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高校二年生による【米津玄師2022TOUR「変身」ツアーファイナルライブレポート】

その日のさいたまスーパーアリーナには、沢山の人間が溢れかえっていた。
2022年10月27日、米津玄師にとって2年以上ぶりのライブツアーの最終日の公演となるさいたまスーパーアリーナの千秋楽公演。チケットを取ることさえ信じられない程の奇跡的な倍率をくぐり抜けてここまでやって来た人々の耳に、まもなく開演、というアナウンスが鳴り響いた。
会場内が暗転し、大勢のファンの拍手喝采が鳴り響くといきなりエレベーターのアナウンスが混じる不思議な音声が流れ出した。



ステージ上のモニターには、今回のライブグッズにあやかったキャラクター、「NIGI chan」が「感電」や「Flamingo」のMVを彷彿とさせる地下駐車場を運転をしている映像が映し出される。「ETA」の間奏部分の逆再生の音が流れるさなか、画面内のNIGIchanは車のトランクを開きタンバリンを鳴らしたりして荷物を準備し終えると、ジョウロを持ってエレベーターへと乗り込む。



会場中を見渡し、ダンサーたちと踊ったりジョウロを振り回したりしながら今年2月にリリースされた「POP SONG」を軽やかに歌い上げると、バンドサウンドが耳に心地良い「感電」のイントロとともに怒涛のSTRAY SHEEPゾーンが幕を上げた。モニターに映し出される、ラスベガスドリームのような映像とともに、MVのミラーマンたちと同じ踊りを踊るダンサー辻本組。米津も身体をくねくねと動かしながら繊細に歌い上げた。


POP SONG でのパフォーマンス


会場内の盛り上がりが段々と加速し、「感電」を歌い終えると、RADWIMPS野田洋次郎とともに歌った「PLACEBO」を一人で歌う米津。ピンクとターコイズの、まさにSTRAY SHEEPを彷彿とさせる照明の演出が会場中を駆け巡る。


「PLACEBO」が歌い終わると、会場内に(何故かカタコトで)話しかける米津。「今日は楽しい一日に出来たらいいです」と語ると、フィルムが回るような音とともに、「迷える羊」を歌い出す。ファルセットが遠吠えのように震え、辻本知彦によるコンテンポラリーダンスが観客たちの目を引いた。

迷える羊 の演出。
左:辻本知彦 右:米津玄師


会場内の誰もが、これからの曲順での盛り上がりを予想する中米津歌い始めたのは「カナリヤ」。歌い出しから繊細な歌声が会場を包み込むその様は、さながらコロナ禍に抱えてきた全ての苦しみを浄化するかのようであった。鳥かごのような光の筋の中、丁度中央で優しく歌う米津に黄色の一筋の光が差し込み、会場全体が拍手を忘れて歌声に魅入っていた。

歌い終えると米津の頭上に映し出されるのは、光が差し込む窓だった。二羽のカナリヤが窓の向こうにある光の中へと溶け込んでいくと、米津のライブではすでにお馴染みの、ドラマ版の重厚感と悲壮感のあるストリングスの前奏が流れ出し、息を吸って始まったのは「Lemon」。
「カナリヤ」で映し出された窓がそのまま残り、非常に重厚感が増したように感じられる「Lemon」でも照明の演出が一際光っていた。


ここまでの6曲全てが原曲キーでの歌唱であったこともあるのか、「口から音源」とはまさにこの事ではないかと言うほどレベルの高い歌唱で「Lemon」を歌い切ると、ステージ中央の9:16サイズの縦長LEDモニターに映し出されたのは、映画「怪獣の子供」の映像、そう、「海の幽霊」のMVだ。何度見ても美しく切り取られているこの映像を背に米津の美しく儚いファルセット、そして2番の大サビで本公演一なんじゃないかと思うほど強化された重低音が観客たちの身体を物理的にも震えさせるほど鳴り響いた。


何故かカタコトの挨拶から始まる突飛なMCを挟むと、「今年結婚した親友」こと菅田将暉に提供した「まちがいさがし」のセルフカバーを歌う米津。小鳥のさえずりや、優しい歌声に混じって結婚を祝福するかのような毅然とした米津の声が確かにそこに漂っていた。

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会場に設置されたフォトスポット。
10thゲートと同じく、米津玄師の曲名やサイドの空間モニターにM八七のロゴやとんがりくんが映し出される。


アウトロが流れた後も小鳥のさえずりと時計の音だけがずっと残り、次第にドラムやベースのチューニング、ストリングスの美しい音色が奏でられた。段々と盛り上がりを見せると始まったのは「アイネクライネ」だ。ギターを爪弾きながら紡ぐように愛を歌う米津の洗練された歌声が聴く人々全ての心に響いたはずだ。


