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『孫子』九変篇で考えた「呉座氏論争」

故に、将に五危あり。必死は殺され、必生は虜にされ、忿速は侮られ、廉潔は辱しめられ、愛民は煩わさる。凡そ此の五者は、将の過ちにして、用兵の災いなり。軍を覆し将を殺すは、必ず五危を以てす。察せざる可からざるなり。
『孫子』九変篇
SNSユーザーには危険な状況があります。
必死にフォロワーを増やしたくて、鍵だろうとすぐに認証されると危険な目に遭う。
ブクマや満足がわりに雑いいねをしているとそこを晒される。
怒りっぽいと煽られてキレる。
真面目になりすぎると、SNSを開くだけで憂鬱になって放置してしまう。
フォロワーにいい顔をしすぎるとテキトーなリプライをして、そこを責められる。
こういうことをすると所属組織まで害を及ぼしかねません。危険性は常にありますから、考えておきましょう!

 私なりに、今回の呉座氏論争について考えてみました。

◆ 呉座勇一北村紗衣(saebou)Twitter問題:さえぼう氏は一方的な被害者なのか https://www.jijitsu.net/entry/gozayuuichi-saebou-twitter
◆論点整理:呉座勇一氏と北村紗衣氏を巡る一連の論争――または、扇動者たちのオクラホマミキサー|青識亜論 @BlauerSeelowe #note https://note.com/dokuninjin7/n/na04fd0f1bd47

 まず指摘させてください。羊頭狗肉です。タイトルに反して論点整理は全くされていません。
 歴史上の出来事で例えますと、赤壁の戦いのあとで、
「船を繋いで油をかけたら燃える……人類は愚か……」
 そう軍師が言ったらどうなのかということでして。
「そんなもん当たり前やんけ! 負けた原因を整理せんかい!」
 私が曹操ならそう言いますね。純粋な被害者なのかどうか? そういう話でもない。この筆者たちはうっすらと筆者の党派性を示しつつ何をしたいのか? その目的はあとで考えしましょう。

◆呉座勇一氏のNHK大河ドラマ降板を憂う - 與那覇潤|論座 - 朝日新聞社の言論サイト https://webronza.asahi.com/national/articles/2021032600009.html

 大河については杞憂です。
 時代考証の面々と専門と著書等を参照しましょう。このうち降板しても最も影響が軽微であるのは、テーマからして呉座氏です。彼はいわば知名度ゆえの登用です。『西郷どん』における磯田道史氏枠でしょう。
 そもそも組織とは、一人が欠けたくらいで回らないのであれば構造が破綻しているのです。諸葛亮が倒れた瞬間に蜀が瓦解したのであれば、それは蜀の建国そのものに無理があったのではないか? その検証が必要になります。ずいぶん蜀について単純化してしまいましたね。そのへんは各自書籍でも当たってください。
 正直なところ、この記事もまたタイトルの時点で読む気が削がれます。そういう大河の仕組みや日本史知識がどうにも危うい。そんな危うい認識に立地したまま極めて雑な論を展開しており、掲載メディアまで含めて疑念が湧いてきます。
 どんなに立派な肩書きと文章力があろうと、のらりくらりとポジショントークをされても困惑しかありません。こういうことを朽木糞土と呼ぶ。朽ちた木を彫るなり、ぐずぐずの土で壁を作っても無駄だという意味です。

 いずれにせよ枝葉末節の話だと思う。根幹に切り込まねば過ちは繰り返されるのみ。ではお前の考える根幹を言え! そうなりますね。では、あげていきましょう。

Twitterを使っていたことそのものが危険だ

塗に由らざる所有り。軍に撃たざる所有り。城に攻めざる所有り。地に争わざる所有り。君命に受けざる所有り。
使ってはいけないプラットフォームはあります。論争をしかけてはいけない相手がいます。扱ってはならないトピックがあります。フォロワーが期待していても沿えない方がよいこともあります。

 いきなり極論を申してまことに申し訳ない。
 しかし、Twitterは危険です。なら私はどうなのか? 使ってはいます。ただ、極力触らないようにはしている。特にリプライは滅多なことがない限り返さないのです。無愛想でどうかと自問自答しますが、これも危険を避けるためには致し方ないことです。

 どうしてそう思うか? 数年前ならばそうではなかったことでしょう。自分なりに本を読み、ニュースを見て確信したことです。複数の本にTwitterの有害性がある。複数において有名人アカウントが削除に至る。
 そして決定打はトランプ元大統領のこと。あの措置は、いくらTwitterで何かを築き上げても一瞬で消え去ることを教えてくれました。もっとも私はトランプには全く同情していません。

