見出し画像

ただの会社員が、個人オフィスを構えてみる:場所を持つということ

Takuya Kodama

突然ですが2020年の12月、個人オフィスを構えました。場所は江東区、森下です。

最近話題の退社独立コースでもなんでもなく、ただただ、自分のためにオフィスをつくりました。

一介の会社員が自分だけのためにオフィスを構える。去年までならとても考えられなかったでしょうが、少なくとも現時点で私はとても満足しています。引き渡しが12月の初旬で、年末年始を挟んで一か月ちょっと、実際私は、うちの会社のどんなエグゼクティブよりも恵まれた環境で仕事をしている……かどうかはともかく、少なくともそんな気分で、仕事ができています。

さて。

オフィスを構えたといっても、場所は自宅の1階です。

「なーんだ、要はリフォームね」

言ってしまえばそうなのですが、まずは出来上がりを見てください。

画像1

画像7

画像3

オフィスと言い切るにはオフィスらしくなく、じゃあ何、と聞かれるとなんとも形容し難い。そんなスペースができました。今日は、ここについての話をします。

「あと30年、家で働くとしたら」

今も東京都下は緊急事態宣言が発令され、企業は全従業員の7割の在宅勤務が推奨されていますが、私の働く会社も多分に漏れず原則リモートワークとなっております。2020年2月末から今に至るまで、もうざっと1年(!)ほとんど家で仕事をしています。

もともと私の暮らす家は仕事環境として比較的恵まれていて、一戸建てだったこともありリビングとは別に作業場を確保することができました。寝室の一角にあったデスクにPCと持っていた外付けディスプレイを置き、仕事場にしていたのです。春にはオフィス用のチェアも買い、それなりに快適に日々過ごしていました。

そんな中、ひとつの気づきがありました。

きっかけは、リモートワークもすっかり板についてきた7月1日、別の会社に出向となったことです。

「もしかして、自分、あと30年くらい、家で働くんじゃない……?」

出向先の会社もこれまた原則リモートワークであり、最初の数日は出社したものの、限られた人(主にマネジメント層)以外の皆さんとはほとんど全く顔を合わせないまま、新しい職場で新しい人間関係、新しい仕事がスタートしました。

もちろんたくさんの不安がありましたが、実際飛び込んでみると、想像以上にスムーズに新しい職場になじめました。詳しくは別途どこかで書きたいと思いますが、「意外とやれるな」という手ごたえがありました。片方の軸足は動かさないまま、もう片方の足で次のフィールドに飛び込む、そんな心強さがあったわけです。

そんな発見をして、ある日、ふとこんなことを考えました。

会社が変わってもこんな感じであれば、下手したらあと30年はここで働くわけで。

オフィス、つくっちゃっていいんじゃね?と。

どんな企業に転職しようが独立しようが、自分で自分の職場を持っていれば、それは自分だけの資産として活きるのではないか、と……。

いままでオフィスの最上階で個室をもっていたエグゼクティブが、今や、自宅から、後ろがちらちら映り込むバーチャル背景で、小さい画面を覗き込むように仕事をしている。はっきり言って、情けない。職場の質を決めるのは、所属企業や職階ではない。自分の工夫であり、覚悟である。と……。

そう考えると、それまでの仕事場(=寝室)が急にみすぼらしく見えてきました。端っこに洗濯物は吊るしてあるし、ベッドの上にはパジャマが脱ぎ散らかしてあるし、クローゼットは閉めないとテレカンの時に映りこんで恥ずかしいし、などなど。(ちなみに私はバーチャル背景は絶対に、絶対に使わない派です)

かつてスティーブ・ジョブズは、ペプシコの事業担当社長をしていたジョン・スカリーをリクルートするとき、こう口説いたと言われます。

このまま一生砂糖水を売り続けたいのか、
それとも私と一緒に世界を変えたいのか?

このまま一生、洗濯物の横で働き続けたいのか?

それとも自分にとっての理想の職場で働きたいのか?

もちろん、答えは一つでした。

ここは、もともとどんなスペースだった?

