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『おちょやん』20 芸は、舞台は、心を晒す

 みつえにつきそう千代。今日も大正アンティークのかいらしい羽織です。演じる東野絢香さんは背が高い。そんな彼女に大正らしいアンティークな着物を用意するだけでどんだけ大変かちゅうことやね。それができてこそNHKといえばそうだけれども、頭下がりますわ。 
 そんなおしゃれないとさんのみつえは、いつもと変わらない千代にイライラしています。

どうしたらええんかわからん! 怒りと苛立ち

 みつえかて、そんくらいのことはわかる。千代が働きに行く料理屋は、客に女をあてがう悪い噂のある店だと。そういう店で働いたら、それこそ嫁の貰い手もなくなる……。栗子は悪い女だとは思うけれど、彼女もそういう出身かとは思うんですよね。みんな何かの犠牲者ですわ。
 みつえがイライラしてもしゃないんですよ。でも、ずっとみてきた千代がそういう泥沼に落ちていくことが許せなくて。せめて怒って欲しくて苛立っています。
 千代はこう言います。
「どうしたらええ、みつえちゃん」
「みつえちゃんやない、いとさんや!」
 みつえの怒り方は、優しいものがあるとは思った。『なつぞら』で、学校でいじめられるなつではなく、夕見子がそんな相手に言い返せないなつ含めた周囲に怒っていました。そういう意味のある怒りがそこにはあります。ま、それはなくてもみつえは福助のトランペットを投げるし、関西さしいいらちな性格なんでしょうね。

 お茶子たちは、なけなしの金を集めて、残りをなんとかしてでも千夜を助けられへんやろかと訴えます。こういう周囲ができただけでも、千代はよかったんだと思う。けれども、シズはきっぱりと断ります。
「こないなことして千代のためによろしない」
 残酷な話ですけれども、そうだとは思う。借金に借金を重ねて、泥沼に落ちるといえばそうでして。これが大正の残酷さではあります。日本は明治の【通俗道徳】でガチガチで、自助だの共助だの言うて、おかみがなかなか助けない悪しき伝統があるものでして。

千秋楽が早まった

 それにシズは大慌てになる事情もある。鶴亀社長鶴の一声で、天海一座が中日で千秋楽になってしまいました。これは残酷な話ですね。手間や費用の面でいえば、中日で終わろうが元の日程だろうが一緒。それなのに、儲けだけは出ていく。コロナのご時世であることも考えますと、演劇の持つリスクや苦しさがわかる話です。
 しかも、天海一座は大変なことになっている。一座の看板である千之助が蒸発したんですわ。大正だなぁ。日本人は真面目でいきなり消えたりしない、責任感がある!……っちゅうのは戦後、高度経済成長期あたりからの神話やね。一世紀前は、
「あかん、日本人はあかん! すぐ仕事投げ出すし消えよる! 無責任すぎてあかんわ!」
 ちゅう問題意識があったもんやで。テルヲも夜逃げしてましたやろ? 無責任やし、すぐ消えんねん。ましてや大阪はな。日本軍の連隊で一番弱いのは、第八連隊といわれとったんですわ。またも負けたか第八連隊。逃げ出すゆうたら第八連隊。そうでなくて強いっちゅう反証もありますが、弱いこと前提で反証がある時点でな。まあでも、それは悪いことじゃない。大阪の人は機転が効くから、「あかんいうたらあかん!」となったら軌道修正できるってことでしょ? それはそれでええんちゃうか。
 はい、千之助はこんな手紙を残しとる。

一匹の鮃(ひらめ)では
煮ても焼いても食えやせぬ
もはやこれまで

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2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

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