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銀河フェニックス物語 <番外編>  名前の由来 ショートショート

『裏将軍』と名付けたのは、大富豪ハサム一族の次男坊アレグロだ。

アレグロコーヒー逆

 フローラを亡くしてハイスクールを中退し、将軍家を出た後の頃のこと。

 『銀河一の操縦士』になる、というフローラとの約束だけが生きるよすがだった。船を操縦できればそれでいい。飛ばし屋として速い奴と戦えるのは願ったりだ。無免許を隠して飛ぶために、俺には別の名前が必要だった。

「妹に聞いたが、お前、将軍家のバカ息子なんだってな。『裏将軍』というのはどうだ。格好いいじゃないか」

フラット 少年

 ひねりがあるのか無いのかよくわからない名前だが、俺にはなんの意思もない。
「あんたは大富豪一族のバカ息子なんだろ。勝手にしてくれ」

 アレグロはマーケティングを学ぶために入った名門大学を留年していた。
 あいつは率いていた飛ばし屋チームを『ギャラクシーフェニックス』に改名し、『裏将軍』のブランド化を始めた。
 総長の俺は銀河の至る所にあるハサム一族の別荘で、誰とも顔を合わさずひたすら愛機の教習船をいじっていた。
 バトルがあれば『裏将軍』を名乗って出るだけだ。あわよくば事故って死ねればフローラに会える。

ギャラクシーフェニックスの旗青

 バトルで勝ち進めば組織は大きくなる。一癖も二癖もある飛ばし屋や、気の荒い暴走族たちをアレグロはうまくさばいていたが、それでも問題は起こる。
 言うことを聞かない奴らには『裏将軍勅令』を出して、制裁した。要は喧嘩だ。どこまで力を入れれば骨が折れて、どこまで刺せば死ぬか。戦地帰りの俺はよくわかってる。
 裏将軍による『死ぬより怖い制裁』で公道で暴れる奴らは一気に減った。俺は無免許状態だ。『銀河一の操縦士』になる前に警察の厄介にはなりたくねぇ。

 ネル星系で吸収した飛ばし屋クリムゾンローズの頭ヘレン・ベルベロッタはいい腕を持っていた。

振り向き微笑逆

 ギャラクシーフェニックスの幹部となったヘレンは裏将軍側近のアレグロに持ち掛けた。
「裏将軍と契約したいの。あたしとつきあっているフリをしてほしいんだけど」
 そのころ『裏将軍』に憧れる女子たちが付きまといを始めて面倒な状態になっていた。隠れ家の別荘を変えてもすぐに追いかけてくる。
 ヘレンも似たような悩みを抱えていた。荒れくれ男どもがヘレンを自分のモノにしようとしょっちゅう揉めごとを起こしていた。
「解決策としていい提案だ」とアレグロは快諾した。

 ハサム一族の別荘で俺はヘレンと初めて会った。
 ネル星系でバトルした時はお互い顔が見えなかったが、かなりの美形だ。背が高く、モデルでもやっていけそうなスタイルだ。
「裏将軍ってほんとにチビなのね」
「うるせぇ」
 口を尖らす俺にヘレンは笑顔を近づけた。
「いっそ、あたしと本気でつきあわない?」
 操縦を見ればわかる。度胸があり判断のいい飛ばし。負けず嫌いだがひきょうなことはしない。つまりはいい女ということだ。だが、俺にはフローラがいる。
「俺はあんたを一生愛さねぇが、それでもいいか」
 ヘレンは目を丸くした。
「初対面なのに、そんなにあたしのことが嫌いなの?」
「違う。あんたはいい女だと思うぜ。けど、俺はもう誰も愛さねぇんだ」

ハイスクール6悲しみ

 アレグロが口を挟んだ。
「うそでも本気でもいいさ。あす、二人が付き合っていることを公表する。『将軍』の相手となるとヘレンの称号は『御台所』だな。『御台』にはレイターのスポークスマンを頼みたい」

 ヘレンは実力もあり、ビジュアルもいい。何より人を惹きつけるオーラがある。『裏将軍勅令』は『御台』の口から発せられ、ギャラクシーフェニックスは拡大の一途を辿った。

 そして、死にそびれた『裏将軍』は伝説になった。

 別の名前がもたらす不連続な切り離された感覚。
 あれは、俺そのものだったのか、俺の一部だったのか。
 死と隣り合わせだった俺の受け皿。『裏将軍』という名前は俺が宇宙で生きるための酸素ボンベのようなものだったのかも知れない。

 名付け親のアレグロには感謝している。   (おしまい)

↑ 【裏将軍編】のマガジンはこちら

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
イラストのマガジン

 

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宇宙SF

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」