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フリーウェイに乗って、山下達郎を追いかけて! Road.3「GO AHEAD!」

※こちらは、僕が、山下達郎のオリジナル・アルバムを買い集めきるまでの旅を記録した日記です。
ちなみにサブスクでの配信はほとんどないため、音源は貼りつけません。気になる人はアルバムを買うといいさ。

3rd Album「GO AHEAD!」

1978年12月20日にリリースされた三作目のアルバム「GO AHERD!」にはベースのフレーズがあまりにも有名な”あの曲”が入っています。
ですが、”あの曲”も翌年の大阪のディスコでかかっていなければ、現在の山下達郎さんは存在しなかったかもしれません。それほどまでに当時、彼のシンガーとしての知名度はなかったのです。
理由はこの年に華々しくテレビに登場したサザンや竹内まりやにより、日本のフォーク・ロックシーンがマイナーなものからメジャーに大きく変わったからだろうと山下達郎さんはライナーノーツで振り返っています。
そんな中でリリースされた三作目はカバーが入っていたりと、曲調も統一されておらず、バラエティに富んでいます。
聴いた印象としては一枚を通して世界観を味わうというより、お気に入りのナンバーをディグする楽しみを与えてくれた一枚だったなと思い、そんな感想を得た時、GO AHERD! つまり、「(お好きに)どうぞ!」というタイトルがまさにその通りだなと感じました。


1.OVER TURE (A side)

なんて心地の良いオープニングなのだろうと、最初のハミングの段階で思ってしまうほど、あまりにも軽やかかつ、爽やかな滑り出しです。
歌詞もなく、曲?自体も短いですが、山下達郎さんのオリジナリティでもある一人多重コーラスが魅せる広がりと、響きの後に漂う余韻。
たったの40秒ですが、十二分に贅沢を味わえると思います。


4.MONDAY BLUE (A side)

割とアップテンポな曲が多い中、この曲はとにかくシブいバラードです。
山下達郎さんというと、夏のハイウェイに似合う曲が多いイメージですが、僕が強く惹かれるのは人間関係や、日々の憂いを題材にしたバラードなんです。
それでは特に好きな歌詞をご紹介します。

愛の終わる時は
いつも朝の光の中

この、「愛の終わり」と「朝の光」何となくですが意味合いが対立しているように見えませんか。まるで日没と日の出を表しているみたいにも感じられます。
つまり、夜が来れば朝も来るように、別れはやがて出逢いへ繋がり、また繰り返しては巡っていく。そんなことを表した歌詞だなと個人的には解釈しています。
憂いだけではなく、希望も提示してくれる優しさ。
これがあるから、山下達郎さんが描くバラードが好きなのかもしれません。


5.ついておいで (A side)

Aメロ後にガラリと曲調が変わるのがこのナンバーの特徴です。
転調前はOVER TUREのように爽やかな曲調と声で、風に手を引かれているような心地にさせてくれるのですが、「ついておいで」と辿り着いた先にある扉を開けると、腰が思わずスイングしてしまうようなダンスビートに変わり、一曲に二度おいしい構成になっています。

恥ずかしいなんて思っちゃ駄目さ
リズムに合わせて歌ってみよう
どんなことでもいい

この「どんなことでもいい」という部分が、曲全体が纏っている朗らかさや、懐の深さを表しているようで素敵です。


6.BOMBER (B side)

本人もターニングポイントだったと振り返る”あの曲”です。
ベースのシブさはもちろんのこと、鳴いているようなギターソロ、そして英語と日本語をこんなにも混在させているにもかかわらず、全くダサくならず、むしろ相乗効果を発揮しながら都会的な夜景を描き切る歌詞
何をとっても、かっこよすぎます。
前述した通り、この曲は大阪のディスコでかけられていなければヒットすることもなく、そもそも実験的な作品だったそうで、本人も「人生は不思議です」とライナーノーツの中で振り返っています。この曲の外連味は衝動的だったからこそ生まれたのかもしれませんね。

そんな「BOMBER」の中で好きな歌詞はこちらです。

金があれば太陽でさえ
つかむことができる都市さ

曲中に三回出てくるこのヴァース。前後の歌詞や他の部分は英語で装飾されているにもかかわらず、このヴァースだけはどの部分に出てきても日本語のみで言い切っています。
ここがかっこいいところで、要石は決してぶれない。そんな力強さが表れているからこそ、日本語と英語の共生関係が実現し、描かれた景色をより豊かなものとして昇華しているのかもしれません。


Bonus track. [GO AHEAD!]


「金のことは考えなくていい。ただあの車を追って欲しい」
 通りかかったビルのどれよりも背が高いホテルの自動ドアが開く。エントランスからは男が駆けてきて、タクシーに乗り込むので、運転手はさっきまで今週末の競馬予想で盛り上がっていた先輩が運転するタクシーを仕方なく追い始めた。
 気怠い月曜の朝に限ってこんな客に当たるんだよな、と思いながら運転手はフロントミラーに映った客の顔を覗く。
 後部座席で肩で息をしている男は、朝六時にもかかわらず紙のセットも整い、身に纏うグレーのスーツも草臥れている箇所が見当たらない。運転手はこの男が都市部で一番大きいダンスクラブの経営者であることを知っていた。
 ホテルを後にして、運転手は前のタクシーを追う。
 通勤時間であるため国道はどの車線もそれなりに混みあっており、二台の乗用車を挟んで追跡対象を追い続けている。
「なんで間に車をいれたんだ」
 前髪を掻き上げるとき、金の腕時計がフロントミラー越しに運転手の目に入る。
「私たちはパトカーではないんでね、交通規則も法定速度も守らないとならないんすよ。破ればそれこそ道路交通法違反ですぐに捕まってしまいますし」
 軽率にも聞こえる運転手の牽制に対し、男は反論試みようとしたがやめ、黙ってしまったため、運転手もこれ以上の言及を避ける。
 きっと言いたいことがまだ山ほど在るんだろうな。
 そう思いながら運転手はスクランブル交差点を左折する。
 男の貧乏ゆすりは吐き捨てたい言葉の代わりとなって、静かに足音で苛立ちを響かせている。

