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『いつぞやは』観劇感想

『いつぞやは』(加藤拓也 作・演出)
@シアタートラム
2023.10.1 14:30開演

(ネタバレあります)

加藤拓也さんのお芝居は初見。友人に勧められてギリギリチケット購入できた。観劇できてよかった。

言いにくいことを言っていない様、言外に何かを伝えている様、言っていることとまるで違うことを考えている様、シンプルに言葉を失っている様。
それらすべてに実在感があって、メタ的な構造の演劇は個人的には苦手なんだけど、話に引き込まれた。
演技も皆上手く、(“下手な芝居”という芝居が上手だった)明確な場面転換のないシーンの切り替わりも自然。違和感やストレスを感じない観劇だった。

はっきりと死を意識して、自分の人生をなんらかの「作品」として残したくなる気持ちはよくわかる。死を目の前にして、かつての演劇仲間の脚本家を訪ねた一番の目的は、「俺を脚本にしてくれ」とお願いすることだったのだろう。ただ、そのお願いを受け入れるのを渋る演出家の気持ちもわかる。
わからなかったのは、彼が結局その申し出を受け入れた気持ちで、おそらく終盤はそれを描いていたのだろうけど、最後の電話のシーンやそこから繋がる執筆のシーンでは、正直彼の気持ちを見失ってしまった。
まだ死をリアルに意識していない脚本家が、結婚について「まだ考えられない」と悠長なことを言っている側から、明確なタイムリミットがある友人は結婚を急に決めたことが、彼に何か影響したのだろうか。

実際に死に触れる電話のシーンで、伝えられる側二人の感情の流出に置いてけぼりになる感覚があった。電話の相手方のセリフが聞こえないからではなく、単純に「そこまで急に感情高まるのか」「そんなに覚悟していなかったのか」という疑問が生じただけだが(“坂本”が泣くのはまだわかる、そういう一面がありそうな人物として描かれていた)、個人的にはせっかく上に書いたように丁寧に積み上げられていた「実在感」が失われたように感じた。
(私は現実の葬儀でも周りの感情についていけなかったりするので、こちらの問題なのかもしれない)

最後に少し放り出されたように感じてしまったのは残念だったが、全体的には楽しめた。何しろ平原さんの演技が素晴らしい。セリフ以外であれだけ感情を見せられるのは凄い。生命線を延ばすくだりは特に心を揺さぶられた。

個人的に「印象に残った曲があった芝居は名作」と考えているんだが(ナイロン『消失』のハッピートゥギャザー、同『フローズン・ビーチ』のフニクリフニクラ、ハイバイ『投げられやすい石』の喝采…)、今回のさよなら人類もそうなった(2回目の方)。忘れられないシーンだ。

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