私は、今の家に約6年前、2014年の夏に引っ越してきました。

私が引っ越してくる前は、ここは小さな小さなアパートで、1階がバイクの貸し駐輪場、2階から4階が小さな賃貸物件となっていました。築40年の狭小物件なので土地とあわせて安く出ており、それをまるごと買い取り、リフォームして家族4人の住居としています。(当時はアスベストがー!とか中国の投資家がー!とかいろいろありましたがそれは別の機会に)

リフォームの際、1階の駐輪場は、倉庫として、ほぼそのままにしてありました。だいたい20㎡あります。我が家は諸事情から車を使わないので駐車場はいらなかったのと、子供が大きくなる中で、収納場所で悩みたくなかったからです。もちろん予算の都合もありました。

画像4

写真は引っ越してくる前のものですが、内壁に簡単に板張りだけしてもらって、倉庫と駐輪場にして使っていました。そしていずれは改築して、小さな喫茶店だかバーだかに改装して老後の楽しみとするつもりでした(今もそうです)。

でもそんなの待ってられない! おれは今、オフィスが欲しいんだ!

改めて倉庫の中を見回してみると、モノでいっぱい。私は結構ずばずばとおモノを捨てていくタイプですが、なにしろ捨てる必要がないですからね。古い本、家具、乗らないベビーカー、使わない棚、壊れたポールハンガー、茶道具……。

実際に使っているのは自転車の出し入れをする手前半分だけで、奥半分はそんな生活の残滓が眠る、ぶっちゃけ未踏の地となっていました。去年の年始にDIYで棚をつくろうとして、すさまじく雑な板の塊ができたという黒歴史すら残っている。

つまりそういった使ってない物をかたっぱしから捨てまくれば約半分は空くわけです。十分ワークスペースをつくれそうです。

どうせなら地元のひとに設計をお願いしたい!

在宅勤務になって、もう一つ変わったことがあります。

それは、もう少しこの地域、この街に関われないか、という気持ちでした。

なにしろ一日中家にいて、近所で食事をするわけで、いままで気にしてきた「どこそこのおいしい店」とか「会社近くのおいしいランチ」の記憶はほとんど無駄になり、隣近所をたよって生きているわけです。自分の中で、「この街に暮らす人」の感覚が強まってくるのを感じていました。

なのでせっかくリフォームをするなら、地元の誰かにお願いできたら、とぼんやりと考えていました。

とはいえ、どうやって探すのが一番良いかわからず、ネットで調べては「うーん、わかんねえな」と頭をひねること数週間。

8月末のある日、ふと思いついて、近所のバーに駆け込んで(ドラクエ感!)、紹介してもらったのが、深川の「リフォーム不動産」と、「note architects」の鎌松さんです。

私は常々「競合コンペ」というものが時間の無駄で、得るものより失うもののほうが多いと思っているタイプなので、何社かめぐって比較検討するよりも、この縁を信じて一気に話を進めることにしました。

もちろん予算は必要でしたが、もともとその「バーだか喫茶店だか」の改築用に数年前から少しずつ貯金をしていたのと、飲み会が減って多少お金が浮いていたのもあって、妻の協力も得つつ、どうにか工面がつきそうでした。

完成して、椅子に座って、「こういうことかー!」

まずはこちらから考えていることを伝え、設計をお願いするわけですが、プロに依頼する以上はお願いの仕方も本気で……ということで、きちんとオリエン資料をあつらえました。

スクリーンショット 2021-01-15 225031

今回お願いしたいことだけでなく、その背景にある私の心の動き、建物のもつ歴史、家族の暮らし方などを丁寧に記しました。完全に職業病です。

これがどのくらい役に立ったかはわかりませんが、現地視察を経て数週間後、プランの提案をいただきました。そこにあったコンセプトは、完成後に鎌松さんがサイトに掲載した言葉にまとまっています。

機能的な「可変性」は伽藍堂の空間に委ね、相反する要素を並列することで、ワークスペース「らしさ」を失った、どのような使用にも対応できる自由さのあるスペースを目指しました。

(中略)

もし住宅「らしい」場所では住宅「らしい」過ごし方を、と自然と身体が反応するのであれば、住宅「らしさ」やワークスペース「らしさ」、内部「らしさ」、木質空間「らしさ」などあらゆる「らしさ」を消すことで、身体的な自由を得られるのではと考えました。

