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ロックンロール イズ ノットデッド

新型コロナウイルスの影響で、大型フェスが次々と中止になっていく。先日もまた、中止のアナウンスを見聞きした。どこにも何にもぶつけようのない気持ちがぐるぐるしている。好きなもの、場所がじわじわと居場所を奪われていく瞬間をただ見ているのは、真綿で首を絞められるようだ。

聞きたくないものを聞かないように、イヤホンで耳を塞ぐ。耳から伝わり全身に駆け回る音楽は、鎧のようにいつだって私を外の世界から守ってくれた。平常心を保つためにいつもイヤホンをしていた。当時の私には、聞きたくないものがあまりにも多かった。

ロック、パンクスが好きだ。

「誰にも頼れなくなったら音楽に頼れ。俺はそうしてきた。」

大好きなミュージシャンが言った言葉を、胸の中の一番奥の大事な所に、消えないように深く刻んだ。そうやって自分の心を守った。彼らが発する言葉はお守りのようで、私の胸の中にはそういう言葉がいくつも刻まれている。自分の中の爆発的で黒く渦巻く感情を、許容して代弁してくれていたのは彼らだった。

数年前、とある大型音楽フェスに友人と参加した。いくつかステージを回った後、メインステージエリアに向かった。入場規制がかかる寸前に到着したから、既に大勢の人が集まっていた。少々疲れていたので、所謂「大人見」というスタンスで、後方でのんびり友人と聞くことにした。前方エリアでは人波が大きな渦を作っていた。

最後の曲前のMC。

「生きてくださいよ。生きてまた、あなたに会いたいですよ。だから生きてくださいよ。」

早口で語ったそのMCの後にかかった曲。それを聞いて、気づいた時には走り出していた。

生きてみたいから生きてみたい。死んで花実など咲くものかよ。
強く願って明日を変えたい。ロックンロールイズノットデッド
全て終わるまで息をしたい。君の名前を最後に呼びたい。
君の全てなら僕が歌うよ。
ロックンロールイズ くたばるものか。
ロックンロールイズノットノットデッド

サンボマスター/
ロックンロールイズノットデッド

強く「生きたい」と思っている自分に気づいた。気付かされた。心をこじ開けられて真正面からぶん殴られたようだった。
次の瞬間には泣いていた。それはもう、何年か振りの事だった。隣の大きなお兄さんが背中を優しくたたいてくれた。見上げると、そのお兄さんの目も赤く滲んでいた。終わった後、待ち合わせ場所で再開した友人の顔は、汗と涙でぐしょぐしょだった。私もぐしょぐしょで、来てよかったなと語り合った。帰りの新幹線の中、永遠にその曲をリピート再生していた。あの日は私が「生きると誓った日」だった。



モッシュと自らの感情に身を任せて汗を流す。隣の全然知らない人と肩組んで大声で歌ったり、ハイタッチしたりする。転びそうになったら支えられたり、支えたりする。転んでいる人がいたら盾になって守る。飛び出したい人に背中や手を貸す。明日を生きる勇気と気力をもらって、全員が同じ一つのドアからそれぞれの道へ歩いていく。魂がすり減ったらまた戻る。それをいつも許してくれる。

あの場所には、人生が凝縮されている。

音楽がなくても、フェスがなくても、ライブハウスがなくても生きていける人はいる。でも私は違う。私にとってのそれらは空気であり、水であり、財産だ。

だから無くなってほしくない、絶対に。


地元のライブハウスにやってきたとあるバンドマンたちは、チケットがソールドアウトしなかった事を素直に告げ、「次来るときはソールドアウトさせる」とMCで誓った。その数年後、ツアーで再びやってきた彼らは、本当にフロアをパンパンにして今やモンスターバンドになった。かつての自身のMCを覚えていて、「埋めたぞばかやろー」と荒々しく声を張り上げた。

逆境を力に変えていく姿が好きだ。

バンドマンはいつだってそうやって道を切り開く。それが私の力になる。



少々難しい時代になった。誰かを守れば誰かが生きる場所を失いかねない。好きな物を好きだと言い続ける事すら難しい事がある。

ふざけんな。負けんな。立ち上がれ。

頑張れ。生きろ。

もう生きられない、立ち上がれないと思った時、彼らはそうやって背中を引っ叩いてくれた。一緒に泣いてくれたし、正面からぶん殴ってくれた事もある。

音楽には力がある。そう信じている。
人生を変える力が、音楽には、バンドには、ライブハウスには、フェスには確かにある。あるんだよ。


中止になったフェスのグッズを通販で買っている。そんな事くらいしか出来ないけど、未来に繋がって欲しい。

ライブハウスの文化に憧れてバンドを始めたバンドマンたちが、それらの行為を一切禁じてフェスやライブをしている。歓声も上がらない。
音楽を止めないという彼らの意思が、ちゃんと正しいベクトルで届いて欲しい。


何度でも立ち上がるのがロックンロールだ。

ロックンロール イズ ノット デッド

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