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『今ここにある危機とぼくの好感度について』第5回(終)

 大学研究所から蚊が漏れてパンデミック発生。しかも隠蔽工作までしていた。もうだめ。神崎は現実逃避しようとしますが、そのとき、みのりちゃんから電話が!

愛が勇気をくれる?

 みのりは励ましてくれる。のみならず、甲殻類アレルギーがなければ重症化しないということまで告げてくれる。ここがおもしろくて、エビカニが好きかとみのりが問いかけてくると、神崎は海鮮デートかなんかだと勘違いするんですね。
 でもこういうのって、男女逆転だとあるあるかつ、「女はバカだなあ」ってなってません? エビデンス重視の男に対して女は……みたいな。

 そして神崎は目覚め、好感度を度外視して生きると思い始めます。お菓子を買って職場にいかないもん! 神崎はつくづくおもしろくて、スイーツ女がしそうなことを性別逆転してやっているんですね。アナウンサー、からっぽ、見た目だけ、お菓子を買って職場に行く、理論軽視。スイーツバカ女あるあるとネットに書かれていそうじゃないですか。

 そんなスイーツバカ男をやめて、総長相手にある奇策を持ち出します。理事会でダミー蚊のシャーレを持ち出し、これをばら撒くという。焦って右往左往したらダウト! 動画でも撮ればばっちりですね。まさに奇策ではあるのですが、総長はそれじゃ好感度台無しだと驚きます。それは最終手段にしようと。
 どうしてそうなったの? 総長と秘書は困惑する。みのりへの愛なんですね。
 ダサいところばっかり見せていたみのりちゃんなのに、自分のためにあそこまでしてくれる。こういうのが愛! 愛で変わった!……と、なると思います?

理事会で策謀を

 でもそうはいくかな? 総長は理事たちに、蚊のことを告げます。総長がすべてを明らかにすると宣言すると、須田以下理事は反対する。しかし総長は、白紙を読みつつハッタリをかまします。おっさんで、エビカニ好きで、会食するようなやつは蚊に対してハイリスクだと。そしてここで神崎がシャーレを出す。理事たちは大慌て! しかもここで蚊が逃げたとアドリブで芝居をうち、理事たちは部屋から逃げ出すべく殺到します。そのドアを秘書が押さえている。
 なんともおもしろい醜態ではある。しかし、須田だけは座ったまま動かない。大したやつではあると。

 でも、結局忖度です。次世代博を中止にできないと有耶無耶にされる。新聞部のコウスケは、それじゃ健康被害が出た相手が納得しない、クソだと反発する。そして神崎は開き直る。正義も何もない。忖度しか生きる道がない、それが人生だとやけっぱちになります。
 みのりの電話も出ないし、連絡先から消してしまう。愛なんて儚く消えちゃったのかな。

 神崎は職場にどら焼きを持ち込むようになった。そのどら焼きを澤田がぱくつきつつ、話があると神崎を連れ出します。なんでも足立が、あの蚊に対する治療法を、アリの毒見出せそうなんだとか。神崎も残っていたちっぽけな正義感を思い出し、手伝うと張り切ります。
 
 そのためには、蚊を盗み出さなくちゃいけない。サハラ蚊を処分したというのはうそだろうと。新聞部員と豚の助けも借りて、蚊を盗むミッションに足立らと挑む神崎! 足立は入り口に入ったばかりのところにいる蚊がそうだと分析します。専門家の知識は一般人とは異なるとわかる秀逸な場面です。

必ずや名を正さんか

 このあと料亭で総長と神崎が飲んでいます。神崎は問いかける。どうして真相を知りたいのかと。ここで総長は『論語』からこう言います。

必ずや名を正さんか――。

 これは解釈が難しい。総長はみのりのことを言い出す。病気に罹っているとすれば、まず病名が何か知らないと何もできないじゃないかと。まず、正しいことは何なのか? 本質を知らなければどうにもならない。そう彼は言います。
「私は学者だ……」
 そう総長は言い切るのです。

