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【秘密の読書感想文 #1】十角館の殺人/綾辻行人

小説を最後まで読み切ったのはいつぶりだろうか。
まずは、よく頑張った。
兎にも角にも読むというところに重きを置くならば満点である。
内容は、なんと言ったらよいのか。
普通の一言で片をつければ楽であるが、はたしてこれが十分であるかに疑問が残る。

まず、名前がカタカナで登場人物がなかなか覚えられなかった。
後半には馴染み、毎度と詰まることはなく話が入ってくるようにはなったが、それでも負荷だったことには変わりない。
町名も、S町やJ崎や。なぜあえてローマ字なのだろうか。一般的にそういうものなのだろうか。いまいち頭に入ってこない。
ストーリーも特別面白いとは感じなかった。

小説を全くと言っていいほど読んでこなかった私が小説を読み始めるにあたって、一作目に「十角館の殺人」を選んだのは、それがランキングに位置する有名作品だとどことなく情報が重なったからだ。
そして勿論、ミステリーは好きである。

期待値が上がりすぎていたのだろうか。
はたまた、大衆におもしろいとされている小説はこの程度のものなのか。
ここでの程度に蔑む意図はない。
少し残念な気持ちになっているが、勝手に期待していたのは私である。
作品が期待を超えてこなかったと言いたいわけではないのだ。
そもそも期待の方向を間違えていたような感じだ。私がそこに何を期待していたのかは自分でも分からないが、何か違ったのだ。

読書初心者が最後まで読めたということ、少なくとも優れたものであるに違いない。
とすれば、ただ私にはまらなかっただけ。かもしれない。
おのずと答えは分かってくるだろう。

衝撃の一行とやらについても、有名所を知らない身としては「へー、そんなあだ名なんだ」と何ともなく通り過ぎてしまった。
やはりそこまで深く名前が落ちていなかったのだと思う。
「何も分かっちゃいない、何も気づいちゃいない」という確信どころに触れて、はじめて「あれ」となり手を戻した。
ようやく理解が追い付いた。ここがそれだったのかと分かった。
言われてみれば一頁一行に微かな違和感みたいなものはあった気がするが、それも思い返してみればという節である。
決してそのとき掴み取ることはできなかった。
小説を読み慣れている人にとっては、ここで大方の顛末がすっと入ってきたのだろう。なるほどなと思った。
話は逸れるが、あの一行は文量を調整してあの構成になったのだろうか。
前頁の行数を切り上げて次頁にした形ではなかった。
文字数を自在に操れるのか。そんなことが可能なのか。
プロの技を見た気がした。

最終盤、瓶を渡すように伝えるところ。
恋人が見えないという視点からきれいに流れていた。
心情が想像しやすく心地よかった。
通して、印象に残ったのはそこである。言うなれば、そこだけである。
最後が一番印象に残るというのは、そういうものなのかとも思う。
伏線が凄かったとか、登場人物に対してなにか共感できるところがあったとか、そういうものはなかった。
どこまでいっても「へー」「そうなんだー」止まり。
読んだあとの余韻はなかった。
本格ミステリがなんぞやと語ってくれるならば、もっとこう、これが本格ミステリかとなるような何かが欲しかったのかもしれない。

ここではっきりさせておく必要があるが、より面白いものを自分ならば書けると、そんな主張は到底できないのである。そう、実にずるい立場だ。
少しの罪悪感から、ここでは、いつか面白いと思えるときがくるかもしれないとだけ書いておきたい。
いま面白くないと決めるには早すぎるだろう。
正直なところ、二、三年で小説家になれるかもしれないとまで思ってしまった。
そんなイメージは全くと持てないのにだ。漠然となめてしまっている。
この作品は作者が二十六のときに書いたものらしい。私も近い歳になる。
そう考えると、よりいっそう希望があるように思えてくる。
自信はないのに自信があるという矛盾の至ることになっている。
然しまあ、自分には無理だと打ち砕かれなかったという点ではよかったのかも知れない。
それほど私は書くという行為が純粋に好きなのだ。

と、ここで少しばかり冷静に。

小説家を志す者として末恐ろしい感想を書いてしまっているのではないだろうか。
リスペクトというものがまるで無い。好き勝手に言いすぎている。
しかし、こう思っていることも事実。
いつの日か、なんて失礼な奴だろうと自己嫌悪に落ちるだろう。
「何もわかっていない」の一言である。
容易く想像がついてしまう。まことに皮肉である。
だが、記録として残しておきたい気持ちがある。
必ず私は小説家というものになるときがくるのだ。
そうして私もまた、作家志望のなんとも痛い人間に散々な言われようをするのだろう。
私は思うのだ。良さのひとつもわからぬ未熟者が、と。
面白い面白くないなどと評論家を気取れるのは無知ゆえにか。
知れば貶す言葉のひとつも出てこないだろう。

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