『おかえりモネ』第67回　離れ難き故郷よ

　朝岡は登米を訪れていました。この場面は時系列が巻き戻してあります。朝ドラでこういう時系列逆転、しかも回数をまたいでするというのは珍しい。難易度があがります。そういうところが本作の視聴率が低迷する理由かもしれません。現代物はそもそもが低迷する傾向があります。

土石流に襲われたあの町は

　登米に来た朝岡は、はっと汁等でもてなされております。それにしてもおばちゃんの宮城言葉がうまいこと。サヤカに泥だらけの靴を謝る朝岡。8年前もそうだった、ひどい顔をしていたとサヤカは言います。劇中は2016年ですので、朝岡とサヤカの出会いは2008年、大震災前だとわかります。こういうセリフも難易度が高い一因ですね。
　2008年、石音町は集落全体が経験したことのないような土石流に襲われていました。石ノ森章太郎が描く東北の雨は美しい。けれども、その雨が人の生活を壊したのです。

　今回被害にあったのも、その石音町でした。
　沢渡が事前に避難できたからこそ命が守れたと熱弁を振るっています。なんでもこれで特集をする案を挙げているとか。朝岡も力強く「通したい」と言います。努力の結果が実っているのだ、頭が下がると。
　でも、石音町に問題があるのではないかと内野はつぶやいてしまう。何度も土石流が発生しているとなると、大雨が降るたびに復興しても被害に遭うとなると、そもそも住んではならない場所なのかもしれない……。
　モネはその言葉を聞き、故郷の祖父のことをふと思い出します。
　住めない場所ならば、離れるしかないのか？
「いや……」
　朝岡とモネは同時にそう言い出します。それは無理な話です。そう口にしてします。
　故郷とはそう簡単に離れることができるものではないのだと。

蕎麦くらい普通に行けよ……

　あとでモネに対して、朝岡はああいう話をしたことを謝ります。モネはかえって「気を遣わせてすみません」と謝ってしまう。これはモネが卑屈というよりも、自分の打撃を最後に回す傾向があるがゆえのことかと思います。菅波も同じ傾向があるので、「自分より患者さんが傷ついた」と慰められても言ってしまいます。かわいくない！　素直じゃない！　そう思われがちでもある特徴ですね。
　朝岡は考えなくちゃいけないことだと言います。もはや住めない、離れなくちゃいけない。そんな場所のことを考えなければならないと。

　モネがコインランドリーで洗濯をしながら考え込んでいると、菅波がやってきます。
「お久しぶりです……」
「この間は……いえ……」
　ぎこちない二人、やはり距離は縮まらないのでしょうか？　モネが悩みを聞き、そっと手を当てたあとでもこれですよ。モネは柔軟剤を入れて自動にすることにぼーっと感心していますが、ここで異変が起きます。
「そばでも行きませんか？」
　洗濯が終わるまで時間もある。お昼がまだなら、洗濯が終わる48分経過するまでの間、そこの蕎麦屋に行かないかとぎこちなく声をかけてきます。モネもぎこちなく応じます。
　明日美がこのあと出てきて「蕎麦くらい普通に行けよ……」と視聴者の気持ちを代弁するのでした。
　菅波も、好意を持った相手と距離を縮めるためには食事が有効だとはわかっています。ただ、そこで笑顔を見せたりなかなかできないと。食事に誘ったのだから距離は縮んでいますよ！
　でもモネが相手だから通じる。「イケメンだけどなんかきもっ……」と思われることも多いでしょうね。

正しいけど、言い方が冷たい

　コインランドリーに戻り、モネは朝岡のことを話しています。菅波は朝岡は医者と同じだと言います。なまじ当事者だと判断できないかもしれない。それを第三者が判断を下す。菅波はホルン演奏家のことではそれができなかったと自省気味ではありますが。
　個人的には致し方ないと菅波は言います。
　サンマが最近とれなくなっている。サンマは冷たい水を好みます。となると、さっさと移動してしまう。生物は生存に適している場所へ何の思い入れもなく移っていく。後ろめたさは感じなくていい。生存とはそういうことだ。そう菅波は言います。
　モネは重大なことを指摘します。
　先生はいつも正しいことを言う。でも言い方が冷たい。
「でもやっぱり思います。離れてよかったのか……」
　モネなりに、思うところはあるのでしょう。そんなモネに手を伸ばそうとして、止めてしまう菅波。そう伸ばしかけた手を見て、唖然とする人物がいます。
　牡蠣の入った発泡スチロール箱を抱え、サングラスをかけ、小っ恥ずかしい派手な服を着た耕治……ダサい。無茶苦茶ダサい父がそこにいる。
「お父さん……」
　驚かそうと思っていたけど驚いたなぁ！　そう父は言うのでした。『スカーレット』のヒロイン父とはちがって、出会い頭に娘に近づく男を殴るようなことはしませんが。