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20170619診察日記 その1

◎病名:進行性乳がん(多発性骨転移・多発性肝転移)
◎治療歴:ホルモン療法→外科手術(右乳房全摘+腋窩リンパ節郭清)
→トモセラピー(骨)→アフィニトール →ケモセラピー ※この間、骨治療でゾメタ継続
◎治療スケジュール:アバスチン+パクリタキセル【再】‥2クールオマケで完了。今日はCTで効果を検証する。
◎おもな症状:骨髄抑制(免疫↓)、鼻血、睡眠障害、倦怠感など。休薬中につき、わりと元気。

京都から大阪の「がんセンター」までやってきた母ハルエ。助っ人として、ハルエの妹(=叔母)も一緒だ。今日は肝臓のCT画像を撮影→その結果を踏まえて、主治医と今後のことを語らう会が行われる。

いまの先生とハルエ達は初対面。全員やや緊張気味のなか、懇談会が始まった。まず先生が丁寧に挨拶をされて、ここ半年くらいの経緯をざっくり伝えた。

 1)【2017年1月】休憩治療としてゆるい抗がん剤(+ホルモン療法)で治療していたが、効かなくなった→2)【2017年4月】別の抗がん剤治療に変えてみたものの、うまくいかなかった →3)【2017年6月】パクリタキセルという抗がん剤(前に実施し効果があった)に戻して、免疫が落ちているもののなんとか続けている

つぎに、1)→2)→3)の順にCT画像を見ながら、先生が解説をする。

1)‥このときは転移先の肝臓で、がんが少し勢いを増してきたところです→2)‥かなり進行してしまっています。肝臓全体が腫れあがっていて、危険な状態でした→3)‥一見、腫瘍が増えたようにも見えますがそうではありません。肝臓の腫れが縮小しています。放射線技師の見解も、進行をコントロールできているとのことでした。

患者は大きく深呼吸し、胸をなでおろした。とりあえず、最悪の事態は回避できたようだ。今日の時点でさらに進行していたら‥‥もう治療を打ち切る話になるところだった。そうなれば、家族はとても動揺したに違いにない。

「ただし‥」

先生はこう続けた。

「なんとかこのまま、今のお薬で治療をしていきますが、もちろん病気が治るわけではありません。そして、容体が急変(突然悪化)する可能性も十分あり得るんですね」

一同、沈黙。

「エリィさんは、それを理解したうえで今後のこと(残された期間をどう生きていくか)を考えておられると思いますが、ご家族でも、その認識をもっていただきたいと思います。治療はあくまで、日々を楽しく、ふつうに生活ができるためのものです。治療のために生きているわけではありません。治療の影響で、ずいぶん白血球が減ってしまい、体もギリギリのところで耐えています。抗がん剤の薬は、まだ数種類の選択肢はありますが、必要以上に体へ負担をかけるべきではないと考えます」

ハルエが質問した。

「あの、この抗がん剤治療は、あと何回あるのでしょうか」

これは抗がん剤について受ける質問第1位だ。患者もこれまで、この質問を投げかけられ続け、そしておんなじ答えを繰り返してきた。先生も同様に回答する。

「何回ということはありません。薬が効いてくれる間はずっとです。治す治療ではありませんので‥‥そして、薬はいつまでも効いてくれるわけでもありません」

いちおう、娘もそう説明したんですけど‥これは答えのようでそうでない印象を受けるだろうね。そして、たぶんハルエは本当に理解はしていない。それでよいと思う。たとえ理解度が40%でも30%でも、じぶんで質問して先生に答えてもらう‥それによって、じぶんなりに解釈してもらえれば。あと、主治医と家族との、信頼関係も築いてもらわないと。

今度は、患者と同じ「乳がん経験者」兼「もと看護師」の叔母が、まともな質問で挽回する。

叔母「抗がん剤以外の治療方法について伺います。新薬がつぎつぎに出ていると聞きます。免疫療法など、ほかの治療方法についてはどうお考えでしょうか」

先生「免疫療法というのは、オプジーボなどのことでしょうか。乳がんでもトリプルネガティブ(…通称トリネガ。ホルモン療法など、代表的な3つの治療が効かないタイプ←すごくざっくり言っております)の患者さんが対象なんですね。エリィさんはそれに当てはまりません。仮にチャレンジするにしても、あまり効果は期待できないと思います。これまでに新薬(アフィニトールとか)を試したときも、効果はみられませんでした。それから、新薬は副作用もちょっと強いと言われています。治療はあくまで、抗がん剤の中から薬を選んでいく‥これしかないと思っています」

患者としても医療に関しても先輩の叔母。今日は来てくれて本当に助かったよ。これがハルエだけだったら、トンチンカンな質問を繰り返すばかりだったであろう。でも、本来はそれが現実なんだね。ハルエは70歳。編み物が得意な元保育士であり、医療のことはわからない。だからこそ、今日は先生に会ってもらった。わからないなりに、質問し、話を聞いてもらえればよい。

ハルエは最後に元気よく、「またいつでも来ますので!」と真面目をアピールし、診察は終了した。(つづく)

===診療明細===

再診料…73点

医学管理等‥100点

画像診断料‥2925点(造影剤のCT検査分)

投薬料‥56点(肝臓+整腸剤3週間分)

合計→3154点(31,540円)※患者は3割負担/高額限度額超過で支払いゼロ