【実験】テレビCMの制作に生成AIを使うとしたら
生成系AIが急速に話題になってから、3か月が経とうとしています。たった3か月、という想いと、もう3か月か……という想いが両方ありますね。激流のように過ぎていった3か月でした。
3か月経った今なお、日々新しいサービスが発表され、進歩著しいです。日本においては、mimicの炎上やNovelAIなど、イラスト界隈での話題にシフトしつつありますが、そのインパクトの本質は当然イラストにとどまるものではないですよね。
そこで、10月末時点で、生成系AIをテレビCMにおいてどのように活用できるかを、実際のテレビCMを見ながら考えていきたいと思います。
また、「AIでテレビCMを生成する」と言うと、ゼロからすべてAIで生成するような印象がありますが、現時点でそのままオンエアできるクオリティの動画をAIが生成するのは難しいです。
逆に、今回考えていくのは「現在オンエアされているCM制作にAIを活用するとしたら何ができるか」とします。
なぜテレビCMか?
いきなり余談ですが、テレビCMの制作という市場について考えてみましょう。
日本におけるテレビCMの広告費は約1.8兆円で推移しているようです(電通調べ「日本の広告費」)。これは媒体費(放送権利料)であり、CMの制作費用はこれとは別に計算されます。
経験上、媒体費に対する制作費の割合は10~30%程度と思われるので、「テレビCM制作市場」は年間約2000~4000億円規模となりますね。
イラスト市場の市場規模はわかりやすいデータがなかったが、アニメ制作業界の市場規模は帝国データバンクの調査データがありました。それによると2021年時点で約2500億円とのこと。
アニメ制作と同等の市場規模と考えると、テレビCM制作業界のインパクトは相当大きいと言えそうです。
見ていくテレビCM
見ていくテレビCMは、作為的な抽出にならないよう、CM総研の10月度の好感度ランキングから抽出しました。
ここ最近で一度は見たことのあるCMが並んでいますね。
①日本マクドナルド「三角パイ」
ランキング1位は三角パイ。
いきなり難しいですね。
冒頭で人物が寝転んでいる落ち葉のテクスチャはおそらく生成が可能である。Lexicaでfallen leavesで検索すると写実的なテクスチャも生成できている。
舞い落ちる落ち葉の動きは、Phenakiなどのモーション生成AIで生成できる可能性もある。大量に生成し、組み合わせていくことでそれっぽいものができるかもしれない。
動きがすくない場面において、背景生成は可能かもしれない。
あるいは撮影したグリーンバックの素材の背景に公園を粗く描き、img2imgで背景を生成することができるかもしれません。
転がる人の動きにあわせて動く落ち葉や、風に自然にゆれる木々など、ロケやセットならではの自然さは現時点では再現が難しいように思います。
②リクルート「タウンワーク」
ランキング2位のタウンワーク。
CMメイキングのようだがCM本編です。そういう企画のよう。
背景として使っている雪渓はAIで生成しやすいモチーフと言えそう。
このCMもばっちりセットを作りこんでいるので結構難しそうだが、一方でWEB用のCMもあるようなので見てみる。
キャラクター生成はもちろん、背景の黄色いテクスチャ、そして決めカットはもしかしたらimg2imgで作れてしまうかもしれません。
試しに決めカットの背景画像をAIで生成してみる。
もしかしたら、撮影した素材をトリミングして、outpaintingで拡張できるのではと思ってやってみた。
③サントリー「ほろよい」
言うまでもなくこういったイラストレーションはAIの得意領域である。
あるのだが、、、
すみません、私がNovelAIに長けていないのでいろいろ限界ですが、この辺はプロがいくらでもいますね。
もし構図が決まっているのであれば、直接イラストを描くより、ラフを提示してimg2imgで仕上げたほうがよさそう。
と思ったらこのCM、実写バージョンもあるらしい。
実写から切り取ったカットでimg2imgをやってみた。
このように、実写⇔イラストの行き来はしやすくなるかもしれない。
④P&G「ボールド」
