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さよならのかわりに

私の名前はかわいこちゃん
皆が私をかわいいと言ってくれた
あの人には一度も言われたことがない
でもあの人が一番私に優しかった

私の名前は黒猫ちゃん
私が神社に引き取られた日
黒猫が鳴いていたから神主様にそう名付けられた
あの人には一度も呼ばれたことがない
そういえば私もあの人の名前を知らない

神社の神主様が私のパパとママ
身寄りがなかった私を引き取ってくれた
いい人だけどお金の稼ぎ方を知らなかった
神主と巫女の稼ぎなんて知れている
私たちはいつもおなかをすかせていた

おなかがすかなくなったのは私のおっぱいのおかげ
やせっぽちなのに胸だけは同じ年ごろの女の子たちより成長した
通りすがりの男の人に視線を注がれることが増えた
ある日、私の胸に視線を注ぐ以上のことをした男の人がいた

その男の人は神主様に金子を渡していた
それから私を奥の部屋に連れて行って、口で息をしながら、ずっと視線をそそいでいた私のおっぱいをわしづかみにした
悲鳴をあげたけど、助けは来なかった

部屋の向こうで、神主様の気配はしていた
声を殺しているようだった
部屋には布団が敷かれていた
私はその男に奪われた
何もなくならなかったけど、心の中のどこかが欠けた

その日はじめて白いごはんとご馳走が食卓に出た
神主様はつとめて「やさしく」私に話しかけた
また私にああいう男の相手をさせないとこういう食事ができない
彼の話の真意はそこだった
他の方法を知らなかった私はすべてを彼にゆだねた
私のおっぱいにむしゃぶりついてくる男
恥ずかしい恰好をさせて喜んで腰を動かす男
皆私に「やさしく」話しかけた
もっと自分が気持ちがよくなることをさせるために

私が「やさしく」される時は
相手にとって私が何か得になる可能性があるときだった
私にとって「やさしさ」もそういうものだった
生きていくために相手の機嫌を損ねないようにした

あの人に会ったのはそんな生活を続けて数か月経ったころ
きちんとした身なりの青年
背は高くも低くもなく、美男子でも不細工でもない
神社の参拝に来た人だった

挨拶をしたとき、あの人は何かに気づいた目をしていた
私がやってきたことを知っているようだった
彼は私の頭を撫でて、神主様と何か話をしていた
人に頭を撫でられたのはこれが初めてだったかもしれない
男の人のあそこをしゃぶっているときに、頭を押さえられたことは何度かあったけど

その日、あの人が私の寝室に来た
でも、あの人は私が想像したようなことは何もしなかった
布団に横になるように促して、そのまま眠ってしまった
私は少しあきれたけれど、隣で一緒に眠った
その日は今までで一番ぐっすり眠れた

それ以来、いやらしい男のかわりにあの人が毎晩私の寝室に来た
私は嬉しかった あの人は私の嫌がることをしないから
嬉しくてぎゅっと彼に抱きつくと、少し困ったようにそんなことはしなくていいと言った
私がしたくてやっていると言うとはじめて笑ってくれた

彼は私のことをかわいいとは言わなかった
神主様に、子供にあんなことをさせてはいけないと言っていた
私のことを黒猫とも呼ばなかった
それは女の子の名前ではない、もっときちんとした名前を考えないと、と
彼の話は難しすぎてよくわからなかった
ただ、もうあんなことはしなくていいと私に言ってくれた
「あんなこと」ってセックス?というと、そんな言葉は使うなと言われた

彼は一度も私を褒めなかった
ただ嫌なことはしなくていいと言い、下品な言葉を言うと叱られた
今まで会ったどんな大人より一緒にいるのが心地よかった
子ども扱いされるのは最初嬉しかったけど、物足りなくなっていた
私の中で彼は特別な人になっていたから

ある日彼が来た晩、こんばんは、という代わりに私は「おっぱい」と言った
彼に叱ってほしかった、彼の気を引きたかった
案の定、彼は一瞬吹き出したけど、すぐにそんな言葉を使うなと言う
でもその日はそれだけじゃ物足りなかった
私は服をはだけて、自分のおっぱいを彼に見せた

