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2/13「ハマってるマンガの新刊が見当たらず、書店員・総動員」

まず、前置きです

僕には今、ハマっているマンガがあります。
それは、、、「フールナイト」です。

作品をざっと説明すると…

厚い雲が陽の光を遮り続けてはや、100年。光合成ができなくなったことで植物が次々と枯れ、酸素がなくなりかけてしまう。
そんな未曾有の危機の中、人々は自らを植物に転化させる技術(作中では「転花」と呼んでいる)を発明する。転花者たちにより酸素が生み出され、誰かの犠牲ありきで、人類はなんとか延命しつづけている。
そんな不条理な世界の中で、生き抜く人々がなんやかんやする話。

こんな感じです。

この作品を書店で見かけたのは、1年前?くらいだったと思います。
その時は「うわ、装丁めちゃかっこいいじゃん。あと、東京喰種っぽい雰囲気するな」としか思っていませんでした。
その後も何度か書店に行くたびにフールナイトの表紙が目に入るようになりました。僕は手に取り、第一巻の裏表紙に書かれたあらすじを読みました。僕は一気にフールナイトの魅力に惹きつけられました。
まずは、「植物が枯れ酸素も薄くなった地球」という一文から醸し出されるディストピア感に魅了されました。
基本的に僕は「荒廃した~」とか「退廃的な~」みたいな言葉で表される作品と出逢うと購買率が爆上がりしてしまいます。(そうやって手に取って買ったはいいけど、全部読んでいないSF小説が多々あります)
そして、
そんな危機から逃れるために人間を植物に転化させてしまう。非人道的かつ、大胆不敵な発想に脱帽しました。

「これは、もう買いじゃん?」

心の中にいるもう一人の僕が、その時の僕の肩に手をかけながらそう、囁きます。
でも、僕は買いませんでした。
なぜなら、新刊を追い続けている漫画が他にもあるからです。

小学生の時、僕はお母さんの知り合いから金色のガッシュベルをもらったことがあります。
その時から今に至るまで、僕は漫画大好きっ子です。
だからこそ、出逢う作品達にはできる限り、同じ熱量と思い入れを持って接していきたいと思っています。でないと、漫画を楽しんでいるのではなく、漫画を消費している気になってしまうからです。

「頭、堅すぎん?」

と思う人、多々いると思います。
ごもっとも。
でも、読んでいる時に、この想いが過るとそれは雑念となってしまって、僕は作品に没入できなくなってしまうんです。

だから、フールナイトの購入を見送りました。
その後、僕は書店でフールナイトを見かけても、手に取りはするけど、装丁を眺めたりもするけど、結局は買いませんでした。

その時の僕とフールナイトの関係性はまるで……いつも同じ電車の同じ車両に座っているけど、話しかけることはできないあの子みたいな感じになっていたと思います。

でも、時間の問題でした。
「始まりはいつだって大胆なんだけど、その時は気が付かない」とtofubeatsも言っています。
結局、人間は好きに抗えない生き物なんです。

2023年1月28日。
僕は改装され、移転した新宿紀伊国屋の八階にある漫画本のフロアで「フールナイト」第一巻を購入しました。

その時のツイートがこちらです。

紀伊国屋には今、刊行されている巻数全てがありました。
でも、僕は第一巻だけ買いました。
それは一気に買ったらすぐ読み終えてしまうからです。
連ドラは「あそこで終わったけど、この後どうなっちゃうんだろう…」と考えを巡らせながら、悶々とする一週間がいいんです。
サブスク全盛期の現代社会、欲しいコンテンツはすぐにネットで手に入るし、配信ドラマは全話一挙配信がスタンダード。
そんな世の中からすれば、僕はきっと古い考えなのかもしれません。

でも、こんな世の中だからこそ、あえてやきもきする時間を作る。
これは捉え方によって、贅沢ともいえると僕は思っています。

だから僕は現在刊行されている第一巻から第五巻を買い切るまで「フールナイト」と生活を共にすることにしました。
一巻も一気には読まず、できるだけちまちまと読みました。
(それでも、止まらない時があった。こんな漫画久々だ。)

見開きの一ページ目には、主人公とその幼馴染の女の子が登校している姿が描かれています。二人は将来の夢を無邪気に披露しあっていますが、その背景には壁に寄りかかったままの男の屍があり、生えてきた枝に男の両眼は貫かれています。
何気ない瞬間の片隅にあるグロテスク。
このように一ページの中にも生と死が共存していて、作中も常に「格差」が意識させられるように作られています。だからこそ、そんな不条理の中で生き抜く人々の言葉は重みがあって……
これ以上書くのは蛇足だと思うので書きませんが、とにかく最高です。気に
なったら読んでみてください。

そして、昨日のバイト休憩中、ついに最新刊手前まで読み終えてしまいました。

「ああもう、明日絶対買いに行こう!」

僕はそう思って布団に入りました。


PM 7:00(ここからが本編です)


その日、起きたのは午後7時過ぎ。
僕のバイト先はバーなので、明け方に帰宅するため寝るとだいたいこの時間になります。(それにしても今日は二度寝が捗りすぎたよね)

だらだらと着替えて僕は家を出ました。
その日は、朝から雨が降っていて、夜には止むとのことでしたがまだ降ってました。
雨、降ってるのか。寒いし、傘さしててもつま先濡れるんだよなぁ。
そう思いましたが、僕は家を出ました。
雨の日に僕を外に出させるなんて大したものです。

