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UXコンサルティングのパイオニア・宮坂さんと語り尽くす!「良きサービス」の作り手であるために必要なこと

FOURDIGITが、新築マンションサイトの領域で着実に実績を積み上げていた2007年頃。同時期に、デジタルコンテンツのコンサルティングや企画・設計に強みを持つbeBit社とのお付き合いが始まり、さまざまな業界の大規模サイト制作に携わるようになっていきます。そんな時代を象徴するゲストとしてお迎えしたのは、ユーザー視点を追求するWebサイト制作で協働したbeBitの宮坂 祐さん。FOURDIGIT 代表取締役の田口、執行役員の仁田と座談会形式で、好事例の数々を振りかえるとともに、「UX」「DX」時代を迎えた “今”を語っていただきました。

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宮坂事務所 / beBit 宮坂 祐
2002年に株式会社ビービット(beBit)入社。以来、コンサルタントとして金融やメディア等、幅広い業界のデジタル戦略立案・成果向上プロジェクトに携わってきた。2020年5月に合同会社 宮坂祐事務所を設立(beBitアドバイザーを兼務)。「プロのファシリテーター」として新たなキャリアをスタートさせた。グロービス・マネジメント・スクールの思考系・戦略系科目の担当講師としての顔も。著書に『顧客を観よ~金融デジタルマーケティングの新標準』(きんざい、2016年)。

ROI重視のWebサイト制作でタッグ。好連携を可能にした2つの共通項

田口
FOURDIGITがWebサイト制作でbeBitさんとご一緒させていただくようになったのは、2006~2007年頃でしたよね。初めに、その当時をふり返ってみたいと思っています。

宮坂
当時はFlashの全盛期。インパクトはあるけど使い勝手の悪いサイトが少なくなくて、その反動から、「ちゃんと使えるサイト」を作りましょうという風潮が一部で起こり始めていた時期ですよね。beBitは、2005年頃からROI(投資対効果)を重視したWebサイト制作を積極的に打ち出していたんですが、自分たちで設計はできるけどサイトの制作はできない。そこでいくつかのプロダクションと組んでやってはいたものの、なかなかマッチするところがなくて。そんな時に出会ったFOURDIGITは、ことのほか相性が良かった。以来、制作をお願いする時はまずFOURDIGITに声をかけるようになりました。

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田口
相性の良さ、というのはどのへんで感じられたんですか?

宮坂
思想性というか、考え方が近かったと思うんですよね。第1に、「ユーザーにとって良いものを作ろう」という意識。第2に、「逃げずにやり切る」というマインド。

田口
それは両方大事ですね(笑)。

仁田
「逃げずにやり切る」は、当時の宮坂さんの姿から、僕も強く感じていました。必ずリリースまで付き合ってくださるし、何かあればお客様のところに一緒に謝りに行ってくれる(笑)。あとは、僕たちをしっかり巻き込んでくれているな、という感覚も強かったです。プレゼンや打ち合わせには必ず同行させてくれたし、ユーザー調査も一緒にやりましたね。

宮坂
確かに、一緒にやってましたよね。プロトタイプを作ってユーザー調査に臨んで、そこで出た意見をその場で吟味。次の調査開始までには改善点を反映させたプロトタイプができている、みたいなアジャイルな進め方でしたね。

田口
クライアントとのコミュニケーションのとり方や、設計をどうロジックに落とし込んでくべきかという部分でも、beBitさんと一緒に大規模案件を経験する中で学ばせていただくことが多かったです。

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田口
何より、今のユーザー調査の話に直結しますが、この頃にプロジェクトを通して「ユーザー視点」の大切さを体得できたのは、その後のFOURDIGITにとって大きな意味がありました。リサーチツールとしてのCREATIVE SURVEYの開発や、その後のサービスデザイン領域における展開の、起点になる経験だったと思っています。

コンバージョン急伸! 話題を呼んだ実績の数々

田口
beBitさんとの比較的初期の案件のうち、語学学校のWebサイト制作は、FOURDIGITにとって大規模サイトのエポックな事例になっています。

宮坂
その後お客様に許可をとってbeBitの実績として掲げるほど、コンバージョンレートが大幅に伸びたプロジェクトですよね。情報設計やコンテンツ設計もさることながら、それをFOURDIGITの制作チームがうまく形に落とし込んでくれたからこその成果だったと思います。

仁田
ウェディングのテコ入れが課題だったホテルのプロジェクトも、かなりエポックメイキングでしたよね。ギャラリーがキラーコンテンツで、未だかつてないサイトになった。

宮坂
当時は「カスタマージャーニー」という言葉もまだ無かったけど、ユーザーの検討行動全体に踏み込んで作ったサイトでしたね。結婚情報誌などの印刷媒体では到底カバーできないほど膨大な点数の写真を盛り込んで、各場面に付随するQ&Aを写真とセットで掲載。だからユーザーは、サイトを見れば見るほど不安や疑問が解消され、式場への興味がかき立てられる。プロトタイプを作ってお客様にも納得してもらい、当初の想定より数多くの写真を用意してもらって作りましたね。

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仁田
「いつでも見学予約」のような、今でこそウェディングサイトで一般的になっているサービススキームも、あの時beBitさんが作られたんじゃなかったかな。

