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【読書】若桑みどり『イメージを読む』

 若桑先生の本はハズレがないどころか、読むとすっきりと疑問が晴れてゆく。曹操は「名文を読むと頭痛が治るぜ!」と言っておりましたが、それはこういうことかと思う。そんな明瞭さがあります。論旨の組み立て、文体、軽妙さ……何もかもが卓越していて素晴らしい。どれほどよいかは、読んで欲しいとしか言いようがありません。
 そんな中でもこれを取り上げたのは、北村紗衣先生の『批評の教室』の次か、その前に読むべきだと思ったから。

美術史って、意味がないの?

 この本で驚かされることといえば、若桑先生に「美術史なんか意味がない」と言った学生がいたことでしょうか。ただ、若桑先生自身もそう思われることに納得しているような、そんな受け止め方はしています。
 美術史ね……確かに作物を育てるとか。大工とか。医者とか。そういうライフラインを支えることとは関係ないと言えばそうですよね。
 でも、これが人間が人間である意味でもあって。生命維持は動物でもできるけど、人間なら美術を求める。人間は踊り、歌い、絵を描く。人を人たらしめている美術の謎をとくなんて、そりゃあ深淵で楽しいものだろう。本書を読んでいくと、そんな気づきを得られます。

批評を否定する目線はある

 本書では、それでも若桑先生に無茶振りをする人がいるともわかってきます。
 美術なんて絵がきれい、素敵! それでいいでしょ。なんで描かれた背景だのなんだの小難しいこと読み取ろうとするの? そういう声ですね。
 
 でも、人間の作ったものには意味がある。創造の意義がある。なぜ、この花の絵を描いたのか? そう問いかけることこそが大事と懇切丁寧に、明瞭明快に説明されています。

 これは古今東西、ありとあらゆる美術鑑賞に通じることです。本書は西洋美術史、ルネサンス期の作品を扱っておりますが、批評すべてに通用する理論が根底にあります。

 『批評の教室』と併せて読むとよいのはそういうこと。『批評の教室』よりも鑑賞する作品の選択がマニアックでないため、とっつきやすい利点もあります。併読で批評のやり方を鍛えてゆける。今こそ読みたい一冊です。

『お姫様とジェンダー: アニメで学ぶ男と女のジェンダー学入門』もオススメ

 若桑先生では『お姫様とジェンダー: アニメで学ぶ男と女のジェンダー学入門』もおすすめ。北村紗衣先生はディズニーが嫌いと繰り返し発言しておりますが、そう言われるだけの理由もあると、『お姫様とジェンダー』を読めば明瞭明確に把握できます。どのあたりが問題なのか、散々言われているけれど案外まとまっていないような点を、本書はキッチリと説明しておりますので。

 北村先生は『批評の教室』で、ジェンダー批評はありふれていておすすめできないとあったけれども、そこまで到達できていない層が日本ではまだ分厚いと思います。若桑先生の本を読めば基礎からみっちりわかるので、あわせて読めばばっちりかと思います。
 若桑先生の本は全部オススメ。ハズしません。

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