 トランプ個人はどうでもいい。問題は、彼の情報操作にのったQアノンの危険性です。ここまで大事件を起こしたとなると、Twitterも手をこまねいてはいられない。何らかの措置を早晩する。もしもTwitterそのものが消え去ったとすれば、それまでの努力が無になる。そんな危険なものに自分の命運を賭けられるはずがないと私なりの結論に至ったのです。

Twitter日本法人が悪い

 ここまでは国際的なTwitterそのものの問題としまして。
 日本法人独自問題もあります。それはヘイト認定に対して、海外よりもずっと甘いことです。
 私は過去においてひどい言いがかりをつけられて、アカウントを凍結されかけたことがあります。これはあまりにひどいこじつけであると説明したところ、措置は即座に撤回されました。
 さて、この時私はちょっとした実験もできました。
 
 当時、私は居住国設定をイギリスにしていて、拙い英語でなんとか抗議をしたのです。やはり日本法人のヘイトは甘いと確信できた出来事のひとつです。

 今回の件だって、Twitter日本法人がヘイトや侮辱に対して断固たる態度を取っていれば、防げたことでしょう。呉座氏のアカウントは凍結されたこともあるそうです。そのときもっと何か別の道があればこうはならなかったのでしょうけれども。

 日本独自の傾向として、2ちゃんねる、mixi経由のユーザーが最も危険かと思います。匿名掲示板、ある程度クローズドな環境。その慣れが残っていると危険だと思うのです。

 もう一点。Togetterまとめ削除の件。あのまとめは随意即座に削除できるからには(実はこれはTwitterそのものもそう)、陰謀論を考察する必要性も感じません。穴に開いた船に乗っていたら、いつ沈んでもおかしくはない。それが嫌であれば、証拠をきっちりと残すしかありません。

NHKは脇が甘い

 はい、筆者の正気を疑っていただかなくても結構ですよ。
 話がでかくなりすぎましたか? いや、根拠はあります。私は今年になってから、確か『麒麟がくる』最終盤であったと記憶しますが、 NHKのお客様の窓口に意見を送りました。
 前述の通り、私は極力Twitterを見ていません。しかし、その日のタイムラインに並ぶ呉座氏とフォローのやり取りには、強い違和感がありました。そこで私はブラウザをたちあげ、意見を送ったというわけです。
 『鎌倉殿の13人』時代考証担当者・呉座氏のTwitterでの暴言は目に余る。彼を担当にしたままでよいのか?
 そういう旨のものです。ただでさえ大河は不祥事が相次いでいる。このまま『鎌倉殿の13人』でもそうなったら、大河枠そのものにひびが入りかねないと。

 NHKにご意見メールデータを全部出せとは言いません、けれどもログがあれば私のものは残っていることでしょう。

 呉座氏に諫言しなかったフォロワーを責める意見はあります。私もその責めは当然のことながら負わねばなりません。そのうえで釈明をします。
 前述の通り、孫子も言うように攻めてはいけない相手がいます。私ごときが彼に意見しようものなら、取り巻きとまで叩かれることは目に見えていた。素人は黙っとれとTOKIO画像付きで返されるくらいならまだしも……いやもうやめておきましょう。
 だから私は迂直之計、遠回りしてことを収める方法を選んだのです。もしもあのとき、NHKが真剣に受け止め、そっと注意でもしていたら? そう想像してしまいます。こうした意見を送ったのは、私一人でもないと思うのです。

 三谷幸喜氏が問題のある関係者に注意を促していたからには、NHK側はもっと慎重になるべきだったと思います。そこがかえすがえすも残念でならないのです!

煽る周囲が悪い

 ここまで話を広げたくありませんが。しかし、そうせねばなりません。

◆女性蔑視投稿で炎上の呉座勇一氏 知人は「彼は食事中もスマホを手放さないSNS中毒」 https://www.dailyshincho.jp/article/2021/03280556/
呉座氏は好戦的な論者として知られ、その鋭い舌鋒(ぜっぽう)からネット上では「人斬り呉座抜刀斎」と称されていた。ある出版関係者は、「『人斬り呉座』の名前は本人も喜んでおり、ナルシストな側面を感じた」と話す。

 この記事から思い出したのは、中国史にとびますが、土木の変です。明の英宗が宦官の王振に「陛下ならオイラトくらい余裕っしょ!」と煽られ親征した挙句、人質になったという悲惨な事件です。
 事件の影響は極めて大きい。顛末があまりに愚かしく、学べな学ぶほど嫌気がさす事件なのですが。

