晦-つごもり-

作る。記録。一方通行の挙句の果て。 ※作家さんの作品や読んだ小説の感想等、140字に…

晦-つごもり-

作る。記録。一方通行の挙句の果て。 ※作家さんの作品や読んだ小説の感想等、140字に収まりきらない事 ※小説や散文、雑記 痕跡置き場。

最近の記事

お茶代課題2月ジユー課題『天国と地獄』

先生へ 先生とは、あの短い間に色んな話をしました。でも、こうして手紙を書くのは初めてで、手紙のマナー本を借りて〝忠岡正孝様 拝啓〟のように書き始めようとしましたが、俺にとってこの手紙は、先生といつも話していたようでありたい、と思ったのでやめました。 中三で初めて先生の授業を受けるようになった時、俺の苗字が〝阿木〟だからといって、俺にばかり雑用を頼んでくるのが正直ウザいし面倒だと思っていました。でも、先生は他の先生や周りのヤツらと違い、俺をただの〝阿木遥斗〟として扱ってく

有料
100
    • 『非往復書簡』#6(日每→寝袋男)

      親愛なる寝袋男さま 国民的ヒーローである彼のアイデンティティはどこにあるのでしょう。ここ数日、ふとした拍子に私の脳髄を揺さぶるのは、彼の事でした。弱りきった彼を再びヒーローたる存在に返り咲かせるのは、顔の交換という何とも奇っ怪な術しかないのです。ならば、彼を彼たらしめるのは、その身体なのでしょうか。 いいえ、顔がなければ彼の身体は機能しません。やはり、顔に彼の本質は宿る。では、新しい顔となった彼は、それ以前の彼と同質の彼なのでしょうか。 私は、違うと思っています。 一見受

      • 『非往復書簡』#5 (※※※→寝袋男)

        親愛なる寝袋男さま 胡蝶の夢、という説話がございますよね。 蝶になった夢を見た荘子が、果たして自分は本当に蝶の夢を見たのか、夢の中の蝶こそが自分で、蝶が自分の夢を見ているのではないか、という無限回廊のような説話。 荘子の思想が色濃く現れたものであり、その一種ロマンチックな光景は、後の世の創作家達がこぞって題材にしたものです。 鳩を食い尽くし、鳥葬から見限られた私は、どうやら狡猾で忌々しい脳髄に囚われてしまっております。 脳硬膜から脳髄が離れてしまい、リ

        • 『非往復書簡』#4 (晦→寝袋男)

          親愛なる寝袋男さま 昨日、最後の燻製鳩肉を頂きました。 大変美味しゅうございました。 お刺身、スープ、燻製、と。羽毛はどうしても口に残るので毟ってしまい、硬い骨の一部は残りましたが、それ以外は全て私の胃の腑に収まりました。羽根はちょっとしたものに使用し、一部の骨は洗浄処理し、無垢なカルシウムの構成として私の手元に残しています。 とても綺麗。 鳥葬、というお見送りの作法がございます。私は常日頃、この御弔いで送って頂きたいと考えておりました。 食物連

        お茶代課題2月ジユー課題『天国と地獄』

          『非往復書簡』#3(晦→寝袋男)

          親愛なる寝袋男さま こちらの世界線はすっかり春めき、忌々しい日照時間も伸びつつあります。木の芽時だからでしょうか。おかしな人やおかしな事件が溢れています。太陽のせいで人を殺す者も居るぐらいですので、礼賛される陽の光には、どこか人を狂わす所があるのでしょう。眩し過ぎる光は、周囲の闇を濃くしますから。優しく混じらせてくれる闇とは、わけが違うようです。 そういえば、あの時は驚きましたよ。いらっしゃるならいらっしゃると、教えて下さったら良かったのに。 軒下にて、何やら

          『非往復書簡』#3(晦→寝袋男)

          『非往復書簡』#2(晦→寝袋男)

          親愛なる寝袋男さま 先日は、見事な鳩をありがとうございました。 新鮮なうちにと思い、早速その晩に捌かせて頂きました。鳩を捌くのは初めてですが、昔働いていた場所に中国人の研修生が沢山おり、鳩を捕まえては振舞ってくれていたので、その行程を思い出しながら捌きました。羽を毟り、産毛を焼き、心臓、肝臓、砂肝を抜き。勿論、砂肝からは砂袋を取り出しましたよ。我ながら、上手くいったように思います。 平和の象徴だとされる鳩を捌くのは、禁忌を犯している気持ちになり、なかなかに高揚致

          『非往復書簡』#2(晦→寝袋男)

          『非往復書簡』#1(晦→寝袋男)

          親愛なる寝袋男さま こちらの世界線はまだまだ寒い日が続いていますが、そちらは如何でしょう。日照時間の少ない今の方が過ごしやすいのですが、寒さはやはり堪えます。鍋が食べたくなりました。 先日、美味しい鍋のレシピを動画サイトで辿っていると、オススメ動画として野生動物の捕食シーンがあがって参りました。動画を開かずとも勝手に画は動き、音声のない中、俊敏な肉食獣が草食獣に襲いかかるのです。繰り返されるスピーディなその様が、やがてスローになりました。肉食獣と草食獣の筋肉の一つ

          『非往復書簡』#1(晦→寝袋男)

