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絵本でイランの今に触れる~「ノホディとかいぶつ」(イランの昔話)
ひよこ豆から生まれた女の子(ノホディ)が、自分たちを食べようとした怪物(ディーヴ)を退治するーー。
それが「ノホディとかいぶつ」だ。
再話・翻訳の家愛甲恵子さんの解説によると、「ノホディ」は小さい者の代表のような存在で、話によって男の子にも女の子にもなるとのこと。一方「ディーヴ」はペルシャ語で言うところの怪物で、物語によって姿かたちを変えつつ悪役を担う者であるらしい。日本の「鬼」のような存在だろうか。
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小さなノホディは、自分と友達をディーヴから食べられないよう知恵を尽くして退治する。ああ、めでたしめでたし、というストーリーだ。
それにしても昔話というのは、古今東西、残酷で理不尽な要素を含んでいるものなのだ。
ノホディは盗人だ。
ノホディは怪物殺しだ。
ノホディはペットのヤギ殺しだ。
ノホディは小さなかわいらしい女の子である。
自分が食べられないため、という生物として究極の目的があるからには、相手を殺してしまうのはある意味仕方がないかもしれない。しかしその手段は残酷で、怪物のペットのヤギを犠牲にすることもいとわない。
ナンを焼く窯にディーヴを落として、焼き殺してしまう。
ディーヴのペットを、飼い主であるディーヴの手により殺させる。
とても非道なことをサラりとやってのけるノホディだが、それだけに留まらない。欲を出して、ディーヴの持ち物である金のスプーンまでも盗んでしまう。
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こうなると、どっちが悪人だかわからない。
しかしながらこれは人間を中心にした物語である。
人間が善であり、怪物は悪なのだ。
(ひよこ豆から生まれた少女を「人間」とするのは若干抵抗があるが、物語の中でノホディは人間の子供として扱われている)
さて、この昔話の教訓はなんであろう。
七転び八起き
ーーどうらろうか?
現代に置き換えると、変質者に誘拐されても、ただでは逃げ帰ってくるな。犯人にダメージを与え、なおかつ自分がさらに得するように行動しろ。
ーーいささかシビア過ぎるだろうか。
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近代以前は、警察やそれに該当する公の機関というものはなかった(あっても小規模?)だろうし、自分の身は自分で守らなければいけない、という考えが強かったに違いない。他人を頼らず、自分の力で悪を成敗する。そういうお話なのだ。
おっと、これは絵本なので肝心の「絵」についても触れておこう。
ディーヴは怪物というより変質者のような見てくれだ。こういうオッサンは現実にもいそうである。嫌らしい目つきと、厚い唇。うすら禿げにイボイボの顔体。それに対してノホディは、かわいい。おさげ+ちょんまげのヘアスタイルにつぶらな瞳が印象的だ。
イラストはイラン在住のナルゲス・モハンマディさん。この方は、別の記事で紹介している絵本「アリババと40人のとうぞく」のイラストレーターでもある。こちらの「ノホディとかいぶつ」では、手書きのイラストへ”柄の入った紙”と”本物の押し花”を添付して一枚の絵としているのが特徴的だ。
絵柄は全体的にほのぼのとかわいらしい。大人の女性は、頭から足元まで隠れるベール(チャドルをもっとオープンにした、ウェディングドレスのベールのようなもの)を被っている。昨今のイスラム女性のスカーフの被り方とは異なる着こなしだ。これは昔話なだけに、イランの伝統的な衣装の着方なのだろう。
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それにしてもこの怪物ディーヴの気色悪いこと。
ナルゲスさんの怪物に対する思い入れが感じ取れる風貌だ。
ストーリーは特別捻りのないシンプルな昔話だが、この絵の迫力により物語の面白みが増している。子供たちはこの絵本を読みながら「こんな化け物に捕まるくらいなら、家でおとなしくしていた方がよい」などと思うかもしれない。
絵本というのは、話の内容と絵の巧みさ、それらの相乗効果によって更に飛躍するものなのだと、改めて感じさせる作品であった。
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