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緑の森の闇の向こうに 第10話【創作大賞2024】

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第9話

 レイターは耳がいい。エンジンやローターの回転音で大体の機種はわかる。だが、地上ではサイレンが、上空はヘリの音が響き現場は騒がしい。集中しねぇときついな。その時、微妙に高音のへリの音が聞こえた。
 来た。MM二十六だ。かなり高度が高い。

 小型砲を軍用ヘリに向けて構える。と、その時、ティリーから慌てた声で連絡が入った。
「レイター、大変よ。NRは熱デギ放射砲を購入しているわ」
「熱デギ放射砲? マジかよ」
 おいおい、そんな破壊兵器でヘリから撃たれたら半径五百メートルがぶっとぶぞ。あいつら、ダルさんを殺す気なんだ。この小型砲じゃ相手にならねぇ。
 レイターは素早くエアカーに乗り込んだ。

* *

 照明がたかれたレイモンダリアホテルの周りに、赤色灯を点滅させた緊急車両やマスコミの中継車が集まっている。上空から見るとイルミネーションみたいだ。これならモニターなしの肉眼でも標的が容易に狙える。
 ゴドは軍用ヘリを高い高度でホバーリングさせた。
「目標レイモンダリアホテルを確認」
 機体の前方底部から放射砲を外へ出す。円錐状の発射口がホテルの屋上を捉えた。クロノスの社員がどこにいるのか知らないが、ホテルもろとも燃える。というか高温で蒸発するだろう。
 それにしてもオレが熱デギ放射砲を使うことになるとは。この大型破壊兵器がパキへ届いたのは一か月前のことだ。連邦軍と戦争中のアリオロン同盟から兄貴が買い付けた。
「来るべき時のために、お前に管理を任せる」
 短いメッセージが届いた。この田舎星は警察の力が弱いし、未開発の森林は行政も把握できていない。いくらでも隠す場所があった。いつかNRの力を世界に示す時に使うのだろうと俺は理解した。
 それが今なのだ。兄貴はオレにビッグチャンスをくれたのだ。これをうまくやり遂げれば、オレは本部へ戻れる。

 みんな消えちまえ。ざまあみろ。

* *

 飛行予定のない機体に地元警察のヘリコプターが気づいた。パキ軍には配備されていない最新鋭の軍用ヘリだ。
「おい、あのヘリ、様子がおかしいぞ」
 ヘリから下に突き出した円錐状の発射口が赤く光り始めた。
「熱デギ放射砲だ」
 警部が大声で指示した。
「サイレンをならせ!!」
 ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ……
「こちらパキ警察だ。武器を解除したまえ」 
 熱デギ放射砲は、エネルギー充填に若干の時間を要する。赤い円錐が徐々に白く輝いていく。
「警部、撃ち落としますか?」
「駄目だ、この状況で墜落させたら熱デギ砲以上に被害がでる」

* *

 ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ……
 地上にもサイレンの音が響いた。
「皆さん、避難してください! 軍用ヘリがホテルを攻撃しようとしています」
 レイモンダリアホテル前にいたテレビのリポーターが、絶叫しながらカメラとともに現場から走り出した。
 「これは大変だ」 
 ダルダもあわてて一緒になって中継現場から離れる。

* *

 ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ……
「ダルダさん、急いで!」 
 ティリーはテレビに向けて叫んだ。モニターの中からサイレン音が鳴り響いてくる。

 放送中にダルダさんがテレビ局のリポーターと一緒に大慌てで逃げ出したところは見た。残された無人のカメラはレイモンダリアホテルを映している。
 ティリーは手を握りしめた。

 画面が切り替わった。
 上空の映像だ。NRの軍用ヘリMM二十六を、放送局のヘリが遠巻きに撮影している。

 熱デギ砲の発射口が赤から白に変わった。まもなく臨界だ。一体どのくらいの範囲を熱で吹き飛ばすのだろう。
 レイターとダルダさんは一緒にいるのだろうか。
 徒歩では間に合わない。エアカーで逃げているはず。大丈夫、レイターは優秀だ。あの人はクライアントに怪我をさせたりしない。

 アナウンサーの緊迫した声が聞こえた。
「軍用ヘリに向かってエアカーが飛んでいきます」
 画面の下の方にエアカーが映っていた。
「え?」
 頭が凍り付いた。あのエアカーは、さっきダルダさんとレイターが乗っていった車だ。
「ひ、人が乗っています。無人ではありません!」
 アナウンサーが叫んだ。

* *

 MM二十六の指揮席でゴドは部下の報告を聞いた。
「エアカーが近づいてきます」  
「エアカー?」
 一体何を考えているんだ? 熱デギ放射砲を発射することに気づいているだろうに。馬鹿な奴だ。もう臨界だ。自殺したいのなら、車ごと吹き飛ばしてやるだけだ。
「想定外の高速です」
 エアカーが発射口の寸前にまで迫っていた。
「ば、馬鹿な」
 ゴドは臨界を示すランプと同時にスイッチを押した。

* *

「レイター! やめて」
 猛スピードで熱デギ放射砲に突っ込む気だ。エアカーってあんなにスピードが出るのだろうか。まるで早送りで見ているようだ。

 テレビカメラの死角にエアカーが入った。
 ババァァァァン

 破裂音とともに画面が真っ白に輝いた。
 ど、どうなったの? 
 画面は一面白くぼやけていて何も見えない。煙なのかピントがあっていないのか。
 テレビの中継リポートを聞き洩らさないように集中する。
「熱放射砲の発射直前にエアカーがヘリに衝突。エアカーは大破したもようです」
 
 大破ってレイターは???
 テレビ画面にピントが戻る。煙でヘリ本体はよく見えないけれど、エアカーが破片となって降っていく様子が映っていた。
「熱放射砲は発射されず、地上への被害はありません」
 ということはダルダさんは無事だ。ほんとに優秀なボディーガードだ。

「レイターは優秀なんだから、クライアントとの約束は守るわよね」
 口に出して確認をする。生きて帰ってくるって約束したわよね。

 『その条件、飲んだぜ』
 青い瞳が頭に浮かんだ。 

 バラバラになったエアカーの映像が最悪の事態を示している。足が震えてきた。
 NRにギャフンと言わせる、なんて言わなければよかった。おとなしくソラ系へ帰ればよかった。

 「軍用ヘリの着陸脚に誰かいます」
 アナウンサーの声で我に返った。煙の中に人影が見える。

 レイターだ。レイターが着陸脚にぶら下がっていた。
「レイター!!!!」
 テレビに向かって大声で叫んだ。

 ヘリの窓からレーザー銃を持った男がレイターを狙って撃つ。
「危ない」
 ビシューン、ビシューン
 レイターは体に反動をつけて器用によけていく。
 もはや現実味が無い。

 アクション映画のようだ。皇宮警備のドラマにこんなシーンがあった。レイターの動きに見とれる。皇宮警備官のようにかっこいい。
 でも、これはドラマじゃない。撃たれても落ちてもレイターの命はないのだ。
 レイターは着陸脚に足をかけて上り、レーザー銃の死角へ入った。

 ほっとする間もなく、へリはレイターを振り落とそうと右に左に旋回した。身体が大きく傾く。

「レイター、がんばって!」
 テレビに向かってエールを送る。今わたしにできることはそれしかない。
第11話へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」