時間が止まった

彼が初めて私を子供ではなく、女として見た瞬間だったと思う
私は彼の手のとって、自分のおっぱいに触れさせた
そんなことはしなくていい、と言われるのはわかっていたから、余計な口をふさぐために、自分から唇を重ねた
そして彼の歯を割って下を入れて、彼の口内をかきまわした
今まで私のところに来ていたいやらしい男は、こうやって興奮していたから

──あなたが好き
ずっと思っていた言葉を口に出しただけなのに、なぜか涙が出てきた
彼は困ったように私の涙をぬぐいながら、自分は何も約束できないと言った
約束なんかいらない、今私に触れてくれればいい、そう言った

彼は私のその気持ちにこたえてくれた
唇を優しく重ねてくれた、そのしぐさは優しかった
そして肩にも口づけしてくれて、私のおっぱいに手を伸ばした
少し力を加減しながら、ゆっくりもみしだくように触れてくれた

男に触れられることはずっと私にとって苦痛だったけど、この人との行為は違った
突起に指が触れたとき、自然に声が漏れた
彼はそうして私が感じたところを重点的に、柔らかい個所を、突起を、やさしく指で攻め立てた
こんな風に抱かれるのは初めてだった
いつも欲望をぶつけられるだけだったのに

失禁してしまったのかと思うくらい、下半身が熱とぬめりを帯びてきた
彼は指をびしょびしょに濡らしながら丹念に愛撫してくれて、嘗めとってくれた
彼を汚しているようで申し訳なくなり、そんなことはしなくていいのに、と私が言う番だった
そして彼の方が、やりたくてやっていると言ってくれた

彼の陰茎がそそり立っているのを見て、彼を喜ばせているのが嬉しかった
今まで男性のあの場所には嫌悪しかなかったけれど、この人は違った
もっと喜ばせたくなって、彼のあの場所の前で前かがみになり、おっぱいをはさみこんで、それを口に含んだ
彼は少し変わった声を出してそれに反応した
いつも私にお説教をする彼が少し子供みたいに見えて嬉しかった

ひとしきり彼自身を愛撫した後、もつれあって、私は彼の前に四つん這いになった
彼は膝をついて私の中に入ってきた
いつものように強引に肉棒を入れられるのとは違った
お互いの体を体を揺さぶって、私たちは達した

…愛してる
そんな言葉が自然に出てきた。
彼は私の頭を撫でて、ありがとう、と言った

かわいいと言われたことはなかった
好きだとも愛しているとも返されなかった
しなくていいことだけしなくていいと言われて
下品なことを言うと叱られた
ちやほやしてくれる人を好きになるわけじゃないんだと思った

その次の日、神社に新しい神主様が来た
彼は猿を肩に乗せていて、陽気な人のようだった
歌うように楽し気に挨拶をしてくれて、冗談を言って笑わせてくれた
前の神主様はと聞くと、隠居したといわれた
あたらしい神主様の飼っている猿に餌をあげて
彼の猿と遊ぶのが私の新しい仕事になった
私は猿と一緒に寝ることになった
いやらしい男の人もあの人も、それ以来来なくなった

数日間は、新しい神主様と猿と過ごすのが楽しくて、あの人はただ忙しいのだろうくらいに思っていた
でも数週間経つと、あの人のことが気になりはじめた

新しい神主様に聞いた、毎日参拝に来ていた参拝客を知らないかと
彼の特徴を伝えると、それは地主の息子だと言った
この神社に多大な寄付をして、新しい神主様を呼んでくれた人だと

何故最近来ないのかというと、最近結婚したからだろうと言った
彼は次男なので婿養子という形で、簡単には戻ってこれない場所に行ってしまったと

──自分は何の約束もできない
あの時の悲しそうな目の意味がわかった

約束なんていらないと言ったのは私
でも何も言われずにいなくなるなんて思わなかった
また来てくれるんだろうか?
それともあれが最後だったんだろうか?