もう、何も言うことはないです。あとは身をゆだねるのみ。

もともと外装材である金属系サイディングと、内装材であるフレキシブルボードという2種類の異なる素材を組み合わせ、角の立った木の建具を配し、あらゆる「らしさ」を消していく。そして通りに大きく開かれ、空間のあいまいさを引き立てるガラス扉は、細部まで鎌松さんの設計によるものです。

設計が終わり、倉庫に残っていた荷物を思いっきり捨て、本も数百冊処分。ほぼ空っぽになった倉庫で、施工がはじまりました。

画像6

11月から施工がはじまり、子供らと一緒にワクワクしながら待つこと1か月、12月上旬に引き渡しとなりました。

正直なところ、事前に鎌松さんからいただいていた間取りと壁材のサンプルだけではなかなかイメージがつかず、施工中も、施工が終わってもまだ、「本当にこれでいいのか? 壁材なんか変じゃない? 天井の色もっと濃いほうがよくない?」と疑う気持ちが残っていました。

引き渡しのあと、寝室からえっちらおっちらオフィス用の椅子をもってきて新しいデスクに座り、ぐるっと見回して、その瞬間にすべてのモヤモヤが一本の線につながりました。

こういうことかー!

思わず口に出たのを覚えています。

オフィスであって、いわゆるオフィスではない。

家であって、家ではない。内とも外とも言い切れない。

「ここ」としか言いようのない空間がぽっかりと、ありました。

使ってみての感想

本当は完成したら、仕事のメンバーや友達を呼んで打ち合わせや懇親会をしたかったのですが、折りしも感染者数が急増するタイミングと重なり、そういうわけにもいかなくなって、いまのところ自分のワークスペースとしてしか使っていません。

それでも、良かったと思うところがたくさん(あと残念な点がひとつ)あったのでご紹介します。

①めちゃくちゃ快適な仕事環境を手に入れた。

ワークスペースとしての「ここ」はすこぶる快適で、引き渡しにあわせて購入したPCまわりの各種ツールもいい感じです。

画像7

モニターはDELLのP2419Hを2枚。ウルトラワイドも考えましたが、2枚のほうが複数人が来た時にフレキシブルに使えていいかなと。キーボードは愛用のREALFORCE、椅子は色が気に入って買ったオカムラのフィーゴメッシュです。ケーブル隠しスキルが足りないのはご容赦ください(今はだいぶ視界からケーブル撲滅してます)。Wi-Fiは自宅のメッシュルーターから引いており、爆速ではないですが快適です。

スクリーンショット 2021-01-18 145216

また背景がシンプルなため、使い始めて当初はバーチャル背景と思われることも何度かありました。時々セミナーやプレゼンテーションの場に立つこともありますが、家庭のノイズも入らず、静かでスムーズに行えています。

画像8

シンクがあるので水が飲み放題です。(私だけかもですが)意外と在宅ワーク中は水分を摂りそびれ、喉の渇きも忘れて作業しつづけたりするので、打ち合わせ中でも水を汲んで無尽蔵に飲めるのはありがたい。

今は隅っこに小さなワインセラーも置いてあって常時ワインとビールが冷えており、仕事終わりにPCの「シャットダウン」ボタンを押して、シャットダウンが終わるまでにハイネケンビールが開けられる素敵仕様になっています。

②集中力とモチベーションがあがった。

デスクの使いやすさはもちろんですが、環境による集中力向上も感じます。

いままで通勤により家庭⇔仕事の切り替えをしていたのが、リモートによってなかなか切り替わらないという日もありました。今では毎朝ちゃんと着替えて、靴下を履いて、外から見えるところで仕事をするという緊張感が、集中力を高めてくれているみたいです。

