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【30秒小説】鑷子生活

隠しているつもりはなかったが、俺の周りに変な噂がたっているみたいなので、この際だからはっきり言ってやる。
俺の家は小さい。
他の家と比べると、その大きさは一目瞭然だ。

でも、不憫に感じたことは一度もない。
俺はこの小さな家から、他の誰よりも幸せを感じられる男なのだ。

家に帰るとまずは、玄関にもれてくる香ばしい匂いに気づく。
リビングのテーブルには、手の込んだ料理が並べられていて、妻は穏やかな声で『おかえり。待ってたよ』と言ってくれる。
壁に張り付いた液晶には今話題のテレビドラマが映し出されていて、俺は妻が冷やしてくれていたキンキンのビールを手に取り、プシュッ!という音と同時に喉に流し込む。

決して特別じゃない、普通の日常。
でもこれが、幸せなんだ。
そう、これでいい。だだ、これだけでいいのに。

ドンドンドン!

強いノック音と共に、ドアの向こうから不機嫌な女の声が聞こえてくる。妻だ。

「ねぇ、ご飯できたってずっと言ってるんだけど。さっさと降りてきてくれない?」

右手を止め、隣に置いてあった箱を小さな家に被せた。
俺のピンセットを握る生活は、今日も終わりを告げる。

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