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【SS】おばあさんが川で洗濯してたら桃が流れてきた話、聞きたい?

(830字 2021年11月につくった作品です。)

 ある日、おばあさんが川に洗濯に行くと、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。

 おばあさんは洗濯のノルマに追われていたので、それを無視して洗濯し続けました。

 やがて、おばあさんが立ち上がって帰ろうとすると、またしても大きな桃が流れてきました。

 おばあさんは、今夜のデザートにでもするか、と思い、両手で桃を拾い上げました。

 やたら重いな……。

 おばあさんはそう思ったので「こんなに重たい桃を抱えて家まで帰るのもしんどい」と独り言を言い、桃を置いて帰ろうとしました。

 すると、帰ろうとするおばあさんの後ろから桃がついてきました。

「ええ? なんだい、この桃……」

 おばあさんは、街中で急に知らない人から「すみません、今お使いの化粧品、合ってますか?」と聞かれたときのような怪訝な顔つきになり、そのままダッシュしました。おばあさんは、元陸上選手で年齢のわりには足腰が強いのです。
 
 桃はそれでもついてきて、おばあさんの前で真っ二つに割れました。

「あれまあ……」

 割れた桃の中から、オジサンが出てきました。

「私は桃の精です。おばあさん、私をこのままお持ち帰りください。そうすればおばあさんとおじいさんは、いつまでも幸せに暮らし……」
「うるさいよ!!」
「え?」
「アンタ桃の精なら、もっと安くしておくれよ! 高くてなかなか買えないじゃないか!!」

 おばあさんは桃から出てきたオジサンの精に力いっぱい怒りました。

「……は? 高い? す、すみません……」
「まあ、おじいさんはバナナが一番好きだから、これ以上は言わないけども。じゃあね」
「え? ちょ、ちょっと待って……」

 おばあさんは、うろたえる桃の精を無視してダッシュで家に帰りました。

 おばあさんには、明日もおじいさんとの日常が待っているのです。
 いつもと変わらない、おじいさんとの日常。
 二人には桃の精から与えられる幸せなど、必要ないのです。

 めでたしめでたし


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