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読書感想文「正欲」(ネタバレなし)

読み終わった後も、ふとした瞬間に私の中にある多様性のあり方は公平なのか、考えさせられる物語

朝井リョウは「何者」と「何様」を読んだことがあり、割と波長が合うので本作のことは長らく気にはなっていました。

ただ何となく、セイヨクというタイトルと、裏表紙のあらすじから不快感が高そうな話かと思い、うっすら敬遠していました。

しかし、(もともと読書量は多くないけど)こんなに後を引く読書体験なんて何年に一度あるかないか、最近はほとんどありません。

そういう経緯もあって、どうしてこれほど気になるのか自分でも考えてしまいます。

出版社のコピーそのまま、読む前の自分にはもう戻れないです。

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自分の身の回りでも、多様性だとかインクルーシブだとか、それっぽい言葉はもう何年も前から割と近くにありました。

しかし、約7年前、アメリカの中でも比較的LGBTQ+に寛容なカリフォルニア州に住んでいたときのこと。
地元であったちょっとしたコンサートが終わり、観客が皆満ち足りた気持ちで帰る中、群衆の片隅でしあわせそうに人前でキスをしている男性カップルの姿に驚きました。
驚いた自分にはもっと動揺しました。

それまで、単語の上澄みをすくっただけで分かった気になっていて、それがイマドキの価値観だよねだとか、どこか同性愛者に理解を示している風な態度を取っていたのが恥ずかしい。いまでもその独りよがりさを思い出すとゾワっとする。

自分がマイノリティだと認知していたのは自分が想像できる範囲での、しかも割と身勝手なマイノリティな部分だけなのです。

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この「正欲」では、想像すらしていなかったわたしには信じがたい感覚、感情を持つ人たちの話でした。

文脈の意味が分からず「そんなことある?」と訝しみながら、あらすじを読み返したりもしました。

それは自分の経験にもとづく過去の教訓や反省めいたものはその程度だったことの裏返しでもあります。

読了後、自分の想像を超越していたこの作品を何日か反芻していたら、まさに「正欲」を彷彿とさせる事件が本当にニュースになっていました。

このニュースを茶化したり笑うことはもうできません。速報性が求められるニュースで語られてしまう事実も疑わないといけないのかもと思ったりもします。

多様性の定義に照らし合わせて正解不正解を気にし、自分の中の感覚は正常だよね?と確認しあい安心してる時点で、多様性の本質からかけ離れていくのを自覚します。

マジョリティが正常でマイノリティが異常であると決めつける資格は誰にもありません。そもそも、こうやって人にラベルを貼らずにありのままを受け流せる人になりたいです。

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