【ショートショート】 山月記風the総料理長の行方 #友情の総重量#粒状の総料理長
労災の総料理長は白髪老獪、昭和の末年、若くして名を厨房に連ね、ついで神戸は料亭に補せられたが、ショルダー、限界、自ら痛むところすこぶる摩り、治療に甘んずるを潔しとした。
いくばくもなく料亭を退いた後は、子猫、子犬に執心し、人と交わりを絶って、ひたすら飼育に耽った。
総料理長を続けて長く膝を俗悪なオーナーの前に屈するよりは、ブリーダーとしての名を死後百年に残そうとしたのである。
しかし、業績は容易に揚がらず、生活は日を逐うて苦しくなる。
彼はようやく焦燥に駆られて来た。
その頃から顔面に粒状の発疹が出来、居間を広げて飼育していた子猫、子犬が無邪気やたらとそれを舐める。
赤黒く変色した粒を潰すかのごとく執拗に舐め続ける。
はじめ彼は無秩序に舐められることを厭わしく思ったが、次第にそれは友情へと変わった。
友情は白昼、五月雨のように降り注ぎ、彼をいつしか変貌させる。
「刻苦を厭う怠惰が俺の全てだったのだ」
そして彼は二度と戻って来なかった。
付近の山野を探索しても、何の手掛かりもない。
(435字)
〜あとがき〜
同じお題で2作目を書いてしまいました。ご迷惑でなければいいのですが💦
ちょうど今読んでいた中島敦の山月記の中毒性ある文体が感染ってしまったので、そのまま書き上げてしまいました。
たまに読みたくなるんです、山月記。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?