな遠くまで行ってしまうとは!
長旅を黙々と続けた石ちゃんとハヤブサにあっぱれです。たどり着いたのは月ではありませんでしたが、これはこれで偉業いぎょうと言っていいでしょう。

 

白ウサギとカメの石ちゃん。同じ日におじいさんに拾われ、愛されて育ち、宇宙への冒険という思いがけない人生の旅へと発展していきました。
それぞれたどり着いた場所は違いますが、なんだかそれぞれの個性に合っている感じです。あるいは、個性がそこへ導いたのかもしれませんね。
 
あなたの人生の旅はいかがですか?
困難あり、計算違いありといったこともあるかもしれませんが、振り返ってみるとあなたらしさという一本の道が見えるかもしれませんね。
 
それでは、引き続き、あなたらしいあなたの旅を!

 
ボン・ボヤージュ!
 
 
おしまい
 
 
JAXAジャクサ月周回衛星つきしゅうかいえいせい「かぐや」は2007年9月、「はやぶさ2」は2014年12月に打ち上げられました。「はやぶさ2」は小惑星「リュウグウ」の探査を経て2020年12月に地球に帰還きかんしています。


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