 今タクシーが追っている対象は男の妻であり、秘書だ。
 仕事上のパートナーであり、夫婦でもある二人は仕事と私情がない交ぜになってしまうことが多く、スイッチの切り替えができないがゆえに言い争うようになり、そうなってしまったのは男が海外のコンサルティング会社に経営を委託し始めてからだった。
 元々、男は都心部で3件ほど、ディスコを経営していた。そこでの男はまさに王様で、経営陣はたびたび男の暴虐武人さを憂いたがそれでも不思議とメンバーは変わらず、毎晩賑わっていた。
「金さえあれば、太陽でさえ掴めるんだ」
 男は当時、ベッドで妻になる前の彼女にそう、何度も言っていた。
 彼女は元々イベントガールでディスコには同伴しているカレシのおかげでVIPルームによく通されていた。
 彼女が金銭を得るためだけの性交渉や、愛想笑い、社会的な振る舞いに疲れ果てた時は決まっていきつけのビアバーへ向かう。そこはディスコから少し離れた場所にあり、彼女が二杯目を頼もうとした時、男が隣に座って同じものを頼んだ。
 何度も見たことはあるが話したことはなくて少し怖い。
 男に対して彼女が初めて抱いた印象だ。
 だが、言葉を交わし始めると男は意外と聞き上手であり、彼女は普段関わり合う老人や実力者よりも男の方が何枚も上手なのだろうと思った。
 そして、初めて抱かれた時、何よりも汗ばむ柔肌を見下ろし、睨みつける眼光に見悶えてしまったのだ。
 こうして、彼女は男の妻になり、秘書検定の資格を取った彼女は経営にも携わるようになる。すると、彼女は経営陣が変わらないことに対して腑に落ちた。
 それは、野望の住処のように光る男の眼だ。
 だからこそ、男が暴君だとしても、彼らは受け入れ、問題解決に躍起になる。そして男はそれに結果で応えた。
 そのおかげで経営はさらに好調になり、急成長を遂げた男の名が海外にまで及んだ。
 手を組もうと誘ってきた経営者が現れた。
 そこから、男の眼が少しずつ鈍るようになった。

 男は溶けていくように後部座背にもたれながら、窓の外を眺めることで気を紛らわせている。
 車窓の外から見える様々な運転手は時間に追われているようにハンドルにしがみ付き、結んだ地味なネクタイが首を絞めているように見える。
 あんな奴らのようになりたくない。
 そんな野望とも強迫観念とも取れる意思を燃やしながら男は走り続けてきた。
 経営しているディスコが賑わう度、売り上げ成績が伸びる度、男の頭の中にはアドレナリンが大量に分泌され、火照った女を抱きしめている快感が男を再び奔走へと向かわせた。
 それはほとんど恋に近かった。
 だが、共同経営を持ちかけられた時、ふと男の頭に、世間体を取り繕うためだけに迎えた彼女のことが浮かんだ。
 俺の前にあんな女はもう二度と現れない。
 そう思ってしまった時、片想いが男の中から消えた。
 男は妻を始めて、女として愛し、家庭を作ろうと思った。
 そのためには向き合う時間がどうしても必要だったのだ。

 二台のタクシーは海水浴場の駐車場に止まっていた。
 この日と同じ、月曜の朝、二人は初めて身体を重ねた。

 潮騒が駐車場にも聞こえ、砂浜では男と女が抱き合っている。
 痴話喧嘩に付き合わされた運転手二人はボンネットに腰掛け、煙草を吸いながら愚痴をこぼす。

「今日で臨時ボーナスが消えたかもな」
「どういうことです?」
「あの夫婦、よくあそこに泊まっては喧嘩するんだ。それで必ず奥さんが先に出ていき、その後、男が車に乗り込んできてお前みたいに追いかけさせられるんだよ。ちなみにあの人も、その奥さんも俺たちの顔なんて覚えちゃいない。お互いのことで頭がいっぱいだからな。要するに俺らはあの夫婦のトレンディドラマに付き合わされ、ギャランティを手に入れたってわけさ」
 後輩の運転手が携帯灰皿で火を消す。
「よくわかりませんが、恋は盲目ってことすかね」
 雑なようで、芯をついた後輩のまとめを聞いて、微糖の缶コーヒーを口に含んだ先輩の運転手が噴き出した。
「だとしたら、まずいなぁ」
「なんでですか?」
「だって、お前の見通しが正しければ、あの夫婦はいくらいがみ合っていても、互いのことを想いあっていたことになるからな」
「いいんじゃないすか、それでも。臨時ボーナスは週末のレースの期待しましょうよ」
「まったく。お好きにどうぞだな」
 二人の運転手は男と女が手を繋ぎ、ウミネコが鳴いた。運転手達はタクシーに戻り、エンジンを掛けた。

 



 



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