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読書感想文「推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない」

リアル書店だからこその偶然の発見

本書との出会いは偶然。
近所の有隣堂をアテもなくブラついていたら、平積みされた派手な黄色いの表紙が目に飛び込んできた。

正式なタイトルは、「推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術」。著者は三宅香帆さん。

タイトルもなかなかだけど、表紙とあわせてみるとインパクトがあって、今風にいうと、クセが強い。

ふだんなら手に取らない装丁だったのに、タイトルが目に入った瞬間にピンときた。
うまく書けるようになりたいなあ、と悩んでいたポイントを突いていたのだ。

見た目以上に対象読者層は広そう

「誰かに推しの話を、伝えたい、語りたい、読んでもらいたい、でも何がよかったのか、言いたいことがまとまらない」、「感想が、やばい、最高、泣ける、好き、しか出てこない」、あるいは友人らに推しのすばらしいところを熱心に話したけど、いまいち相手に響いてない。ー 意外とこういう経験がある人は多いとおもう。

本書は、こんなふうに自分の大事な推しや好きをブログやSNSに書きたいと思っていても、いつも決まった常套句しか出てこなくて、やきもきしてる人に向けられている。

他の文章術の本のように、テーマの見つけ方や話を掘り下げたり、広げたりするテクニックも指南してくれる。しかし、それらと明確に異なる点があり、それは自分の「推し(好きなこと)」を自分の言葉で表現する着眼点を分かりやすく説いてくれる点である。

他にも、感想を書こうとしても、SNSで偶然目に入った他人の感想に自分の言葉が引っ張られてしまう人や、SNS特有の批判的反応が気になり書けない人に対してもかなり寄り添って書かれている。

この本と他の文章術との大きなちがい

本書の優れている点は、書くべきテーマを漫然と読者(書き手)に委ねてなく、書き手が押さえるテーマを「推しの好きなところ」に縛っているところ。そうすることで、思考が広がりすぎないよう書き手が押さえるべき点をうまく誘導して、掘り下げるポイントを導いている。

その論理展開は、こじつけでも無理筋でもなく、非常に丁寧に慎重に進められている。そのため、この手の書籍でありがちな著者の成功体験にもとづく押しづけがましさは感じにくく、推し活初心者もハウツー本を敬遠しがちな人も納得して読み進められる内容になっているとおもう。

この著者自身、推し活から日々の活力をもらっていて、それを表現する楽しさや距離感の取り方のむずかしさを知っているからこそ、「推し=自分の好き」との向き合い方やそれをどう表現していくかを解説してくれている。

書く技術よりも大事な心構えや気持ちの持ちよう

究極的には、自分は自分の好きの積み重ねでできているのだから、自分だけの好きを大切にしよう、その気持ちを大事にしようと支えてくれる。

直接的には書かれていないけど、文章やSNSは自分の推しへの想いを語る手段なのに、それが目的になって疲弊してしまうのはもったいないよ、という話。

実は仕事や日常生活にも応用できるヒントがある

文体や構成、レイアウトなどは20代、30代がターゲットかもしれないけど、性別や年齢問わず、素直にもっと広く読まれていい本だとおもう。

「推しの好きなところを語る」という点に絞られているのが本書の特長であるが、一歩引いてみると、それ以外のことに対しても一般化して応用できる内容なのだ。

推し活にかぎらず、なにかしら自分の感想や想いを整理し、SNSやブログで表現したい人、でも考えが行き詰まりやすい人にはたくさんヒントがあるだろう。

本書の内容の一部を抜き出してみた。

  1. 感想は自分の感情だけが大事

  2. 伝わりやすさの決め手は工夫しだい

  3. 妄想力で思考をこねくりまわす

  4. 言語化とは細分化のこと

  5. とにかく書ききる。それまで他の人の感想は見ない。

  6. 感想のオリジナリティは細やかさに宿る

感情がうごかされるほどの体験をして即座に言語化できないのは当然

特に良かったのは、著者の言葉を借りると、

感動が脳内ですぐに言語に変換されないのは当たり前のこと。むしろ、言語化できないほど感情が動かされるものに出会えたことをうれしく思いましょう

10代のときの感動は、言語化できない感情がたくさんあって未知の「驚き」の感情にたくさん触れることができるからかもしれない

わたしたちは他人の言葉にどうしても影響を受けてしまう。だからこそ、他人や周囲が言っていることではなく、自分オリジナルの感想を言葉にして、誰かが作った言葉や誰かが広めた感情ではなく、自分だけが感じていることを伝えるのが、何よりも大切。それを伝えることこそが、わざわざあなたが語る意味になる。

おわり

書籍化用にページ数が必要なせいか、同じ内容がちがう表現で繰り返し強調される箇所がある。それがやや冗長というか、くどい感は否めない。しかし、著者が伝えたいエッセンスが凝縮されていることには間違いない。

表紙の見た目の雰囲気でスルーされていたらもったいないなあ、と思うぐらいに自分にとっていい本だった。

それにしても書き切るのは大変。

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