CM冒頭のイラストの背景、屏風の背景あたりの画像素材は近いものが生成できそう。
あとは、抽象的な概念のシーンなどは得意です。アニメーションもPhenakiやMake a videoなどを見ていると早晩つけられるようになりそう。
たとえばこのシーン。
今回いくつかのCMを見ていてわかったのだが、化粧品やコスメ、医薬品などのCMには、こういった抽象的なシーン(イメージカット)が多い。これらはAIでつくりやすいです。
➄日清食品「カレーメシ」
場面が目まぐるしく切り替わるので一場面ごとの動きが少なく、背景は割と生成しやすいのかなと思います。
静止画を生成するのは割とできるのですが、例えばこのミニチュアのシーンは「ミニチュアの建物が割れて人が飛び出してくる」となっており、そういった複雑なアニメーションに適用するのは難しいのではないでしょうか。
そのほかの活用方法
他にもいくつかの切り口で生成AIは活用できます。
プロンプトや画像からのBGMの生成
人物の声の生成
ただ、CM好感度上位に食い込んでくるCMは、いずれもオリジナル音源や著名な音源を使用しており、AIで生成された音源をそのまま流せばOK、というわけではなさそうです。
モデルが動きをし、顔だけタレントに差し替え
これも可能そうです。Dreamboothなどを活用してタレントのモデルを作ってしまえば、あとから顔を差し替えることができます。アップや長まわし(長いカット)などでは違和感が残るかもしれませんが、一瞬であればさほど違和感なく使えるかもしれません。撮影カットが減ります。
また、実際にオンエアされるCMを前提とするとクオリティ的に及ばない部分も多いですが、CMを制作する前段階で、企画を設計したりクライアントに提案する際に制作される「絵コンテ」と呼ばれるものには十分使用可能なクオリティとなっています。
そうすると、CMを高めのクオリティでプロトタイプして、調査して、修正して、というサイクルを回すことができます。制作のプロセスも変わってくるかもしれません。
まとめ
割とうまくいきそうなもの:
背景画像の生成(特に動きが少ないもの)
Outpaintingやimg2imgをうまく使いたい
抽象的なイメージ画像の生成
化粧品や医薬品などで活用できそう
イラストをメインにしたCM
イラストと実写の行き来がしやすくなるかも
CMのプロトタイピング
プロトタイプ段階で調査をして、修正するなどが可能に
難しいもの:
撮影でしっかり作りこむタイプの企画
好感度ランキングの上位に食い込むようなCMはさすがに演出上凝ったものが多く、予算も(おそらくは)高く、ロケや大規模なセット、手の込んだCGによるものも多いと言えます。したがって全体的にAIの活用が難しいかもしれません。
一方で、好感度ランキングの上位に食い込むCMだけに価値があるわけではありません。通販系のCMや、より費用対認知効果を重視したシンプルなCMにも価値があります。(タウンワークの例でも見ましたが)WEB用の短いCMはカットの動きも少なく、そうすると背景の生成もしやすい可能性があります。
あまりに一般化するのは危険ですが、ざっくり「凝ったCM」でないものほど、AIの活用の幅が広いと言えそうです。
注意点
当たり前ですが「AIで生成できる=AIで生成したほうがよい」ではありません。
例えば「タウンワーク」のCMにおける雪渓や、「カレーメシ」の各カットの背景などは、現時点でもしかしたら商用利用可能なレンタル素材を使っているかもしれません。そうであれば、AIで生成するより楽、あるいは手間がほとんど違わない可能性があります。「ボールド」のイメージ画像も同様です。
あるいは撮影が容易なカットの場合、いちいち生成してはめ込んでいくよりも撮影してしまったほうが早く、クオリティが高いこともあるでしょう。
CMを制作する側には、どこまでをAIで行い、どこからを手作業で行うかのバランス感が求められると言えます。
最後に
いろいろやってきましたが、生成AIはイラストだけのものではありません。こういった形で実ビジネスにどんどん活用していきたいものです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?