次に歌われたのは「Pale Blue」。非常に耽美で純粋なラブソングに合わせ、男女のダンサー二人がすれ違う恋を体現したかのようなコンテンポラリーダンスを披露する様は、さながら主題歌となった「リコカツ」の主人公二人を彷彿とさせる。Cメロからのドラムスアレンジが印象的であった。



「Pale Blue」のアウトロに子供たちの笑い声や雑踏らしき音が重なり、続いて歌い出したのは「パプリカ」のセルフカバー。米津はステージ中央の円形ステージへと移動し、夕日が昇っていくかのような映像や会場中に花が舞い落ちる中、上昇するステージの上でノスタルジックに歌い上げた。まるで大人になったFoorinのメンバー達が邂逅したかのようなダンサーたちの踊る無邪気な「パプリカ」の振り付けが、また一層にこの曲の解像度を上げたことだろう。

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当日のさいたまスーパーアリーナの様子


「パプリカ」を歌い切り、会場内の拍手が止んだ頃、またもカタコトな挨拶から入ったMCで、米津は「今日くらいはイヤなことが全く無い一日に出来たら、なんて素敵だろうかと思う」「人生はクソだけど、今日がそうじゃないなら良いと思いながらツアーを回って来て、また今夜もそんな思いが叶う一夜であればなと思います」と語った。観客たちの拍手に、「みんな思い思いの楽しみ方をすればいい」と言う米津。そうしてMCを終えると、次の曲がまた始まった。

パプリカ のパフォーマンス


激しいギターから始まる「ひまわり」。轟くようなシャウトでロックナンバーを歌い上げた米津。MCでもあったように各々手拍子をしたり腕を上げたりバラバラな動きを見せる観客席ではあったが、確実に心は皆同じ、「ひまわり」へと向かっていたのが見て取れた。バラバラなのにしっかり一体化するさいたまスーパーアリーナのその様は、「今はもう居ない」米津の親友のもとにもきっと届いたはずだろう。

ロックナンバーで観客席の盛り上がりがことさらに高まりを見せると、エレクトリックなイントロが印象的な「アンビリーバーズ」を歌う米津。「ひまわり」そして「アンビリーバーズ」の2曲の歌詞がずしりと重みを増し、「こうしてちゃんと生きてるから心配要らないよ」という歌詞には、多くのファンが胸を打たれたことだろう。イントロに合わせて会場中を激しく照らす照明が非常に印象的であった。個人的にこの照明の演出をしてくれた方に3日間くらい惜しみない拍手を送りたい気分だ。


久々の「アンビリーバーズ」を聢と歌い上げると、アッパーチューンな「ゴーゴー幽霊船」のイントロが会場を包み込む。1、2、3の掛け声に合わせて銀テープが会場内に舞い落ちると、観客席が一体となりさいたまスーパーアリーナ全体が揺れるほどのハイテンションな手拍子が会場中を駆け巡った。米津の歌声も激しさと荒々しさを増していった様に感じた。これも極私的なことだが、この千秋楽公演の丁度2日前にセブンティーンになったばかりであった私にとって超最高だった。語彙力を失うほど最高of最高だった。


続く「ピースサイン」では待ってましたと言わんばかりにピースをする観客たちの姿、照明の演出が印象的だった。バンドサウンドに映える「ゴーゴー幽霊船」に続いて「ピースサイン」もものすごくライブが映えると思った。この辺から大声禁止にも関わらず沢山の人が悲鳴を上げていたように感じる。


拍手を引っ裂くように始まった「爱丽丝」のドゥーンというイントロ。「脊椎がオパールになる頃」と同様、虹色に輝く照明に観客が揺れ動いて呼応していると、米津が突然「ギター常田大希!!!」と叫び出す。間奏のギターソロを米津と共に弾きまくって現れた常田大希。あんなに縦横無尽に動きながらでもギターが弾ける常田と米津には脱帽した。観客席の盛り上がりが最高潮に達し、「爱丽丝」を歌い上げると、常田を紹介するような小さなMCが入った。


爱丽丝 のパフォーマンス


「リハーサル無しだったのにこんなに暖かく迎え入れて貰えて嬉しいです」と語る常田。すると米津は「こないだ二人で筋トレしたんですよ」と冗談めいて先日公開された「KICK BACK」のMVの話をすると、「この二人が出てきたってことはもう分かると思うけど…次がラストです」と語る米津。


「最後まで盛り上がりがって行きましょう」と言う米津に呼応するかのように凄まじい拍手を送る観客たち。拍手の波を引き裂くように始まった「KICK BACK」のベースライン。ステージには聖火の様な火が燈る。米津のTikTokアカウントで投稿されたパフォーマンス動画と同じようにステージ中央の縦長モニターにパフォーマンスをする米津や常田、ダンサーたちの様子が映し出される。

熱狂の炎が灯される
KICK BACKを披露する米津玄師(右)と常田大希(左)


