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「悲しみってなんですかね」| 0226-0303日記


2月26日(月)

高円寺で傘をパクられたことを根に持っている。
正確に言うと『取り違えられた』のだけど、もうこれはパクられたと言っても過言ではない。取手部分にだけ可愛いベージュ色が付いている私の傘が、店を出る頃にはただの馬鹿でかいビニール傘に成り代わっていたのだ。馬鹿でかかったので、まだ良い。これで本当にただのビニール傘だったら、その場でこぶしを握りしめていたところだ。
取り違えた犯人は、可愛いベージュ色の傘に気づいたとき何を思ったのだろうか。そこに私の念が憑いていることを、くれぐれもお忘れなきよう願いたい。

話は変わって、地元の友人とご飯に行く。
近頃あれこれ脳内で考えていたことをぶち撒けて、客観的な意見を得た。それに納得する気持ちと反骨精神の両方を抱えながら、わたしは今日も面倒くさく生きている。飲み足りなかったので、解散後ひとりサイゼリヤでワインを飲んだ。ほどよい浮遊感を振り払うように、都内には強い風が吹いていた。


2月27日(火)

バイト終わりに、念願の日高屋チゲ味噌ラーメンを食べる。ここ数日ずっとこれに取り憑かれていたので、労働終わりの体に沁みた。

熱々のまま食べきり、ハイボールをグイッと飲み干すと、唐突に冬の終わりを実感した。
街は、桜の商品で溢れかえっている。カフェに行っても雑貨屋に行ってもどこを見ても桜。本来は自然の変化で感じ取るべき季節の移ろいを、ヒトに急かされて意識する。言われるがままに春服を買い、期間限定スイーツを食べて、まるで義務かのように花見をして、そしてまた何かに追われながら夏に備える。生活はつづく、人間は無情だ。


2月28日(水)

待ち合わせ場所まで30分かけて歩いたので、さまざまな人間を発見した。
・ファミチキを齧りながら歩く小学生男子
・餃子屋のカウンターで爆睡している長髪
・茂みに座って本を読む謎の女性
・コンビニで酒とタバコを買うロックンロールおばあちゃん
こうして書き出してみると、私は無意識のうちに人間観察をしてるんだなと気づく。コンビニで宅配便を出したら、外国籍の店員さんに「ヒカエ!!アシャッター!!」と威勢の良い声で接客されて、なんだか今日も頑張ろうと思えた。


2月29日(木)

梅ちゃんにディズニーのお土産をもらう。
わたしは今年の目標に『マジにならない』を掲げているのだけど、それを梅ちゃんに話したときに

「一日の中で、振り返りの時間を決めるんですよ! たとえば寝る前とかお風呂とか、今日はちょっと頑張りすぎちゃったな、とか考えたら良いんです!」

と言われたことを律儀に守っている。
中学高校だったら学校が被らないほど年下の梅ちゃんだけど、彼女からは沢山のことを教えてもらっているし、彼女より数年長く生きてきた中でわたしが知ったことは何でも伝えたいな、と思う。
こんなに梅ちゃんが好きなこと、きっと本人は気付いていないけれど。


3月1日(金)

通院の日。
約二年半前に作ったお薬手帳を使いきって、二冊目に突入したことに驚く。いつまでも、どうやっても抜け出せないと思っていた日々が、いつの間にか過去のものになりつつある。
今のわたしは、自分で言うのもなんだけど生き生きとしていて、そして結構たのしい。前よりも圧倒的に生きやすくなった。
療養とは別に一年間休学して、変人ばかりのパン屋でアルバイトをしながら日本全国飛び回ったこととか、そもそも学科を変える決断をしたこととか、要因はたくさんあるんだと思う。でもやっぱり、家族や友達の影響は計り知れない。この感謝の気持ちをどうやったら伝えられるのか、うんと考える日々だ。
三年前の春に思い描いていた未来とは全然違うけど、でも申し訳ないけど正直こっちの未来の方がたのしいよ。三年前のわたしを否定するわけではないし、あなたがいてくれたから今のわたしがいることに間違いはない。
だから、あなたにも感謝しています。今はちょっと……ではないね。かなり辛いと思うけど、たまーにで良いからわたしのことを考えてみてね。なんか楽しそうだなクソッて思うかもしれないけど、こんな感じでも良いのかな、ってラクになれるかもしれないから。
私もあなたのことは忘れないし、これからもずっと覚えているからね。


3月2日(土)

今日の店長的テーマは『悲しみ』らしく、しきりに「悲しみと涙が直結しないんですよ」「そもそも悲しみとは何ですかね?」と話を振ってきた。
悲しみ、かあ。むずかしいこと言ってくるな。
1分ほど待ってもらって、わたしはこう答えた。

たぶん最初に湧き起こる感情が『悲しみ』ってわけではないんですよね。喪失感とか敗北感とか、そういう色んな感情が複雑に混じり合って、でも複雑な感情をひと言で表すのは難しいから、悲しさに昇華するんじゃないですかね? 簡単なひと言で表して、自分を納得させたいみたいな。
赤ちゃんはよく泣きますけど、それは感情の発散方法を知らない+感情を抱く経験が浅いのであって、店長はひと通り感情を知ったんじゃないですか? 悲しくても泣かないことは、別におかしいことではないと思いますけど。

答えになっているから分からない (し店長はイマイチ納得していない様子だった) けど、自分的にはかなり腑に落ちた。こんな哲学的なことについて話してるパン屋、なかなかないよ。


3月3日(日)

まだ冬物のコートを着ている人もいる街に、スウェットで出て行く。別に好きなものを着たら良いじゃないかと思われるかもしれないけど、決してそういう話ではない。普通に寒いのだ。まだ日向にいたら良いものの、日陰に入ると寒くて仕方ない。特に最近の東京は暴風と呼べるほど風が強く、せっかく巻いた前髪とともに私の体温までが奪われてゆく。

「水中の哲学者たち」という本を読んだ。
長くなりそうなので、また別の記事にしるす。




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