また、仕事のあいまにふっと外を眺めると、ベビーカーを押したお母さんや、学校帰りの小学生が見えたりして、それはそれでリラックスします。

街のなかに溶け込んで働く、というのは思ったよりいいものです。

③オンライン飲み会が快適になった。

何より快適なのはオンライン飲み会で、家族の目をはばかったり、いちいち台所に立つことなく喋り、飲み続けることができます。

ワインセラーに常備してあるビールやワインを取り出して、棚に常備しているミックスナッツを皿に載せれば、永久機関。

それだけでなく、トイレと洗面も1階にあって、居室の動線と重なることなく、切り離された空間として使えるようになっています。そこは6年前のリフォームの時にこだわったポイントでした。深夜でも気にせずゆっくりできます。

④収納は小さくしても、ぜんぜん十分だった。

とはいえ保管したいものもあり、多少の収納は欲しいので、フロアの奥には小さなストックスペース(2畳くらい、棚あり)をつくってあって、断捨離で捨てなかった荷物を収納しています。

もともとの倉庫より面積ははるかに小さいですが、これでもスキー板や茶道具、スーツケース、非常食など必要なものが全部入っています。当初は「こんな小さいスペースに入るのだろうか……」と思っていましたが、いざ荷物を詰めてみると半分も埋まっていません。やっぱりあんな大きな倉庫は必要なかったんだ……

⑤暮らしの合間に「ちょっとだけ仕事」がしにくい。

これは使ってみてイマイチな側面なのですが、広いのと床がコンクリなので暖房が効き始めるのに時間がかかります。

夕食後や寝る前に「ちょっとだけ仕事しよ」というとき、いちいちここに降りて行って暖房をつけて……というのはちょっとやりにくいです。消費電力も気になりますしね。ラップトップをリビングに持っていくこともしばしば。

ただこれは、季節の問題かもしれません。もともとの倉庫は夏もかなり涼しかったので、夏場にどうなるかは気になるところです。

⑥人生に気合が入った

これは本当に意外というか、想像しなかった心の動きなんですが、完成と同時に「人生ちゃんとやんなきゃ!」という気合が入りまくりました。

鎌松さんをはじめとするたくさんの方の協力でここを作ったのだから、ちゃんと働かないと申し訳ないというプレッシャーも感じています。つくるだけつくって、適当に働いていたら、ただの浪費でしかない。こちらからお願いした以上は、本気で設計・施工してくれた皆さんの期待に応えないといけない……!

借り物のオフィスで気楽に仕事していた自分には、もう戻れない……!

この気持ちは忘れないようにしたいものです。

「ここ」を使ってください

見てきたとおり、ここは、仕事場としては快適ですが、それだけではない、まだ定義されていない空間です。なので、本当は自分が使うだけでなく、この街に関わりのある、いろんな人に使ってほしいと思っています。

小さな小さなスペースで、人通りの少ない道にしか面していませんが、やろうと思えばちょっとした物販や撮影、展示、ミーティングやパーティー(状況が許せば)も可能です。

画像11

今はこんな感じで、手前にテーブルを置き、コートかけでワークスペースとゆるく仕切っています。

興味のある方はぜひ、お声かけください。

場所を所有すること

最後に、少しだけ概念的な話を。

いま、誰もが自分の働き方と暮らし方を見つめなおしています。それはコロナのせいでもあり、その前から続く、モノのサービス化による大きな流れとも言えます。

もちろん、持たない暮らしもあるでしょう。縛られることなく移動し、サービスを使って何万という選択肢から自由に選び、自由に働く生き方も現代そのもので、素敵です。

でも、「持つ(所有する)」ことも同じくらい素敵だな、と私は思います。むしろ、何も持つ必要がなくなってきたからこそ、「持つ」ことの価値が高まっているとも感じています。

「持つ」ことは、自分への投資であり、不退転の決意であり、何より自分を形作る行為、自分の外のものを自分の中に取り込む行為である。

だとすると、自分は、何を持っている人になりたいか。

そう問うてみたときに、私は、ささやかながら、「場所」を持つことにしました。これからの数十年、仕事と生活の結節点であり、家と地域の結節点としての「場所」になればいいなと思っています。どのように使っていけるかわかりませんが、仕事、家庭、遊び、少しずつ豊かに、誇り高いものにしてくれると信じています。

画像9

遊びに来た清澄白河写真室の写真家、林田さんが撮ってくれました。

この記事が参加している募集

この街がすき

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!