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ルーツ

前妻は幼少時に台湾から日本へ移民し、60年日本で生活している。生まれ故郷の事はもうよくわからない、言葉も忘れた、両親も亡くなった…。だからこそ、日本には帰化しない。自分は台湾人だったという証明はもうパスポートしか残っていないからだと言っている。日本に反感があって帰化を拒否しているのではない。

 彼女は日本の学校で教育を受け、日本語はネイティブだ。だいたい、両親が戦前生まれの台湾人で台湾の家庭内でも日本語で生活していた人達だった。彼女は外観も日本人と大きく変わるわけではない。帰化したら、もう完全に日本人になってしまうだろう。

 ちなみに前妻の両親が日本への移民を決断したのは台湾は戦後、住民の意思に反して中華民国の植民地になってしまったから。両親の第一言語は日本語だった。特にお父さんは中国語が話せなく、また台湾語もそんなに達者ではなく、日本語が一番うまく話せたそうだ。だから、台湾で仕事につくのは無理だ。そして日本人のままでいたいからと思い、日本へ移民したそうだ。

 実は前妻は小学校2年まで東京にある中華学校に行っている。お母さんが将来中国語が重要になると思ったからだそうだ。でも、お父さんが娘を中国人にしたくない!と反対して3年の時に日本の公立小学校へ転校させたそうだ。当時、中華学校は小学校3年からが中国語による授業で、それまでは日本語中心だったそうだ。

 本人が日本人と明らかに外観が違い、母国語が流暢に話せ、さらに自分の意思で日本へ移民していたら、多くの人が早々と日本へ帰化するだろう。パスポートは日本パスポートでも周りからよくも悪くも外国人として見られるし、個人差はあるだろうが、自分が外国出身である誇りや外国語が話せる自信も持てるかもしれない。

 僕にはアメリカ生まれ育ちの従姉妹がいる。日本人の母と日系アメリカ人の父との間に生まれた。外観はどこからどう見てもアジア系だ。英語訛の強い簡単な日本語しか話せないが、日本のパスポートに拘ったりはしない。一応持ってはいるけど、自分にとっては何の意味もなさないし、必要ないから処理したいんだけど、どこへ行ってどうするのか全くわからないから、そのまま放ってあると言っていた。しかし、彼女自身が自分はアメリカ人だと自覚してしていても、その外観から、アメリカ人と見做されなかったり、嫌がらせを受けることもあるだろう。

 僕は自分の意思で台湾へ移住した。近い将来台湾側へ帰化するつもりだ。僕の外観も台湾人と大きく変わるわけではないが、中年世代で移住したこともあって、パスポートを変えたとしても、血統が日本人であることは、たとえ消したくても消せない。今後どう頑張ろうが、言葉の訛りや使い方、行動パターンなどで、台湾人とは見做されない。

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