猛りながら、常田大希と共(狂)奏しながらシャウトで歌う米津玄師の姿は、今までにないほど苦しそうで面白そうで楽しそうであった。
さいたまスーパーアリーナが紅に染まり、ダンサーたちが激しく踊り狂い、観客たちもこの日最高の手拍子、腕上げを見せながら文字通り熱狂に包まれた会場。叫ぶように歌う米津の声が消えると共に、ステージが暗転した。

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来場チケットの裏面デザイン


アンコールを希う手拍子に合わせて、裸足で登場した米津。ステージ中央に置かれた座布団に胡座をかいて「死神」を歌い上げる。思い返せば本公演では胡座で歌うなど米津自身のパフォーマンスが非常に多かったにも関わらず、ほぼ音源と差異はないハイレベルな歌声を届けていた。会場内も静かに猛り出しラスサビを終えると、フッという音とともに照明が消えた。

続くアンコール2曲目では、「ゆめうつつ」が披露された。ピンクの艶やかな照明が米津を包みながら、舞い出すシャボン玉の中で米津は身体をくねくねと動かしながら歌い上げた。「声が出せるような喜びが君に宿り続けますように」という歌詞が観客たちの心に染み渡った。ドラムス、ベースのアレンジも「Pale Blue」同様ライブでしか聴けない素晴らしいものとなっていた。

優しくも儚い「ゆめうつつ」を歌い上げると、メンバー紹介が始まった。Guiの中ちゃんこと中島宏士による歌のおにいさんの様なMC、米津がただただ見たかった中島の謎のダンスタイムを挟み、(ダンスを終えた中島に米津が言い放った、「徳島のマイケル・ジャクソンたぁあんたの事だよ」という感想には会場全体が笑いの渦に巻き込まれた)本ツアーの締め括りに相応しい、祭りの様なMCだった。常田大希を呼ぶ米津だが、ステージには結局常田は戻って来ず、「どっかで煙草吸ってんだわ」というスタンスがまさに常田大希だなぁと感じた。
チーム辻本の紹介を挟むと「アンコールあと2曲です。次の曲はみんなでね、やりたいと思うんで、ラストまでよろしくお願いします」と言い、「馬と鹿」が始まった。


ステージの花道に取り付けられたベルトコンベアを最大限に活かした演出、チーム辻本の信じられないほど荘厳なコンテンポラリーダンスが非常に美しく彩られた「馬と鹿」。美しいという言葉を体現したかのようなそれは、観客たちの網膜に焼き付いたであろう。

馬と鹿 での演出


そして最後に演奏したのは「M八七」。花道中央で一人きりで歌う米津。ステージ中央のLEDモニターには美しい宝石が映し出され、聴く人誰もがその歌声を耳に焼き付けていた。Cメロではミラーボールが回転し、さいたまスーパーアリーナの天井に銀河系のような星の渦を生み出して、観客たちを魅了した。
繊細で美しい歌声を届ける米津は、さながらウルトラマンの様な、非常に美しく強い存在に感じた。

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終演後のさいたまスーパーアリーナの様子。ネオンカラーにライトアップされている。


歌い終え、ステージを後にする米津。モニターにはエレベーターから「NIGI chan」が登場。車のトランクを開けジョウロや荷物を入れると、車に取り付けられたオーディオからモノラルの「ETA」が流れ出す。
ハンドルを握ると地下駐車場から出ていく「NIGI chan」。サビメロになる所から、「ETA」の音源が会場に広がり、ステージ中央のモニターにエンドロールが映し出された。
首都高速道路の様な所を運転する「NIGI chan」。「ETA」の歌詞にも「いつまでも道は続いていく」とあるように、長い長い道を行く「NIGI chan」。


きっとこれからも、米津玄師の音楽は続いていくのだろう。


米津玄師2022TOUR「変身」

atさいたまスーパーアリーナ

10月27日公演

セットリスト


1.POP SONG
2.感電
3.PLACEBO
4.迷える羊
5.カナリヤ
6.Lemon
7.海の幽霊
8.まちがいさがし
9.アイネクライネ
10.Pale Blue
11.パプリカ
12.ひまわり
13.アンビリーバーズ
14.ゴーゴー幽霊船
15.ピースサイン
16.爱丽丝(with 常田大希)
17.KICK BACK(with 常田大希)

~ENCORE~

18.死神
19.ゆめうつつ
20.馬と鹿
21.M八七

~ENDROLL~
∅.ETA


※見出し画像はリイシューレコーズ公式Twitterのツイートより引用※
引用元:

https://twitter.com/reissuerecords/status/1518865946626076672?s=20&t=I6Lz57SNCF1xp-MbQrgaZA


※ライブ写真は下記記事より引用。Photo by 太田好治/立脇卓/横山マサト/八尾武志※

引用元:



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