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『おちょやん』14 報恩

 誠実な相手の人柄がわかった千代。その延四郎の恋文を、渡します。しかし、シズはそっけない。

「せっかくやけどほかしといて」
 そう言われてしまうのでした。
 細かいようで、この「ほかしといて」という言い方がいい! 大阪の方からすればそんなもんかと思うかもしれませんが。それ以外のものからすると、「捨てといて」という標準語よりこう、やらかいというか。そっけないというか。関西弁だからこそのそっけなさが出ていてグッときます。

延四郎は恩人

 シズはそっけなくそう言いつつ、本音をこぼします。ちょうど今の千代くらいのころ、お茶子として修行するもどうにもうまくいかない。落ち込んでいたところ、延四郎はこう言ってくれた。
 ちょっとくらい鈍臭いほうがいい。そないな子が一人前になっていくのを見ると、励まされる――。
 それがどれほどありがたかったことか。励まされたことか。あの人がいてくれなかったら、いまの自分はいない。あの人は恩人。だからこそ、恋文を読んでしまったら会いたくなってしまう。思いをぎゅっと封じ込める切なさがそこにはあります。

 そこにあるのは、不義密通という言葉が持つねっとりとした男と女の情愛ではなく、さわやかな感情ではあります。だからこそ、延四郎はシズが立派にやっていることに安堵した。自分は挫折するように役者を辞めてしまうけれど、心が通じあったあのお茶子は立派な女将になっている。分身のようなもう一人が成功した。そういう満たされた気持ちはあると。
 シズはここで、わてのことより年季あけのことを考えたのかと効いてくる。人のことで気ィ揉んどる場合と違いますやろ。そう告げ、この話はこれでしまいだと言い切ります。
 千代は立ち去ろうとして、相手が恋文をどうするのか気になって見てしまう。シズは手に取り見つめ、破って捨てるのでした。

芝居小屋そのものに千秋楽が迫っているのか

 熊田が鶴亀劇場前で、本日が千秋楽だと告げています。早川延四郎最後の艶姿、とくとご覧くだされ!
 一方、そんな道頓堀をみつえと千代が歩いています。子どもやないのにとみつえは不満そう。千代は我慢しておくれやすとくっついています。
 あ〜、これはええ受信料の使い道や。みつえのこの羽織を見てください。いかにも大正、このアンティーク! なかなか出回っていない、ええお色ですわ。こういうもんを保管しとるのがNHKの存在意義やで。こういう戦前のいかにもなアンティーク着物が出てくると、ホッとします。これぞNHKだと思います!
 それに、やっぱり着こなしですよ。リボンつけた髪型も、小物も、化粧も、顔も、演技も。全部かいらしい大正のいとさんそのもので。みつえはかわいい。誰がなんと言おうが絶対かわいい。顔かたちの問題でなく、醸し出す雰囲気がかわいい。そら、宗助もシズも甘やかすわ。
 なんでも「組見」で岡安はてんやわんやだそうで。「組見」とは、千秋楽翌日に行われる、ふといお得意さんの芝居客を総出で接待することだそうで。千代もちょっとそのせいで気もそぞろのようです。
 するとここで福富のボン・福助がトランペットを吹いと……るんかいな。ぷーぷー下手くそな音を出しています。みつえが「下手くそ!」と声をかけます。このボンはアホのように思えますが、そういう時代なんです。音楽も西洋のメロディや、ベートーベンや、モーツァルトや。ある朝ドラでもそのへんの近代音楽への目覚めをやったと思いたいのですが、見とらんのでわかりません。それはさておき、こっちの朝ドラやね。

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2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

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