 なんでそんな話を?
 いや、だって似てますよね? この人斬りだのなんだの持て囃す周囲の姿勢が。まるで宦官ではないですか。中国史の宦官については学びが多い。特に明がそう。皇帝を甘やかして依存させ、政治をひっかきまわす。それは性欲のせいではない。構造の問題です。側近政治の弊害が凝縮されています。
 ついでに言いますと。あの漫画を愛読していたさほど若くはない年代。かつ尊王攘夷テロリズムに甘い。そのへんの思想、幕末史知識へのあやふやさも感じるネーミングセンスですね。

 Twitterは最も簡単に、皇帝と宦官のような仕組みを作り上げてしまう。よほど気を遣わねば、そうなってしまう。

 私の話を少しさせてください。通知欄はなるべく見ないようにしています。いいねを押されるだけで「罠ではないか? 油断させていないか?」と気構えてしまう。ましてや褒めるリプライはかえってどんより落ち込む。時折拙い英語でぼつぼつ呟くのは、そうして投稿の壁を高くして、自制をするためでもあります。最近油断していて不安ですが。
 攻撃的なリプライは、かえってこちらが活性化するので勘弁していただきたい。大河がらみでちょっとつぶやいたところ、呉座氏と懇意である大手ユーザーからも嘲笑的なリプライが届きました。あまりに予想通りで困惑しました。私の悪癖なのですが、攻撃をされると相手がどんな人物か探り始めて時間を無駄にしてしまう。人として異常なので、こういう危険なスイッチ入れないでいただきたい。本当に申し訳ありません。

“ハロー効果”を悪用する社会全体、出版不況が悪い

 そのうち森羅万象が悪いとまで言い出しそうな勢いですが、そろそろ止めることとしまして。
 猜疑心旺盛な私は、むしろ学者がテレビに出ていると胡乱な目で見てしまいます。そのきっかけはある一冊の本。その本には、筆者が出演を断った歴史番組のことが書かれていました。
 テレビ局のスタッフが、自分たちの書いたシナリオ通りのことをしゃべるように頼んでくる。しかしその筆者は「自説と正反対の論を語ることはできません」と断りました。後日放送された番組では、それっぽい肩書きながら、その分野は研究していない研究者が、テレビ局の作ったシナリオ通りのことを話していたのです!

 なんのことはない。“ハロー効果”というよくある手口です。インスタント味噌汁のコマーシャルにも使われています。カリスマイタリアンシェフが! 味の匠が! この味噌汁を大絶賛! そういうパターンですね。
 学者なり研究者という肩書きの人がそれっぽく語れば、どんな無茶苦茶な話でも視聴者は信じるということです。

 そこで私なりに、実験をしてみました。あるテレビ番組に出た日本史研究者が、中国史について無茶苦茶な論を展開していたのです。それをみている人に聞きました。
「この先生は日本史は詳しいけど中国史はそうでもない。そのうえでこうも自信満々に語っている。どう思います?」
「でも歴史の先生でしょ?」
 なるほど。日本史だろうが中国史だろうが“歴史”でまとめてしまえば、気にならないということです。ワインを使ってこの実験をした心理学者もいます。安いワインでも、それっぽいラベルを貼れば、人は騙されます。昭和のクラブでは、ジョニーウォーカー黒の瓶にサントリーやニッカを入れて客に出す手口が流行したそうですが、人間はそういう錯覚をするものですね。

 テレビ局にせよ。出版社にせよ。“ハロー効果”に彼を使い、散々持ち上げてきたことは否定できますまい。彼の肩書き、扱いやすさ、ベストセラー作家ということを第一とし、中身はそこまで見てこなかった……ちがいますか? あれだけのフォロワーがいたからには、見て見ぬふりをした誰かはいるはずだ。
 そこを責めようとは思いません。ただ、これがあの胡散臭い“ハロー効果”見直しにまで到達すれば重畳。
 大河降板も、申し訳ないが私はむしろ好機だととらえています。大河に出ることで、知名度は跳ね上がる。呉座氏はコロナがらみでもなかなか危険性の高いことを書いていた記憶があります。
「テレビに出たえらい先生がああいうのならば、そうなんだろうな」
 このコロナの時代にそう思う人がいたらば、それはもはや社会にとってマイナスなのです。

 出版不況も悪いとは思う。こんなご時世、金の卵を産むニワトリは大事にしますよね。これは司馬遼太郎もそうかもしれない。最近やっと批判が増えてきましたが、それでも遅すぎたとは思います。

