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技術を市場に「実装」する事の本質とは

近年デジタル技術の発展は著しく、様々な人間の活動において文明的豊かさが浸透し、社会として熟成しつつあるのは、自分を含め多くの方が日々生きている中で徐々に感じてきていると思います。革新的なサービスやテクノロジーにより多くの事を享受している実感はありつつも、感動するような感覚に至った事は正直あまりありません。逆にいえば、それだけデジタル技術の導入を基軸にして、純然たる他の領域を含むあらゆる課題の解決が実現し、不自由さがかなり払拭されたという事だと思われます。

そこで、最近生活者の立場から感じる事は、市場の変化における恩恵そのもの縮小化が促進しているため、サービスを作るサプライヤー側の打ち手は、ただ技術的発達に固執するのではなく、別視点でのアプローチも同時並行で求められるという点です。

そこでそのアプローチという点においてある程度の具体性の下、何が重要視されるのだろうかという事を考えていきたいと思います。

1.技術の応用範囲の拡張

FinTechやGovTech等、いわゆる「XTech」のようなデジタル技術を軸とした既存業界との掛け合わせによるサービスの展開は、よく見られる事でしょう。

例えば、Airbnbは身近で日常的に利用している人が多いかもしれません。これはデジタル技術とホテル業界の掛け合わせで生まれたビジネスであり、そのような発展は爆発的に浸透してきています。

トレンドのような様相があり、一見今後のビジネスにおける定石なのではないかと思うかもしれませんが、応用範囲の幅が広がれば広がる程、その領域、業界特有の規制や倫理的規範等によって足止めされてしまう事も大いにあります。ここでいう足止めとは、市場への浸透速度の低下や丁寧なアプローチの欠落による事業撤退を意味しています。

つまり技術の応用範囲の拡大は社会的に意味があり、大切な機会であるのは間違いない一方で、アプローチの方法が成功において大きな要因となり得るという事です。

2.業界構造への「専門的知見」の獲得

技術の応用範囲が拡張され、様々な業界との接点が生まれる故に、サプライヤー側のアプローチの仕方には注意を支払わなければならないという事は上記で述べてきました。

そこでその具体的な内容として挙げられるのが、対象とする業界の構造への理解に努力を傾注する事です。

例えば、上記に例として出したAirbnbについて考えてみた時に、まず理解するべき事は宿泊施設を提供する側に各国に応じた何かしらの規制がないかとう点やその規制が具体的にどのようなものであるかという、専門的なレベルの認識をする必要があると思います。もしくはそのようなメンバーを置くのも選択肢の1つです。旅館の場合、自治体の許可やそこから要請されるポイント等もあるため、細部までの把握を前提として、その上でサービスの提供を行う事が求められます。

更に、規制や政治との関連性が高まる中で、上記のような理解をした後、具体的にどのような実装が求められるのかについてもソーシャルな視点で考える必要があります。つまり、業界構造を理解し、具体的なアクションにおける知見も同時に必要となります。

そこで、例えばNPOのようなソーシャルセクターの方々のノウハウを専門的に学び取る事も1つの起業力に繋がってきます。NPOが行なってきたサービスは公的なものが多く、そのサービスの拡大を意図すると政治との関係性や政策活動の必要性が高まり、そのハードルを超えない事には一定の成功が導かれません。そのため、そのハードルを飛び越え、社会を変えてきたNPOの方の経験は、デジタル技術を多様な業界に実装していく上では重要であり、より良いビジネスを生む結果になるでしょう。

このように業界構造そのものへの前提知識の習得、そしてその上での規制との関わり合いにおける実践の知見がサプライヤー側の成功要因の1つになりえます。

では、他にはどのような成功要因があるのでしょうか。

3.理想へのロードマップ

ここは今回のテーマの肝になってくる所です。上記では業界構造への専門的知見の必要性について書きましたが、様々な規制への対応を行う上では、実現したい理想と現実の課題にギャップを埋めるための緻密なロードマップが重要な視点となります。そこで、まず「理想」という点について触れていきたいと思います。前回のnoteで執拗な程に理想を持つ事の重要性には触れてきましたが、再度触れたいと思います。

