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ウチの娘は彼氏ができない‼︎ 第1話 恋愛よりも前にまず、母娘愛

 恋愛って真剣勝負! それなのに気配すらない! 今の子は恋愛しない!
 そう始まるこのドラマ。冒頭からいきなり荒れそうなセリフをぶちかます、それが本作主人公たる水無瀬碧です。恋愛小説の女王である彼女としては、それはないということだそうで。
 インタビュアーは先生のお嬢様ならお綺麗でしょう……とかナントカ言い出す。それをあっさり肯定する碧と、今のはカットと支持する編集者・松山なのでした。

あの羊羹はお詫びの証

 そんな碧の娘は20歳の空。彼女は男二人組にエンゼルフォレストタワーの道を聞かれています。そして彼らと碧の話になると。
 母は恋愛しないと成長できない,この世に生まれてきた意味がない、恋愛しないと弱いだの、いろいろ言っている。
 この時点でアンチハッシュタグをガーッと打ち込む人がいることは想像つきますけど。碧の職業を考えればわかりますって。この碧、一世を風靡した恋愛小説家だけれども、リアルな若者からすれば”オワコン“なんだってよ。そう娘に外で言われているとも知らずに、悪い虫がつくかと思ったのそうならないだの、逆に心配だの、碧はペラペラ言ってます。

 そしてここで小西編集長、空に道を聞いていたおっさんが、水無瀬家に来るわけです。手には辰屋(つまりは虎屋)の羊羹持参。この時点で、碧はお詫びだと察してしまう。そうそう、あの虎屋の羊羹用法はなんなんですかね。羊羹だけならまだしも、大手デパートの袋に入れて持ってこいとかわけわからんルールあるじゃないですか。
 要するに、碧たちは古びたルールで生きる住人ってことでしょう。
 碧の煽りは止まらない。ずーっと家にいたらどうしよう! 子ども部屋おばさんになっちゃう! どんどん火に油を注ぐ碧(というか、つまりは北川悦吏子さん)。度胸あるドラマだなぁ。
 そこで空はガラガラとスーツケースを運んできて、ビッグサイトでエロい漫画を山ほど買ってきたと戦利品報告をするのでした。

 さて、母娘の近所にあるすずらん商店街では。老舗鯛焼き屋「おだや」で秋刀魚焼きを開発中。四代目のゴンちゃんのアイデアだそうです。あんこの量が多いと残す女子高生を見て、あんまりあんこが入らないものを考えたとか。なんだそりゃ。型も作ったそうで、売れないと困りそうですね。タピオカブームにそれで対抗するのかとツッコミたいけれども、なかなか秀逸な現実のパロディだとは思う。こういうよくわからん創意工夫ありますもんね。

終わらぬ出版不況の世……

 さて、チャラい小西の要件は『ラファエロ』連載が来月打ち切りなんだそうです。昭和の私には仕事がないの! そう嘆く碧。ミステリーに挑み、シーズン1から始めたものの、売れないし、期待していた映画もないってよ。
 しかも後任は中川トモロウという俳優。ファンがついているから部数が見込める……ってオイ。出版不況と言われて久しいもの。ベストセラーを見ても『鬼滅の刃』ノベライズや『あつ森』攻略本。そんな時代ですもんね。オワコン小説家よりも、ファンが買ってくれる芸能人兼作家のほうが出版社としても手堅いよね。かくして日本の出版は!……まあ、そういう話はええから。
 このへんの設定が、おいしい鯛焼きみたいに皮肉と観察ミッチミチですな。
 言動の端々からオワコン感漂う小説家。
 手堅いヒットしか狙わず、どんどんドツボに陥る出版社。
 いい皮肉じゃないですか。カロリー高いなぁ!
 そしてここで、羊羹で釣り(味もいいけど、そこはブランドですね)、後任イケメン編集者を紹介してきます。立花漱石という名前がすごい。兄が鴎外というあたりも、親がいろいろ背負わせすぎていてつらい。
 ちなみに松山は早期退職だそうです。女はどうせ出世できない。アホな男にこき使われると思っているらしい。細かいようで、鋭いツッコミ。そういうジェンダー問題くらい、わかっていると。そのうえで碧の舐め腐ったゆるふわ恋愛至上主義言動をぶちかましてる。そういうことをきっちり出してくるから気が抜けないドラマですよ。
 で、小西がまたゲス。我が社きってのイケメン編集者をつけるとかなんとか。小西と並ぶと頭身の差がえげつないそうです。小西を君付けで呼ぶ碧。なんでも若き日の碧を発掘したのが彼だそうですよ。