          【官能小説】『ouvrir#1』【※特殊性癖】【連載】

          『なんか、いいよって言ってもらえたから、いっぱい妄想送っちゃってごめんなさい。迷惑ですよね。……チラッと読んでくれたらいいんです。そうしたら嬉しいなって』 木曜日 9:23 午前 「ごめんね、なかなか返せなくて。迷惑じゃないよ、キミの素敵な妄想ちゃんと読んでるからね。ごめんね、寂しかったね」 土曜日11:48 午後 『うん、寂しかった。寂しかったのお姉さん。寂しくなってごめんなさい。迷惑だってわかってるのにごめんなさい。でも構ってほしくて。お姉さんに知ってほしくて妄想した

          【官能小説】『ouvrir#1』【※特殊性癖】【連載】

          【官能小説】『肉色のダム』【※直接表現有り】

          私は。 私の中に。 ダムを飼ってる。 中学生の時、保健室で休ませて貰っていたら唐突にムラムラした。欲情とか発情という言葉すら相応しくない程、情緒も品もないムラムラとしか言い様がない衝動で、もしかしたら排卵期か生理前だったのかもしれず、ただイきたくて仕方なかった。思春期特有か、意識し過ぎて男の人は怖く性経験なぞとんでもなかったが、本が好きであらゆる知識を本から得ていた私は、既に立派なオナニストだった。でもそれはいつだって、夜、自分の布団の中でゴソゴソ楽しむ類で。それ

          【官能小説】『肉色のダム』【※直接表現有り】

          ⦅読書感想文⦆(まだ序盤) BABELZINE/週末翻訳クラブ バベルうお(※敬称略)

          タイトル通り、まだ読了してはいない。 が、主宰の白川眞氏に寄る創刊の言葉から最初の翻訳『血族』。余りの面白さに興奮抑えきれずこれを書いている。 書痴先達のTwitterを、幾つかフォローさせて頂いている。そこから、こちらの『週末に本邦未翻訳を翻訳されているバベルうお』さんのZINEが創刊される事を知った。申し訳ない事にグループ自体存じ上げなかったが、ZINEの内容を見た瞬間ブクマと予約注文した。 社会現象になるまで人気の出た作以外、商業として流通しているものでさえも、海外

          ⦅読書感想文⦆(まだ序盤) BABELZINE/週末翻訳クラブ バベルうお(※敬称略)

          Twitter:ナチュラル・ボ-ン・ソ-シャルディスタンスという事

          相変わらず愛想もへったくれもないTwitterをしている。 #6月になったのでフォロワーさんに自己紹介しようぜ というタグすら愛想がない程である。 普段のツイートも、RTや自分の短文や参加させて頂いているタグや短歌、作家さんから購入した作品をあげるのみで、「自分の事を呟く」という意味での自発発言は一切していない。 読書感想文やそれ以外の長文は、こうしてnoteに認める事にしている。 こんな深部まで、そうそう誰も来ないと思っているからだ。 このアカウントで始めようと思った時、

          Twitter:ナチュラル・ボ-ン・ソ-シャルディスタンスという事

          ⦅読書感想文⦆『愛の言い換え』/渡邊璃生(※敬称略)

          毎度毎度表紙の話からで申し訳ないが、本の表紙というのは顔であって、別世界への扉だ。終生傍に置く事を目的とした購入なので、好みの顔で選んでも仕方ないと思うし、扉だって思わず触りたくなるような佇まいをしていて欲しい。 さらに申し訳ない事に、著者が以前所属するアイドルグループを存じ上げない。が、帯の彼女の眼差しと表紙の雰囲気、変に捻らないタイトルに惹かれた。 また、二十歳という瑞々しい年齢にも関わらず、ゆるふわキラキラな恋の気配よりも、ドロドロ陰鬱な愛欲(敢えて)の気配が濃厚で。

          ⦅読書感想文⦆『愛の言い換え』/渡邊璃生(※敬称略)

          ⦅読書感想文⦆『白い部屋で月の歌を』/朱川湊人(※敬称略)

          何番煎じの二重カバーなんだろう、と思わなくはなかった。 とはいえ、この所狭しと与えられる情報の洪水は、センス云々への破壊力がある。雑多に配置されている筈のネオン街の看板が、不意に規則性を持って美しく目に映る 事があるが、それに似ている。 が、正直このテの二重カバーものはもう、お腹いっぱいだ。 目的地や所在地を知らせるもの以外、看板というのは少々大仰に描くのではないかと思う。 だから、『月』というモチーフが好きなだけで手に取るには些か勇気がいり、書店で見逃しては漸く、という感

          ⦅読書感想文⦆『白い部屋で月の歌を』/朱川湊人(※敬称略)

          ⦅読書感想文⦆『パリの砂漠、東京の蜃気楼』/金原ひとみ(#敬称略)

          正直、ジャケ買いではあった。 赤を貴重にモノクロの中、物憂げな眼差しを向ける著者の表紙に魅了された。 著書は幾冊か読んでいたが(といっても、デビュー作の『蛇にピアス』とあと二作ぐらいだ)、所謂エッセイ集は初めてだった。ビジュアルだけで既に満足していたが、読み進めていくうち、別のベクトルで魅了された。 これが、著者の書く小説なのかエッセイなのか、わからなくなったからだ。 デビュー作と数冊しか読んでいないから言えた義理ではないが、心象風景の書き込みやどこかフェティッシュな描

          ⦅読書感想文⦆『パリの砂漠、東京の蜃気楼』/金原ひとみ(#敬称略)