◆ 【HBO!】右も左も口をつぐむ“司馬遼太郎タブー”の実態<評論家 佐高信> https://hbol.jp/240056

心の穴を開けたこの世が悪い

 ちょっとファンタジックな表現を使ってみました。
 心の穴って何でしょう? これは『鬼滅の刃』がわかりやすい。あの漫画には、善逸と獪岳という同門の鬼殺隊士が登場し対峙します。そこで語られる二人には、様々な共通点があります。
 二人とも劣等感があった。そのことを、作中では心という箱に開いた穴で表現しています。
 善逸は穴を埋めたくて、通りすがりの女性に求婚したり無茶振りを繰り返す。けれども鬼殺隊で炭治郎や伊之助に出会い鍛錬を積むうちに、心の底から笑えるようになっていきます。彼の心に開いた穴は塞がりました。
 一方で獪岳は、それができない。そこをつけこまれて鬼にされてしまう。強くなって上弦にまで上り詰めるものの、善逸に敗北するのです。

 呉座氏が悪人だとは思わない。性格が悪いという点では、自分のほうがはるかに上だと思う。あ、そこは知っているのであなたが指摘なさらなくとも結構ですよ。
 
 ただ、彼は心に穴が開いているようで悲しかった。見ていて苦しくもあった。年代的に研究者として生きてきて、とても辛かったことは想像できます。
「末は博士か大臣か」
 そんな言葉は昔のもの。いい学校を出ても褒められなくて、認められなくて、心に穴が開く。その穴に何かを詰めようとして、バズるミソジニーやリベラルへの憎悪をこめたツイートをしてしまう。それでも心は埋まらない。どんどんどんどん、憎悪を募らせて、だんだん麻痺してゆく。何をしても心が埋まらない。
 そういう憎悪依存症のようなものを感じてしまった。これは決して彼だけの問題ではないのでしょう。

 研究して、学んで、論文を書き上げて、すごく充実した気分になった日があったことでしょう。
 もっともっとさかのぼって、児童向けの本で歴史を知って。歴史小説を読んで涙して。心が熱くなったこともあることでしょう。
 そういう満足感で、心に開いた穴を埋められるといいのに。そう願うばかりです。

憎悪を煽る“死の商人”への供給を断つ

 需要があれば供給がある。武器商人は戦争が終わって欲しくない。そういう真理があります。
 Twitterにもこうした死の商人が、美少女アイコンやゆるキャラアイコンを用いて、愛想よく闊歩しています。プロフィールにはネット論客なんてもっともらしくありますが。そもそもネット論客とは何か? 定義はありません。フォロワーが多いから、なんとなくフィーリングが合うから。その程度のフワッとした感覚で、彼らに儲ける手段を与える危険性を認識してください。

 前述の通り、心の箱に穴が開いた人は、憎悪やバズりでそれを埋めようとします。その欲求につけこみ、憎悪を煽り、バズを稼ぎ、自分のnoteに誘導して荒稼ぎを企む人がいる。
 いわば感情による戦争を、儲け道具にしている者。フェミニストとアンチフェミニスト論争がどうしてこんなに燃え上がるのか? それはこうして憎悪を煽って儲ける誰かがいるから。今はもう、彼らへの憎悪の供給を断つ策を論じるべきです。

では策は?

 Twitterをやめろっていうけどできるの? そういう疑念は当然ありますよね。まずは『スマホ脳』でも読んでみましょう。どうして人がSNS依存になるのか、ガチャを引いて金を無駄にするのか? 心理学からのアプローチが書かれています。これを読むと脳を操られるような不快感に襲われ、スマホを遠ざけるようになると思います。

 今回の件は、脳構造を悪用したSNS時代がゆえに起きた悲劇であると私は考えます。スマホを離すことも大事。スマホを置いて運動をすることも大事。乳酸菌と睡眠をとることも大事。

 今回の件で、SNS利用のルールは生まれることでしょう。むしろ遅すぎたかもしれない。SNSのせいで破滅に追い詰められたこれまでの人々やものごとをふまえれば当然の流れといえます。差別をする自由なぞ、そもそもあってはなりません。

 さて、ここから先は極めて短い追記です。かつ申し訳ありませんが、有料です。大河ドラマおよび日本史研究者危難は去ったのか? いやいや、どうにもそれが危うい。
 そのことを書いています。論点がずれますので、投げ銭をしてもよい寛大な方のみどうぞ。

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