 碧はドツボにあるようです。
 ローンはきつい。恋愛小説の時代じゃない。引っ越すべき? 働くべき? 何もできないのに! 空のように「おだや」で働けないか、時給5000円で雇ってくれないかと小田俊一郎にこぼすのでした。50円でも雇わん。そう断られてしまいます。しかも四十肩。つらい。
 さて、そんな「おだや」のゴンちゃんはわけあって独り身。書道教室で一緒で、硯を顎にぶつけたこともあるそうです。ここも碧の華麗描写がいい。バイトしている空の自転車で帰ろうにも、サドルが高いんだそうです。人間は加齢とともに、乗る自転車のサドルが低く、心拍数は上がらなくなるんですよ。

眼鏡を直す、豆乳味のイケメンがきた

 空は鯛焼きをカフェに届けます。そこでソイフラペチーノをもらい、テクテクと歩いて帰ります。おつかいをしたら、そのままあがっていいそうです。
 ここで水無瀬家の歴史でも。今は改築された場所に写真館を経営していました。それが地上げで金が入り、碧の両親はスイスに引っ越し。一人残された碧が駆け出し作家として一発当てたんだとか。で、成功の象徴としてタワマンを買ったと。
 そう祖父母と母の人生を振り返る空は、どこかおとぎ話をしているようでもある。これも結構皮肉っちゃ皮肉ですね。過去にはあったそういうスターダムに登る出版ルートって、あります? ちょっと前までは出版社がこれみよがしに華麗にデビューさせていましたけど、前述の通り、現在のベストセラーは『鬼滅の刃』ノベライズだってば。
 空はぼーっと考えています。『空の匂いを嗅ぐ』って小説だけど、空の匂いって? そして段差でコケる! 運命の出会いがキターーーーー!(※加齢表現)ソイフラペチーノをひっくり返したからと、助けてくれるイケメンはソイラテをくれます。そしてこけてすっとんだメガネの歪みを直す。おいっ、そんなことしてフレームバキッといかないか、おい! と思ったらなんかしらんが修理できる。そりゃ空も、眼鏡屋さんですかと気にしますわ。
 これが運命のイケメン・渉登場です。