理想というものは、辿り着きたい状態の事をさしており、その具体性が特に大切になってきます。というのは、理想があるから課題が見えてきて、そのギャップが明確となり、そのために何が必要かを考えるからです。

そこで、辿り着きたい状態というのはどのようなものでしょうか。これは短期的な便益ではなく、長期的な社会的変革です。ここで注意が必要なのが、事業を通してのアウトカムではなく、社会においてどのような貢献、そして変革に繋げるのかといった点について考え抜けているかどうかです。

逆にいえば、理想にインパクトがないような会社は生存不可能といっても良いでしょう。理想が不明瞭だから課題も不明確で、故にデマンド側の視点ではなく、サプライヤー側のエゴが働き、描くロードマップも中途半端なものとなり、当然市場にも受け入れてもらえない結果となります。

そのような失敗に陥らないためにも上記に書いた理想の設定は欠かせません。

このように正しい理想を描く事で、課題は必然的に抽出されると思われます。(課題の抽出においても重要なポイントはあると思いますがここでは省略します。)

そこで、次の段階として大切になるのが理想と課題の間にあるギャップを埋めるための現実的なロードマップの作成です。現実的であるかどうかは実はかなり重要で、例えば周囲の方々の指標になったり、不透明な未来であろうとも突き進むといったメンバーの自信の創出になったりします。更にはロードマップを明確にする事によって、具体的に社会実装する上でどのような規制と向き合うのか、そのためにはどのようなアプローチが具体的に必要かといった成否を決める上で重要なファクターになります。また、それがあるかどうかが最短距離になりうるため、市場を席巻する速度とも関係し、競争優位性を形成する上で1つのポイントです。

では、そのような現実的ロードマップはどのように描いていくのでしょうか。

4.現状と理想の過程を可視化

至ってシンプルの回答になるのですが、現状と理想の過程を可視化させる事が最も効果的で効率的であると考えます。

ここでいう現状というのは、金、人、技術等の資源を表しています。当然ながら現状以上のものなはく、この現状に表されている資源をいかにして活用するのかが重要となります。そして最終的な理想において、どの資源がどのような場所(サービス開発、人材獲得、ソーシャルセクターとの協業...)に適切に投下されているかを把握する事は言うまでもなく重要課題です。その実践的モデルとしてこの方法があると思います。

また、現状と理想の間にある要素も理解する必要があります。例えば、資源である金をサービス開発に投資し、サービスが開発され(メンタルヘルスサービスと仮定します)、個人の悩みが解消されて、若者の悩みが払拭され、若者の挑戦が促進するとします。ここで重要な要素は、3つ隠れています。

1つ目は、「活動」である、投資先です。資源をどこに投資するかは当然ながら把握する必要があります。財務的観点においても意味がある事ですし、その活動が理想にどう繋がるかをロジカルに把握する上でも欠かせません。

そして2つ目が、完成したサービスといった「成果物(アウトプット)」です。これは活動の過程によって必然的にできるものであり、注意点として挙げられるのが、課題の解決にクリティカルであるか、想定通りのサービス設計であるか、機能過多になっていないか等となります。(今回ここは本質ではないので省略します)

3つ目は、もう分かると思うのですが、「成果(影響)」です。上記の例で言うならば、成果物を通して利用者の悩みを解決するといったいわゆるサービスによる好影響の内容です。ここまでは、おそらく綺麗にイメージできる事でしょう。投下した資源がどのように活かされ、何が完成し、それがどのような影響をもたらしたかを可視化する事で、そのイメージは明確なものとなります。

しかしながら、この「成果」が、描く理想にどのように辿り着くのかといったラストワンマイルの道筋を明確にする事は少し難しいでしょう。というのも利用者1人の課題解決も成果に含まれるからです。しかしその次の繋がりとして急に社会変革のインパクトの達成が出てくるのは何となく違和感があります。

そこで上記の「成果」を段階ごとに評価する必要があります。大きく「短期成果」と「中期成果」、「長期成果」に分けられると思っております。

まず短期成果は、「数値の変化」です。サービス内でトラッキングしている指数の変動がそれに値します。(陸上で言うとタイムの変化等)

一方で、中期成果は、その変化の先にある個人の目標達成のようなものです。上記の例で言うと悩みが解消されたという影響の事を指します。つまりは、特定の施策と連動した成果に大別されます。

