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『虎に翼』第79回 高瀬と縮まる距離

 高瀬が名士森口を突き飛ばし、それに寅子が巻き込まれた事件。それを聞いた航一は、まだ彼は兄の死を受け入れていなかったのだろうと口にします。
 次郎はもう戦死の知らせは届いているというものの、航一は死を知ることと、受け入れることは違うと言います。事実に蓋をしなければ生きていけない人もいると。

事実に蓋をして生きていく

 そういえば航一は、父の朋彦が、妻が亡くなった航一には後添えがいると語ると、嫌がっておりましたっけ。
 彼の言葉を聞くうちに、寅子は自分のことだと思い当たります。
 しかし次郎は納得せず、みな戦争で誰かしら大事な人をなくしているし、もういい大人だといいます。
 なるほど。そう航一は噛み締めるように言い、そう言われるとわかっているから、高瀬は乗り越えたふりをするしかなかったのだろうといいます。
 どこか冷たく、突き放したような航一。次郎はこれ以上何も言えないので、東京の人はしゃれているだのなんだの誤魔化して、弁当を楽しむよう言い残し、出ていくのでした。
 航一のどこか冷たく達観した微笑みには、彼自身の閉ざされた心があります。亡くした妻のことを思い出して考え出すと、いろいろな気持ちが溢れて動けなくなってしまう。だからこそ蓋をしているのに、外野は蓋をこじ開けようとする。そのことに対する過剰防衛の態度がみてとれます。
 寅子は悟りました。
 自分の話をされているようだと。ここで航一が顔をあげます。彼もわかってしまったのか、寅子の涙が、亡くした誰かを悼んで流したものだとすれば、自分も閉ざされた心に触れてしまったのかもしれないのだと。
 寅子は娘に夫の話をできなかったといいます。まだ赤ん坊だった娘が知りたいのならば、話を聞きたがっているのであれば、するべきなのにできないのだと。仕事ばかりしていたせいで娘との間に大きな溝ができてしまった。その溝を埋めたいのに、話したくなないけれど、話せるようになりたいのだと。

溝を作りにいくたち

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