人は、生活レベルを落とせない

 さて、すずらん商店街がわかる素敵な銭湯シーンでも。小田父子が風呂上がりにビール片手に語り合う。そして碧とゴンちゃんの結婚はないと確認します。
 一方、その碧と空の母娘は焼肉を堪能し、帰宅していました。ここで空は、逼迫した家計を訴えます。プラダだ、グッチだ、もうダメだ、うちの家計が危険だ! そう母に訴える空。そこで碧は「あんただって永野芽郁が紅白できていたトーガ」を着ていると言います。北川悦吏子先生のサービスか!
 それでも空はめげず、スマホで赤字の家計を見せてきます。そのあと、ハーゲンダッツがモデルとしか思えない高級アイスクリームを取り合うあたりが、現代の貴族って感じですね。
 このへんでイライラする人は絶対にいると賭けてもよい。でも、これって貴重な描写でして。贅沢が身に染みちゃうと、生活レベルを落とせないんですよ。幕末維新で屯田兵にでもされたら、やらざるをえないけどさ。貴族だって舞踏会はそうそうやめられなかったし。トランプだって借金まみれでもいろいろやらかして、Stripeまで止められてますよね。それでも人間はそういうもの、ぱぱっと倹約できたら苦労しないんですよ。
 なんでもこの家、母ひとり、子ひとり、お金の管理はいつの間にか娘がするようになったそうです。
 それでもドツボ。母はどんどん仕事を失う。出版社名をずらずらあげていって、講談社までそのまんま名前を使っているとツッコミを入れる。時折第四の壁を越えるところがある本作です。
 そんな追い詰められた碧は『アンビリカルコード』を売ると息巻いています。
 このタイトルからして、イケてないとわかってすごい。『ダ・ヴィンチコード』からどんだけ時間経過しました? その二番煎じじみたタイトルの時点でもうダメだとわかる。頭のアップデートができない女性物書きである碧は、北川先生渾身のセルフパロディであるとも思う。勇気ありますわな。こう先陣切って本人がぬけぬけとしていたら、「うぐぐ……」となるのが礼儀ってやつじゃないかな。したたかな脚本だわ。

陽キャと陰キャのキャンパスライフ

 さて、空の大学では入野というイケメンが写真撮影されています。空は陽キャ、光属性とそちらを見ないようにしている。違う生き物だとタブレットで漫画を読んでいます。ここで空は飲み会が全員作家必須と言われてしまう。それはナントカハラスメントだと空は返すのですが、全員参加、七時にくるように会場まで指定されるのでした。
 今時の大学生、こんな年寄りにはわからないな〜……とでも書くと思いました? 人間って変わらないと痛感しました。陽キャだの陰キャだの、そういう言葉はなくとも、若者ってこういうところがある。若さ関係ない、人間なんて石器時代からこんなもんじゃないですか? 空の気持ちにはわかりみしかないと言いますか。理詰めでテキパキ返しても押し切られるとか。そのせいでかえって「めんどくせーやつだな」と思われるとか。理解できる世界観ですよ。

 散英社では、小西が橘に「逃すなよ」と念押し。イケメンさえあればおばさんなんて釣れるという思い込みがイラっとくる。けど実際に、釣られるというかなんというか……イケメン推しのネットニュースなんか花盛りじゃないですか。イケメンがなんか色気あるこというだけで「なんちゃら砲キターーー!」とかなるやつ。
 そんな橘は沙織というバイトの女性を見つけて、どこかへ慌てて引っ張ってゆきます。おっ? 因縁あり?

 落ち込んでいる空。『アンビリカルコード』のプロットを練っていたのに! ふて寝するしかないのです。シーズン10まで考えたのに打ち切り……そりゃつらいですね。そこでスマホが鳴る。橘です。ここでの会話もキレッキレで、ノーベル文学賞といえば村上春樹とか、受賞していないとか、なんとかこちゃこちゃ入れつつ、『アンビリカルコード』はあと2回だと告げられます。40回は続けられそうと嘆く碧。プロット書いていたとか。水無瀬さんは真面目、仕事に真摯な方だ、と橘は返しますが。
 そのころ、娘の空は居酒屋。パクチーカクテルを飲むチャラいコンパ参加者たち。腐女子だけど美形だのなんだの言われる空ですが、ジロジロ見てくる入野に枝豆をぶつけます。そして見たいアニメがあるからとさっさと帰ります。誰も追ってこないと一人でつぶやく空。わかる、寂しいんだよな。一人でいい、こんなしょうもない奴らとつるみたくない! と思いつつも、寂しい。そういう心理ですよ。
 そんな中、空は一文字も書けなくなってしまう。ドツボです。
 入野は年上彼女の家に泊まっていくと。