そして長期成果は、その個人の目標達成がサービス内でどの程度起きているかどうかです。

この切り分けは、ユーザー体験を設計する上でも大切な観点であるので役に立つと思われます。

その結果、現状と理想を結ぶ過程を可視化し、どのような繋がりになっているかを細かな単位で把握する事ができると思います。

しかしながら、注意しなければならない点がソーシャルセクターとの協業が図られる際の連結も明確に描く必要があるという事です。そうする事で、より意味のあるロードマップが作られると思います。

以上が、「理想と現状のロードマップ」の可視化です。

では、異なるセクターとの協業が求められる中で、コレクティブな形での理想(社会変革)の達成において何が必要不可欠な観点となりうるでしょうか。

5.共存思考

主にソーシャルセクターに視点を絞り、まとめていくのですが、協業において欠かせないポイントは3つあります。

まず1つ目は、アジェンダの共有です。当たり前と思うかもしれませんが、協業におけるスタート地点といっても過言ではないため、絶対に欠かしてはいけない視点です。

次に2つ目が、密なコミュニケーションです。互いの内情や考え、同じチームであれば常に共有する事でしょう。これは協業においても同様で、セクターの境界を超えて、もはやチーム以上のコミュニーケーションの継続性を実現しなければなりません。(ただでさえ、セクターが違うので...)

そして3つ目が、評価スタイルの共有です。成果物に対する評価が両者において統一的でなくては、ロードマップそのものに綻びが生じます。また、協業する上で両者が捉える事業そのものへの理解にもズレが生じ、悪影響となりうるでしょう。

以上がソーシャルセクターとの協業における重要なポイントです。また、ここには記載していませんが、当然ながら「理想」も共有する必要があるのも忘れないようにしましょう。また、成果物における成果(影響)等も常に共有する事がこの取り組みの基盤となります。これが結果的に互いを強化し合う事に繋がり、コレクティブな形を通して理想が達成されます。

ここまで業界の垣根を越えて、デジタル技術を実装していく上でどのような取り組みが必要か、そしてそのために他のセクターとどのように協業するか、その際の注意点等について述べてきました。

そこで、1点重要な事は、他の業界、領域、産業に参入する上で、付き物であるリスクがあるという事です。例えば、自動運転を想像してみれば分かりやすい事でしょう。そのような可能性がある上で、会社としてガバナンスを徹底する必要が出てきます。そこでその観点において少しだけ触れていきたいと思います。

6.秩序作り

ガバナンスというのは、ありとあらゆる「治める」というプロセスを示す言葉です。最近は、スタートアップガバナンスが注目を集めている事でしょう。それには当然ながら理由があります。今回のテーマに近い、対応範囲の拡大や、グローバル化の潮流、政治と民衆の近接化等が起きているからです。(そう考えるとごく自然な流れ)

そしてガバナンスと言っても分かりにくいので、もう少し具体化すると法律や社会規範等がイメージしやすい事でしょう。

そこで今回はよく聞く、「攻めのガバナンス」と「守りのガバナンス」に触れたいと思います。

まず、「守りのガバナンス」についてです。コンプライアンスや社会的責任等のリスクテイクが該当します。つまりは、技術とその周囲にある規制や制度と整合性を取り、テクノロジーを適切な形で治める事が該当します。

しかし今回重要視したいのは「攻めのガバナンス」です。上記で書いたロードマップにおいて政治やソーシャルセクターとの関係性の重要性について執拗な程に書いてきました。そこでそのような方々とのコミュニケーションを基軸に規制や社会規範を改革する、テクノロジーによりアップデートする、そのような姿勢こそが攻めのガバナンスです。ある意味、今回の本質みたいなものです。当然ながらその過程において「理想」の共有がより一層重要になる事はわかるでしょう。理想からブレイクダウンし、現状必要となる指針を明確にして、政府との協力の下、ガバナンスを改革する必要があります。ここから読み取れる事ですが、サービスを提供する事業者は、ガバナンスの体制に対して他人行儀で振る舞うのではなく、並走して考え抜き、自社がかかえる理想を基にして真摯に向き合うタイミングが到来しているのです。(もはや攻めのガバナンスこそがガバナンスの新しい姿かもしれません。)