幸い、土砂降りではなく、傘をさせばそこそこ歩けそうなくらいの雨でした。
ひんやりとしていて、静かな雨が降る夜でした。
僕は家から徒歩15分ほど歩いたところにある本屋さんに向かって歩きました。爪先の濡れ具合はそれほど気にならなかったです。

本屋さんに入ると、30代後半ぐらいの女性書店員さんがいらっしゃいませと僕を出迎えてくれました。ファミリーカーとかじゃなく、軽ワゴンとかで子供の送り迎えしてそうな素朴で可愛いお姉さんでした。

その本屋は22:00閉店で僕が入ったのはだいたい20:30過ぎ。店内には僕以外にふたり、お客さんがいるだけでした。
雨でぬれた道を歩いてきたせいで、フローリングを歩くたび靴からギュッ!ギュッ!という音が鳴るので恥ずかしかったです。
でも、以前も僕はこの本屋でフールナイトを購入しています。だから陳列場所のあたりはついていました。
いつもならば、本屋に入ったらまず、目当てのものを手に取る前に寄り道するんですけど、今日は売り場に直行します。

「あれ、なくね?」

売り場の前で僕は立ち尽くしました。

本屋に行って探し物が見つからなかった時、僕はすぐには書店員さんに声を掛けません。なぜなら書店員さんの業務は、お客さんの探している本を見つけることが全てではないからです。
いつも物静かにレジの中で佇んでいるけど、きっと堆積しているいろんな業務があるんだと思います。だから声はかけずにしばらく僕は自力で探し回りました。
当たりをつけている棚を隅から隅まで、背表紙を睨み、探し続けます。
でも、見つかりません。

あれ、ここだったよな?
ここじゃなかったっけ?
それとも、もう売切れちゃったのか?

疑問と焦りは募り、棚をめぐる度にギュッ!ギュッ!ギューッ!と靴が鳴り、恥ずかしさも増していきます。
僕は、なくなく軽ワゴンで送り迎えしてそうなお姉さんに声を掛けます。

「あの、腑ーるぁい都を…嵯峨してぅんぇ巣ぇど」

その日、初めて人と会話したからか、声が小さかったみたく、軽ワゴンお姉さんは語気強めに訊き返してきました。

「なんですか、スクールナイト?」
「いや、フールナイト……」
「クールナイト?」(パソコンの検索画面見せながら)
「いえ、フールナイトです……」

もう、帰ろうかな。
そう思いながら、僕は軽ワゴンお姉さんの後ろをついていきました。お姉さんの歩くスピードは速く、もう確定で忙しかったんじゃんと僕は思いました。

お姉さんが向かっていったのは僕があたりをつけていた棚でした。
いや、もうそこ探したから。隅々まで探したんですよ。
そう思いながら僕は軽ワゴンお姉さんが「あれ…」と言いながら探し回る後姿を見ていました。
僕が声を掛けなかったら終わっていた仕事があったかもしれないのに、多分そろそろ締め作業を始める時間だろうに、お姉さんはデータ上に2冊だけ残っているという僅かな情報を頼りに一生懸命探してくれました。

それでもフールナイトの新刊は見つかりません。

別に、僕は今日の購入を諦めるだけでいいです。それに書店はまだ一杯あります。アマゾンでもいい。
対する書店員さんは、まだ溜まっているであろう仕事を中断して、探さないとなりません。決断の比重は明確です。

「ちょっと待っててくださいね」
僕はその言葉を制することができませんでした。

バックヤードから男の店員さんが出てきました。
平日の夜の書店。おそらく今のシフトは実質この二人で営業しているんだと、思います。
「あのさ、フールナイト?ってやつ。私、探したんですけど見つからなくて、ちょっと一緒に探してくれる?」
売り場の奥から軽ワゴンお姉さんの声が聞こえてきます。

ああ、もう。
こんな閉店まであと数時間の時に来て、
迷惑かけてごめんなさい。

僕が棚の前で取り残されたまま、そう思っていると、長い黒髪を後ろでまとめた男の店員さんが軽ワゴンお姉さんと一緒に出てきました。軽薄というよりかは、猫のようにしなやかに今を生きていそうなお兄さんでした。
お兄さんの手には見覚えのある緑の表紙。
フールナイト第四巻が収まっていました。

淀んだ暗闇に白く真っ直ぐな光が差し込んだような気持になりました。
お兄さんは僕にとって、長靴をはいた猫のようでした。

捜索が再び、開始されました。
ここまで来たら僕もやるしかありません。三人でフールナイトの第五巻を探します。
そして、その時は訪れました。

「あっ、ありました!」
快活な声が店内に響きます。

振り返ると、最新の第五巻を手に取っていたのは軽ワゴンお姉さんでした。
(いや、長靴の猫じゃないんかい)

そして、最新刊は僕があたりをつけていた棚の左隣にありました。


お姉さん、お兄さん。マジでごめん。


こうして、僕は最新刊を手に入れました。
読み始めたら止まらなくて一気に読みきってしまいました。
今は続きが気になって、やきもきしてます。

うわ、気付けば4000文字以上になってる。
もし、ここまで読んでくれたならば、僕の下らない生活の記録に付き合ってくれてありがとうございます。
あなたはきっと誰よりも心が広い人です。
よっ!あんたが、大将。

そして、好きを大切に生きていてくれれば、幸いです。


おしまい。



そんな夜の帰り道に聴いてた曲。

さぞかし、ルンルンだったんでしょうね。









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