親孝行を恋愛でする娘  

 帰宅した空は、南十条にいい物件があったとチラシを母に見せます。都落ちだと反発する碧。『アンビリカルコード』が売れないし、港区住まいもプラダもヴィトンも母ちゃんの見栄だと突き放す空。
 国立行ってくれたらとぼそっと行ってしまう碧。どうせ私立なら早稲田がよかったんだろと迫る空。勝手に書いて勝手に有名になったと母に迫ると、母は誰がここまで育てたと返してしまいます。
 母と娘は決裂し、出ていくと空。母親なら母親らしくしろと怒りをぶつけます。

 「おだや」でおしるこを食べる空。担任の先生を何人言えるかと空は母に言いました。覚えていたのはイケメンの先生だけ。イケメン好きだから……そうあきれたように言います。
 ここでゴンちゃんは、家を売らない理由を語ります。それは空のため。象印が見えるから。象印を見せると泣き止んだ。空は確かに待ち受けにするくらい、窓から見える象印が好き。今でもあれを見るとちょっとホッとするそうです。高校の部活で落ち込んだ時。国立落ちた時。あれを見ていた、少し気持ちが楽になる。カッコ悪くて秘密にしてたのに、母ちゃんにバレてた。三つ子の魂百まで、なんか安らぐ。そう語るのでした。
 空にとって大事なものは、母ちゃんにとってはもっともっと大事なものだ。そう素直に言えない母がもどかしい娘です。母ちゃんはいつも空を応援してる。そうゴンちゃんは言ってくれる。空は、母ちゃんのぶんもおしるこを持っていくのです。

 家に戻ると、暗闇の中で碧は座り込んでいます。どうした! まったく書けないライターズ・ブロックの中、母娘と象を描いた空の絵をスマホで撮影しているのでした。年中さんの時だったとか。碧はここが好き。3つのあんたも9つのあんたもいるから。そう娘に語るのです。そんな母に抱きつく娘です。
 南十条なんて言っちゃう駄目。『アンビリカルコード』がだめで筆を折るかと思ったけど、それでどうするのか? 目を離したら自信を無くすと娘の空は言う。南十条でどうするのか、私が恋をする! 恋をするからそれネタにを書けばいい! そう空は宣言するのでした。
 オタクで腐女子の恋なんておもしろい! 血みどろの漫画やBLばかり読んでるかと思った! そうがぜんやる気になる碧。恋愛小説も書ける。娘も恋をする! ばんざーい! そう喜ぶ碧なのでした。

 そう張り切る碧は、整体師のもとで四十肩を治療することとなります。オタクがヒロインだとラノベになっちゃう、とかなんとか。この人、ほんとうにラノベが何かわかっているのかな? そう思わせる喋り方です。自分が恋をしてときめく気持ちを思い出さなきゃ、とかなんとか。
 四十肩は重いのほか悪いらしく、新入りの若手イケメン整体師がやってきます。
 って、あの空の眼鏡を直したソイラテさんじゃないですか。しかもファン、『アンビリカルコード』も好きだったって。転んでドジっ子アピールまでしちゃって。
 かくして、母と子の、戦いの火蓋は切られた! そうですよ。

狙って暴騰するドラマについていく

 もう、知っている人はそうだと思うんで。バラしますけど。『半分,青い。』(武者震之助名義)のレビューを北川先生の紹介していただき、対談もさせていただきました。
 その経験は、むしろフラットにしたいのだけれども……どうしたって、出てきちゃう。ゆえにここから先はそこをふまえた自慢混じりの嫌味たらしさで、ちょっと有料で。
 とりあえず、のるかそるかの大勝負、私はついていきます。エイエイオー!

 うん、この碧は手だれの生み出したキャラクター像ですね。

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『ウチの娘は彼氏ができない』のレビューです。レビュアー・武者震之助名義で、『半分,青い。』レビューにおいて北川悦吏子氏より好評をいただいております!ゆえに、公式解釈に近いんじゃないかな、と思います。

『ウチの娘は彼氏ができない』のレビューです。レビュアー・武者震之助名義で、『半分,青い。』レビューにおいて北川悦吏子氏より好評をいただいて…

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