このようにガバナンスを変える事で、会社が抱え込んでいたリスクを社会に分散し、別(新しい)のリスクを持ち、サービスの浸透に尽力するのが事業者には求められます。

そこでガバナンス改革において戦略的な姿勢の必要性について話したいと思います。というよりかは、ガバナンスの改革において必要な視点についてです。これは競争優位性を構築する上でも重要になるのですが、「日本において優位性が働く領域」or「喫緊のニーズ度が高い領域」にて、国際的(グローバリゼーションを意識して)視点の下、新しいガバナンスの体制を築く事が戦略的に求められます。更にアービトラージも意識した上で、ガバナンスを設計する事は長期的な優位性の強固になり得ます。また、国として社会課題に向き合い、市場化するような規制のアップデートも1つの選択として求められます。事業者側と政府の意向を合致させる事で、社会課題に尽力できる必然な流れを形成するといった方向性もこのように考えられます。

事業者自らが、どのように上記のような領域に関わっていくか、そしてガバナンスの構築に目を向け、行動していくかは、後々の成長における試金石となり得ます。

ガバナンスに関する事例は世の中にあるので、抜け漏れなくcheckしてみると良いかもしれません。

しかし、いくらガバナンスを徹底させてもそこに関与する方々がそれを意識的に守らない事には機能しません。

そこで最後の項になりますが、デマンド側の方々が構築された規制にどうすると従うのか、納得してくれるのかについて触れて締めたいと思います。

7.能動的納得感を形成

ここで重要視している点は、享受するデマンド側の方々がいかに納得感を持ち、心底理解して能動的に動いてくれるかです。(そのため、上記で書いた規制に従うという表現は適切ではありません。)

そのためには、事業者側が掲げる「理想」の背景の共有、現状の認識等、あらゆる過程を常に共同していく必要があると考えます。納得する(しかもここでは能動的納得)には当然時間がかかります。だからこそ事業者の丁寧な姿勢はより一層求められます。そこで、このように様々な過程を共同していく上で重要視されるのが、いかに享受する方々に、当事者としての意識を醸成できるかといった点です。デジタルの技術を実装していく中で、当然享受する方々がそれを直接的に実感していない事には「関与している」感覚が醸成されません。そのために、例えば享受側を巻き込んだオープンなMTGを行い、自由な発言の場を設けたり、そこに事業者側も積極的に参加し、自分たちが目指す理想について語ったりといった双方に暗黙の前提として生じてしまっている境界線を払拭するのは1つの試みだと思います。そうすると自然と互いに価値観や思想も共有され、チームとしての強固な繋がりが出来上がります。これは一朝一夕でできるものではないので、初めから意識的に行う必要があると考えられます。

そしてもう1つ大切なポイントとして双方が共同でMTGをしたり、意見を共有したりする中で、事業者側は特にその共有方法におけるセンスが欠かせません。事業者側は、還元主義的に単純なストーリーを淡々と語るのではなく、人々の行動のトリガーとなりうるような心を動かすナラティブを大切にし、協業的に取り組むべきです。これは事業者側の理想の背景にある価値観の浸透に大きな作用が働きますし、大きな行動変容をバイラル的に引き起こすポテンシャルもあります。当然ながらナラティブの種類等があったり、より細部まで配慮した言葉の選定等、様々ありますが享受側が能動的に納得感を持ち、ガバナンスが機能するには上記の方法は重要になってくる事でしょう。

以上がガバナンスに対してデマンド側に納得感を醸成するためのhowでした。

近年スタートアップの戦術として上記のような事は様々な媒体で言及されている事だと思います。テクノロジーの成長の影響でどうしてもリソースが偏ってしまう中、もう1度「実装」するという根本的な部分を思い出し、そのためには業界構造への理解やガバナンスに対して向き合う必要があるということが今回の肝となります。

内容としては、具体的な実践の部分も記載しているので、頭の中で今回のテーマをより明瞭にイメージしながら読んで頂けたのなら幸いです。

長い文章になってしまい、どれ程の方が最後まで読んで下さかったか分かりませんが、読んで下さかったありがとうございました。

また、今後も積極的に発信していきたいと思います。


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