 そのあと総長は、マスコミ懇談会の前で理事たちに真相をマスコミに明かすと断言するのです。エビデンスも揃っている。アリの毒で治療もできる。真相を明かし、賠償に応じ、治療法を確立していくと告げます。理事たちが騒然とし反対し、なんとかして真相を明かすことを阻もうとする中、総長と神崎はマスコミに真相を明かすのでした。

 次世代博は帝都大抜きで行われ、総長は留任。理事は総入れ替えと思ったら、あの須田が残る。神崎ら周囲は驚きますが、立て直すには必要だと総長は言います。
 須田はあの蚊の騒動でも、椅子から動かなかった。
 対立したから、悪党だと思っていたけれど。そう単純でもないらしい。神崎にはまだまだわからないことだらけだけど、ちょっとだけわかりやすくなったような気がするのでした。
 帝都大は史上最大の損失を出し、お先真っ暗。なのになぜ残るのだろう? そう神崎は思っちゃう。視聴者もかな。
 そんな神崎は、みのりちゃんと再会する約束をしているのでした。

好感度を度外視するドラマ作りへ

 どうしたって、現実を重なる。人命か、イベントか? 神崎が真相を明かすとイベントがダメになって困る人がいるというセリフなんて、どうしたってオリンピックと重ねてしまうわけでして。
 NHKの五輪機運醸成報道は問題視されるようになりました。世論調査なんかで、五輪をやりたい方向に誘導するセコイ設問を設けるとか、あれやこれやで五輪で盛り上げていこうとやらかしていると指摘されているんですね。
 やっとかよ! そんなもん『いだてん』と『エール』でとっくの昔に知ってた! そう突っ込みたいし、そもそもこのドラマ、『いだてん』とスタッフとキャストが結構被っているあたりが面白い。
 そうそう、うかうかと、やすやすと、オリンピックに言いなりになんからならない。そう思っていたのに、巻き込まれていったんじゃないかな。そういう新進気鋭だったの誰かの自嘲や自省もあるんじゃないかと思っちゃいますよ。

 NHKの朝ドラや大河を見ていると、好感度について考えているともわかる。あえて好感度が低いキャラクター作りを推している雰囲気は感じるんですね。
 『おかえりモネ』の菅波はこの点わかりやすかった。あえて視聴者がイライラと腹たつようなことを言わせて、こういう不器用な奴もいることを想起させたり。それとどう向き合うか考えさせたり。そうやって、神経を逆撫でするようなことこそが、今これから求められていることなんじゃないかと思います。

 神崎はセコイ。けど、こういうセコイ好感度稼ぎだけでなんとかしようとしてきた人って、NHKにもウロウロしていたでしょ? 出演者の人気。ソフトエロ。過去作品の人気。ハッシュタグ投稿。そういうもので機運を醸成して、盛り上がっていることにすればチョロいじゃないですか。

 考えていたことはあるんですよ。いわゆるコタツ記事のこと。ドラマ終わって一時間程度でほぼ同じ褒める論調の記事が出るのっておかしくないですか? なんでこんなカラクリに引っかかり続けるんだよ? そう突っ込みたかったんですけどね。
 まあ、いろいろと、こっちが突っ込むまでもなく、NHK側が盛大にバラしちゃったという印象を受けます。
 人間の心って、水みたいなものだからさ。ある程度、水路を掘っちゃうとそこへガーッと流れていくんですね。風刺しつつ、そういう心理操作テクニックをあちらからバラしてきちゃったものだから、NHKはすごいもんだと感心しています。受信料を払う甲斐があるいいドラマでしたよ。

 以下、専門家でもないことを踏まえて、最近のNHKの試み推理でも。

NHKとセルフアドボカシー

 セリフアドボカシー――発達障害がある人も認めていこう、って話です。『ガラピコぷ〜』なんかそこを意識していると言いますね。

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