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妖精家族

 流行りの妖精さんに罹患したのは夏の終わりのことなのだが、この度見事にまたもや家族全員が熱を出した。今回は新型ではなくて従来の感染症なのだが、年に2回も熱を出すのがまず情けない。このところ忙しくてまともな食事、睡眠をとれていなかったので免疫力はガタ落ちだった自覚はあるが、それにしてもゾンビのような土気色の顔をした鼻声の人間たちがのそのそと動き回る家を続け様に体験するとはおもわなかった。私は本当に寒さに弱いので、この時期は気を抜くとすぐ具合悪くなる。寒さだけではなく、私の怠惰(加湿器に水を足すのがめんどくさい、髪を乾かすのがめんどくさい、ぬるい風呂から出て熱いシャワーを浴びるのがめんどくさいなど)も要因の一つではあるのだが。
 断食して寝込んでいる父親と弟を尻目に大掃除をしていた母と私も大晦日に寒気が止まらず熱を測るとしっかりあがっていて、仕方なく水と薬を枕元に置いてひたすら微睡むことにした。頭や関節の痛みと顔の火照り、寒気と闘いながら1時間おきに目を覚ましてトイレに行って水を飲んで、気づいたら年が明けていた。
 その結果今年はろくに掃除ができなかった汚く雑然とした家で家族全員が死んだような顔で雑煮をすすりおせちをつついている。毎年ある程度年越しに向けて高める気持ちを作る時間が今年は全くなかった。それでも否応なく年は明けるしSNSは1年の抱負やお世話になりましたの挨拶で溢れかえる。
 自分が時間に取り残されているような押し流されているような寂しさと心許なさに縋る気力すらなく、ある程度平熱に戻った体をおしていつもの日曜日と同じように窓を開けて部屋の空気を入れ替え、洗濯物を干し、部屋を掃除してゴミを捨ててお茶とお菓子をお供にベッドで映画をみた。でもなんかそれはそれで心地よかった。ちなみに大晦日は、2022年に観た映画の中でもトップクラスに好きだった「もう終わりにしよう」をみかえして、やっぱ最高の映画、何度でも観たい、素晴らしいと思いながら寝返りをうったら動くのが億劫で枕元に置いといたコップの水を思い切り日記にぶちまけて綺麗なマーブル模様ができた。元旦は雑煮という最高の食べ物を食べながら推し芸人が楽しげに大喜利してるのをみれて幸せだった。もうなんかそういうのでいいよね。
 ハレとケの概念は大切なのだが、本当に弱っている時には当たり前の日常が恋しくなる。当たり前の日常が恋しくなるって言葉に結論するのめちゃくちゃ嫌だな。でもそれを実感できるのって大切だ、あ、これもなんかキモくてしゃらくさいわ、もうなんか無理だ、言いたいこととか特にないのに勝手に自分に課したノルマのために駄文を紡ぐの健康に悪そう、はやく全快したいからもう終わりにしよう。やかましいね。

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