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こたぬきたぬきち、町へ行く③

 バスが発車すると、窓の外に恐ろしいほどのスピードで景色が流れて行きます。
 たぬきちはかつてなく緊張しました。はらはらしながら、間違えないために、終点で下りる終点で下りると心の中で繰り返し唱えていました。

 (まだ下りない……終点で下りる……まだ下りない……終点で下りる……)

  バスが到着したのは、たぬきちがようやく落ち着いてきたころです。

 (ここだ!ここで下りる!)

 ほっとして下車しようとしたたぬきち。しかし、その時です。運転手のおじさんが、驚いた顔で呼び止めました。

「ああっ、きみ!ちょっと待ちなさい」

 呼び止められたこたぬきたぬきちは、運転手のおじさんよりもっと驚いた顔。まさか、正体がばれた?!

「な、何でしょうか」

「何でしょうかじゃないよ、きみ。ちゃんと運賃を払ってってくれなきゃ困るよ 」

「うんちん」

「そう、運賃!お金のこと。」

「おかね」

「ええ?もしかして……ないの?」

 たぬきちは正体がばれたわけではないようだと知って、ひとまず心が軽くなりました。そして、ズボンのポッケに入れてあった小さな木の葉をせわしなく出すと、運転手のおじさんにこう言いました。

「こここ、これでいいですか?」

「んん?」

 ちいさな手のひらに乗っているのはまちがいなく、葉っぱです。本当にただの、葉っぱです。

「……なんだ。ちゃんと持ってるじゃないの」

 おじさんは、たぬきちに差し出された葉っぱをいかにもふつうのお金にしか見えませんといった様子で受け取りました。そう、化けたぬきの子、たぬきちにとって、自分の姿を人間に変化させる大技とくらべれば、葉っぱをお金に見せかけるような術のほうがはるかに簡単なことだったのです。

「はい、ご乗車ありがとうございました」

 たぬきちは運転手のおじさんに、立派な人間の子どもらしく「こちらこそありがとうございました」とお辞儀をして、無事バスを下りました。

 当然ですがそこはもう、たぬきち一家が縄張りとする山の奥とは全然ちがう、人間だらけの町です。

   あこがれの映画館が近くにあるはずの、夢の町の入口なのです。

➃へつづく

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