宮坂
いいスキームは、往々にして他社に追随されますが、それによってユーザーにとって好ましいサービスが増えるなら、それでいいと僕は思っています。

田口
ほかにも思い出深いプロジェクトは複数ありますが、僕が宮坂さんに対して一貫して思っていたのは、「作るところも好き」なんだなということ。

宮坂
「好き」というよりは、「大事だと思っている」という感覚が近いかもしれないですね。結局、どんな企画も作れなければ絵に描いた餅になるじゃないですか。きちんと世に出て、より多くのユーザーに使ってもらって喜んでもらえなければ意味がないよねと。そういった意味でも、冒頭にお話しした思想の面で共通性があるFOURDIGITとはうまくいったんだと思います。

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「顧客目線」の獲得。ユーザー調査はUXデザインの絶対条件

田口
先ほど「カスタマージャーニー」という単語が出ましたけど、「UX」という言葉も10年近く前にはまだありませんでしたよね。FOURDIGITでも、当時は「Human Centered Design」とか「User Centered Design」という呼称を使っていましたが、それも一般に浸透しているとは言いがたかった。

宮坂
そうですね。beBitでは、「ユーザー中心設計」と言っていました。

田口
その後、「UX」というワードの普及とともに、業界の中での裾野も急速に広がっていきましたよね。UXコンサルティングやUXデザインの概念を先駆的に実践してきたお立場から、そんな状況をどのように見ていらっしゃいましたか?

宮坂
それが大体2014年頃かなと思うんだけど、当時思っていたのは、「UXと言うわりに、ユーザー調査やってないじゃん!」ということかな(笑)。

田口・仁田
あ~~。

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宮坂
UXを標榜するからには、僕はユーザー調査はマストだと思うんですよね。beBitとFOURDIGITのチームは、どんなプロジェクトでも必ずユーザー調査をやってたじゃないですか。それは、作り手側が想像した顧客体験なんて、妄想でしかないと思っているから。作り手がどれだけ顧客目線に立とうと思っても、自分目線を脱却するのは難しい。だからこそ、半ば強制的に「顧客側からどう見えるのか」を自分に課す時間が不可欠だと僕は思っています。

田口
当時、あそこまで向き合ってた会社はたぶんほとんどないと思います。

仁田
ユーザー調査と、それを踏まえた意思決定にクライアントも巻き込んでましたよね。

宮坂
それもやっぱり、「ユーザーにとって良いものを作ろう」という信念と、それを「逃げずにやり切る」という最初の話につながってくるんじゃないかな。

世界を、より良いサービスで満たすために

田口
宮坂さんは、2020年5月にご自身の会社を設立されたんですよね。会社を立ち上げた一番の目的は何だったんですか?

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宮坂
大企業のDXやUXの取り組みを見ているなかで、経営と現場、あるいは部署同士、かみ合ってないことだらけだと感じていて。特に、戦略コンサルティング的なケイパビリティと、デザイン的なケイパビリティに特化したチームは往々にしてぶつかるんだけど、取り組みを進める上ではどちらも不可欠。

田口
そのコンフリクトって、色んなところで起こってますよね。

宮坂
そもそも、「DX」という言葉の定義からして人によってバラバラな状況下で、異なるケイパビリティを持つ者同士がぶつかるのも無理からぬこと。僕は今、「プロのファシリテーター」を名乗っているんだけど、両者の言葉を翻訳し、交通整理をし、皆が同じように指し示すことができるような北極星を作りたいと思っています。
さらに言えば、こういった北極星を作る能力って、サービスデザイナーやエクスペリエンスデザイナーにも必要なものだと思うんですよね。ただし、できる人はすごく希少。FOURDIGITでサービスデザインに関わる皆さんは、今後そういった方向に進化を遂げられるのかなと、とても期待しています。

田口
確かに、そうですね。今後そういった部分を求められる場面が増えていくんだろうという感覚は持っています。でも、おっしゃるように簡単なことではない。チャレンジしながら形にしていきたいです。

仁田
そうですね。

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宮坂
あとは、サービスデザインに関して言えば、Webサイト制作で貫いていた「ユーザーにとって良いものを作ろう」の視点に加えて、そもそも「その企業がどういったビジネスイシューに直面しているのか?」「これから何を研いでいかなければいけないのか?」も両面で考えなければいけないわけですよね。その前提があった上で、FOURDIGITはUXでエッジを立てようとしているのかな、と。そんな風に捉えています。

田口
そうですね。FOURDIGITのいちばんの武器は何かと言えば、やはりデリバリーまでできること、作るところだと思っているので。手触りのある、最終のアウトプットの部分をやり切ることができる。そこに、道筋があるんだろうと考えてます。

宮坂
やっぱり、普通に日々生活していても、いけてないUXって多いじゃない。でもそれって、日本有数のUXカンパニーであるはずの、FOURDIGITやbeBitがまだまだやん! ということでもあるわけで(笑)。世の中がより良いサービスで埋め尽くされるように、これからもがんばっていきましょう。

田口
きれいにまとめていただいてありがとうございます(笑)。がんばります。本日はありがとうございました!

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編集・執筆 glassy&co.
撮影 吉田周平