Big4税理士法人のパートナー税理士が訴えられた裁判を見てきた

東京地方裁判所 令和5年(ワ)第28622号 債務不存在確認請求事件
原告 〇〇
被告 村田真理
被告代理人 弁護士法人大西総合法律事務所
      大西洋一、村上雅彦、長嶺悠介、松井杏輔

被告はこの方ですかね。

※ 世界四大会計事務所(Big4)の最高職位であるパートナーであること、税理士という社会的信用の高い職業であること、大学院講師ということで公共性・公益性ありと判断しています。


時短用まとめ

被告村田真理から原告に対し360度評価(匿名)の依頼
→ 原告から被告村田真理に360度評価(匿名)の実施(ほぼネガティブフィードバック)
→ 原告の、被告村田真理との仕事が全て外される
→ 被告村田真理から原告に対する仕事外し・職務放棄の説明の中で、被告村田真理は原告の行った360度評価(匿名)(ほぼネガティブフィードバック)を「パワハラで訴えられる」と発言
→ 被告村田真理は原告からの連絡の一切を無視
→ 原告は仕方なく本債務不存在確認訴訟を提起
→ 被告村田真理は、原告を訴えないこと、原告の債務が不存在であることを主張(???)
→ 本債務不存在確認訴訟が却下される

訴状

第1 請求の趣旨

1 原告の被告に対する、職場におけるパワーハラスメントによる不法行為に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。

第2 請求の原因

1 原告は、〇〇〇〇。
2 被告は、〇〇に居住する個人であり、原告と同様にEY税理士法人国際税務・トランザクションサービス部国際法人税アドバイザリーグループにおいてパートナー職として勤務している税理士である。原告との関係は被告が上司で原告が部下である。
3 原告は、2021年7月16日、業務上において、被告本人から依頼された被告に対する360度評価(甲1。匿名による同僚・部下から、業務における上司・先輩へのフィードバックのことを言う。)を提出した。この360度評価は匿名で行われ、「評価者の回答とコメントが評価者の名前と関連付けられることはない」(甲1)ものであったにも関わらず、これにかかる評価者は原告であると特定され、これ以降、被告と関わるすべての仕事を外されるに至り、また、業務上の関わりも一切なくなることとなった。
4 被告は、2022年5月24日、上記3の仕事外しの理由についての原告への説明の中で、原告の行った360度評価(甲1)は被告に対するパワーハラスメントであり訴えることができるとする、原告に対する損害賠償債権を有するとする発言を行った(甲2の1)。
5 上記4以降、被告は原告からの連絡の一切を無視しており、このまま状態が続けば、被告はいつ原告に対して訴訟を提起するかが分からず、不安な日々を過ごすことになる。
6 よって、請求の趣旨第1項に記載したとおり、原告は被告に対して職場におけるパワーハラスメントによる不法行為に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求めて本訴に及ぶ次第である。

甲2の1 反訳書(被告発言の前後抜粋)

原告 あのー、まあ批評だったり批判だったり、誹謗中傷に当たらないレベルのそういったものについては…
被告 原告さんからいただいた360度評価を私何人かの方に見せました、あまりにショックだったんで、社内ですけどもちろん、あのあれそのままパワハラで訴えられるって、ていうレベルですよ。
原告 うーん、あじゃあ、訴えて、訴えていただいて大丈夫ですね。
被告 なので、それぐらい?あの強い言葉を、使ってるんですよ。原告さん。