お嫁にもらってほしいなんて思っていなかった
彼が望まないのなら、もうあんなことはしてくれなくてよかった
時々顔が見られるだけでもよかったのに
せめていなくなるのなら、一言だけでもほしかったのに

「…おっぱい」

神主様は、目を丸くして聞き返した

「おっぱい、おっぱい、おっぱい!」
続けてそう叫んだ。参拝客が何事かとこちらを振り返る
そう、あの人に聞こえたらいい、あの人に聞こえるまで叫んでやる
そうすれば、私を叱りに来てくれる

彼が私を待たせた日数だけ、私はおっぱいと叫んだ
神主様は困ったように、自分は下ネタは苦手だと言った
…本当かしら、すこし嬉しそうに見えたけど

私はあの人に何もしてあげられなかった
最後の夜はただ私が望んだこと

あの人はそんな私を救ってくれた
もう私が嫌な仕事をしないですむようにお金を出してくれて
嫌なことが起きないようにずっとそばにいてくれた

あの人は私を好きなわけではなかった
子供だから不憫に思ってくれた、それだけだろう
私から何かが返ってくるなんてまったく思ってもいなかった
ただ私を救おうとしてくれた

理由のない善意
見返りを求めない親切
目の前でけがをした人の傷をただ癒す
それがあの人のやさしさだった

あの人はさよならを言ってくれなかった
だから私は私の気持ちに決着をつけることができない
いつかあの人がまた来てくれることを待ちながら
あの人が飛んでくるような言葉を口ずさむ

さよならのかわりに私は別の四文字を口ずさむ
最近は参拝客も面白がって言ってくれるようになった

おっぱい、おっぱい
待たされた数だけ、何度でも繰り返す
いつだってあの人に聞こえるように

*END*






乙杯神社の由来

Note上に「乙杯神社」(おっぱいじんじゃ)という聖地がある。参拝客たちはそこで各々「おっぱい」とそれに関する言葉を残していく。

逸話によると、黒猫と呼ばれた巫女が、一人の地主の息子に恋をした。去ってしまった彼を呼び戻すために、彼が戻って来てくれるようにという祈りをこめて、この場所では「おっぱい」ということが推奨されている…。

いや嘘、ワリィ、今考えたこの話。正確に言うと、今できあがった。

実は今日は、noteでできた俺の友達、ピスタチオさんのnote100日記念。
三日前が俺の100日記念日で、彼はその3日後にnoteアカウントを作ったとかで、俺にこの小説を捧げてくれた。

俺と彼との出会いに関しては、この記事に経緯が書かれている。

お互いがうちとけてはっちゃけられたのがエロネタだったので、この「やさしさにふれて」でエロ小説でも書こうかと半分冗談で言っていた。

また、彼を含めたnoterたちに最近世話になったお礼に、皆のキャラでエロ小説でも書こうか、と言ったら彼はけっこうノリノリでオールスターエロ小説というタグを使っていた。

また以前、俺が敏感巨乳少女というDVDを友達に借りたというつぶやきに対して、彼が神社で「来世は敏感巨乳少女」等と冗談にしてくれた。

それでピスタチオさん(黒猫)、来世の敏感巨乳少女、乙杯神社…といろいろ考えているうちにぐるぐるとこんな小説ができた。

今までかいたエロ記事は全部ノンフィクション、自分の経験をもとにした(少し変えている場所もあるけど)エッセイのようなもので、フィクションって自分では書けないと思っていたけど、今回はそういうやりとりをもとにこんな話ができあがった。

オールスターはさすがに無理だったけど、乙杯神社の神主、モンさんはこっそり後半に登場してる。(前半のクズ神主でなく、後半の猿を飼っているほう。下ネタが苦手、も以前のこの記事のコメントから拾った)

俺の100日記念にすごく面白い小説を書いてもらえたので、彼に捧げるためだけにこの作品は出来上がった。note100日継続おめでとう、ピスタチオさん。俺のテーマソングを作ってくれたり、俺の記事をいつも丁寧に読んでくれたり、面白いコメントをくれてありがとう。

彼は俺のテーマソングだけでなく、乙杯神社のテーマソング、話題のBarニューノマンのテーマソングなども手掛けている。その上英語がペラペラであることも最近知った。多才で一緒にいて楽しい自慢の友達である。これからも俺とnoteで遊んでくれると嬉しい。

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