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意麵(ì-mī)&汕頭麵(sòann-thâu-mī)

 意麵(ì-mī)はアヒルの卵、または鶏の卵が練り込んであり、かんすい(鹹水・鹸水)が使われた麵です。麵生地に機械で圧力をかけて成形する関係で、波打ったような形のものや、 真っ直ぐで平べったい形のものがあります。色は黄色いものと少し黄味がかったグレー色のものがあり、 保存しやすくするために意麵をさらに油で揚げて成形したものもあります。麵に卵が多く含まれているので油で揚げると膨らみ、サクサクの食感になります。そして汁を吸いやすいので、 このタイプの意麵は汁のある料理に適しています。揚げた意麵を使った代表的な料理に台南名物である田うなぎ入りの甘酸っぱい餡かけの鱔魚意麵(siān-hî-ì-mī)があります。

 台北では台南名物の鱔魚意麵が食べられる店は少ないですが、意麵の汁なし和え麵タイプのものは食堂や屋台でよく見かけます。和え麵タイプのもののタレには甜辣醬や海山醬などの赤い色をしたどろどろの甘辛いソースが使われたり、肉燥(bah-sò)と呼ばれる豚肉のそぼろがのせられていることもあります。

 実はこの意麵の起源については様々な説があります。よく聞く説だけでも四種類あります。 一つ目は台湾のオランダ植民地時代の後、台湾を統治した鄭成功の炊事兵であった中国の福州人が台湾台南の鹽水(鹹水 kiâm-chúi)で作った麵だという説です。それで鹽水意麵(kiâm-chúi-ì-mī)や福州意麵(hok-chiu-ì-mī)という名称もあります。

 二つ目は麵生地の塊を作る際にアヒルの卵を加えるので生地は硬めになり、麵生地を捏ねる時に強い力を出すことが必要なことから、元々は「力麵」という名称だったのが、力を込めて捏ねる度に「イー ! イー ! イー !」という声を出すので、その声の発音から意麵と名付けられたという説です。

 三つ目はアヒルや鶏の卵を加えた生地から作る麵の色が僧が読経や説法の時などに手に持つ道具である如意(にょい = 孫の手のような形状をしている)に似ているために意麵と名付けられたという説です。

 四つ目は伊府麵と呼ばれる今で言うところのインスタント麵の一種が意麵のルーツだという説です。清朝乾隆年の有名な書家 (1754年生まれ)であり、揚州の知府(ちふ = 地方行政区画である「府」の長官)の地位にあった伊秉綬(いへいじゅ)の家で雇っていた料理人によって作られたので伊府麵と名付けられ、後に略称の伊麵から意麵に変わってしまったという説です。

 インスタント麵の類は中国で生まれ、数百年の歴史があるとも言われていますが、台湾では昔、この類の麵は中国の汕頭(sòann-thâu)から移民した人達によって販賣されていたので、汕頭麵(soànn-thâu-mī)とも呼ばれていたそうです。しかし、現在の台湾で意麵や汕頭麵と呼ばれるものは一般的にインスタント麵とは考えられていないと思います。

 台北で見かける汕頭麵(sòann-thâu-mī)は基本的には意麵のスープ無し和え麵と同じです。しかし、その麵は一般的に平べったい形状が特色である意麵とは違って、 丸い筒状でカップ麺の麵のように不規則な湾曲(ちぢれ)のある麵です。沙茶醬(沙嗲:sa-te/調味ソース)とモヤシ、ニラ、豚のそぼろ肉などが加えられる和え麵です。この台湾北部で汕頭麵(sòan-thâu-mī)と呼ばれている麵料理は台南では汕頭沙茶意麵(sòan-thâu-sa-tê-ì-mī)と呼ばれているようです。

 また、汕頭麵も台湾各地で多少違うものになっています。例えば現在台北で汕頭麵と呼ばれているものは細い麵ですが、台南で汕頭意麵や汕頭沙茶意麵と呼ばれているものは太めの麵のようです。汕頭麵や汕頭意麵、汕頭沙茶意麵の特色といえば「沙嗲」や「沙茶醬」と呼ばれる調味ソースの味です。独自に調合したラード入り沙茶醬を使い、ラードも自分で作ったものを使う店があるようです。そして、そのラードと沙茶醬の配合の割合がちょうどよく、沙茶醬の香りが非常に濃厚だそうです。また、台南の汕頭沙茶意麵は台湾北部の汕頭麵よりも沙嗲(沙茶醬)が多めに加えられているようです。

 実は中国広東省の汕頭にも乾麵(スープ無しの合え麵料理)はありますが、沙嗲(沙茶醬)は加えられていない、つまり汕頭には汕頭沙茶意麵はないそうです。また、「伊麵」は中国の各地に普及しているようですが、「伊麵」という名称は変化していなく、台湾だけが「意麵」に変わってしまったようですが、実は日本時代の台湾人記者が1919年に中国福州へ遊びに行き、「意麵」という名称の麵を食べたことについて日記に残していたりもします。そして、1923年にはすでに台湾南部の鹽水(kiâm-chúi)で「意麵」という名の麵が出現しています。台南の「意麵」の発祥地は鹽水で、当時その地にいた福州人が考え出した製麺方法で作られた麵で、古くは「福州意麵」と呼ばれていたらしいです。そして、実はこの鹽水で福州人が作っていたとされる「福州意麵」も「意麵」という名称の麵料理も現在の中国福州ではどうやら見あたらないそうです。

意麵(ì-mī)
汕頭麵(sòann-thâu-mī)=沙茶(sa-te:調味ソース)とモヤシしか入っていないもの


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