答弁書

第1 本案前の答弁

 1.本件訴えを却下する
との判決を求める。

第2 本案前の答弁の理由

 被告は、原告に対して、原告の被告に対する360度評価(甲1)におけるパワーハラスメントを理由として損害賠償請求をするとの主張、その具体的な賠償額の適示及び請求をしたことは一度もない。
 また、被告は、原告の360度評価(甲1)をめぐる問題は、被告が令和4年5月26日に原告及び被告の勤務先のリスクマネジメント部に対し、原告の360度評価(甲1)はモラルハラスメントに該当するのではないかとの通報を行い、令和4年8月22日に、被告と、原告及び被告の勤務先の人事担当者との間で行われたミーティングにおいてその通報の結果報告が行われ、検討の結果、ハラスメントには該当しないものの不適切な内容であると結論付けられ、原告に対して注意を行ったと聞き、これにより既に解決したと認識している。そのため、被告は、原告に対して、今後360度評価(甲1)におけるパワーハラスメントを理由として損害賠償請求を行うことはない。
 そもそも、職場におけるパワーハラスメントとは、優越的な関係を背景とした言動でなければならないところ、本件の360度評価(甲1)は、訴状記載の通り、同僚・部下から上司・先輩へのフィードバックであるため、優越的な関係を背景としていない。そのため、原告の言う債権自体が発生しえない。
 以上から、本件訴訟は確認の訴えの利益を欠き、不適法として却下されるべきである。

第3 被告の上申について

 第1回期日は都合により欠席する。裁判所におかれては、本答弁書を擬制陳述のうえ、弁論を終結されたい。

原告第1準備書面

未陳述のため概要。

答弁書「第2 本案前の答弁の理由」に対する認否とその反論
 第1段落は、「被告は、原告に対して、原告の被告に対する360度評価(甲1)におけるパワーハラスメントを理由として損害賠償請求をするとの主張」「をしたことは一度もない。」は争う。その余(「その具体的な賠償額の適示及び請求をしたことは一度もない。」)は認める。
→ 被告は、原告に対し、訴えの利益を有するとの発言をしていることを主張

 第2段落は不知ないし争う。
→ 原告は、被告の主張する通報の事実を知らないこと、そして原告が被告の主張する通報によりEY税理士法人からヒアリングを受けた事実、その結果、EY税理士法人から注意をされたという事実は存在しないことを主張

 第3段落は争う。
→ 被告は、本件360度評価(甲1)はハラスメントであると主張していることを主張

 第4段落は争う。
→ 確認の利益は存在していることを主張

判決

主文

1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求
 原告の被告に対する、職場におけるパワーハラスメントによる不法行為に基づく損害賠償債務(以下「本件債務」という。)は存在しないことを確認する。

第2 当事者の主張
1 原告の主張
 別紙訴状の「第2 請求の原因」記載のとおりである。
2 被告の主張
 別紙答弁書記載のとおりである。

第3 当裁判所の判断
 およそ確認の訴えが許されるのは、被告に対する関係において、原告の法律上の地位の不安が存在し、確認の訴えによりその不安状態が除去される場合に限るものというべきところ、本件債務が不存在であることは被告も認めているところである。そうすると、原告は、被告から本件債務の請求を受けるおそれがなく、本件債務の存否については、原告の法律上の地位に不安が存在するものということはできない。
 この点、原告は、被告が原告による360度評価(同僚・部下から上司・先輩へのフィードバックのこと。以下同じ。)が被告に対するパワーハラスメントであり、訴えることができる、原告に対する損害賠償請求権を有するとの発言を行ったのに、同発言以降原告の連絡を一切無視しており、このままの状態が続けばいつ被告から訴えが提起されるか不安な日々を過ごすことになると主張し、これに沿う証拠として反訳書(甲2の1)及び録音記録媒体(甲2の2)を提出する。確かに、被告は、EY税理士法人の人事部長らが同席する場において、原告による360度評価の内容が「パワハラで訴えられるって、ていうレベルですよ。」、「それぐらい」、「あの強い言葉を、使ってるんですよ。」という発言をしている(甲2の1、2)。しかし、同発言は、原告による360度評価がいかに強い言葉で被告を非難するものか表す程度表現として、パワーハラスメントとして訴えられるレベルである旨発言されているにとどまり、当該360度評価を理由に原告に対して損害賠償請求をする旨述べているものではない。また、被告が同発言以降も、原告に対し、損害賠償を請求する文書等を送付したり、訴えを提起するなどして被告が原告に対して本件債務を請求した事実がないことは原告も認めている。そうすると、原告の主張する不安は、法律上の地位の不安ではなく、心理的な不安感にとどまるものというほかない。
 そのほかに原告が確認の利益を有することにつき、特段の事情のあることも認められないから、本件訴えは権利保護の利益を欠く不適法なものである。
 よって、本件訴えを却下する。
東京地方裁判所民事第25部 裁判官 鈴木優香子


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