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緑の森の闇の向こうに 第11話【創作大賞2024】

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 とにかく風が強い。レイターは顔をしかめた。
 機体をつかむ指が痺れてきた。ちっ、いつもより身体が重てぇ。先週の怪我が響いてんな。
「っはん。こんなところで落っこちたら、ティリーさんに叱られちまうぜ」
 指先に力を込めて体勢を整える。

「そこのヘリコプター。止まりなさい」
 ヘリパトが近づいてきた。MM二十六が逃げるように速度を上げる。田舎警察のへぼいへリじゃ追いつけねぇな。
 着陸脚に身体を固定し、腕につけた無線機のスイッチを入れた。

「おい、アーサー聞こえるか? NRのヘリ、ちゃんと追えてるだろな」
「お前自らが発信機とはな」

「フン。あんた見てただろ、俺のエアカー代、ちゃんと払えよ」
「必要経費として請求してくれ。経理が判断する」
「言っとくが、定価の倍は改造費がかかってるんだからな」
「水増し計上は認めないと言ったはずだ」
「水増しじゃねぇ、実費だ!」

 軍用ヘリは見る間に市街地を抜け、原生林の上を低空で飛行した。灯り一つない黒い闇が広がっている。パキ星は未開の地がほとんどだ。深い森の奥はパキ政府も把握し切れていない。
 森の上でヘリが突然ローターを畳んだ。
「ご到着ですか」
 レイターが体を緊張させる。
 ヘリは急降下し森の中へと突っ込んだ。緑の葉がレイターの体をたたくように当たる。

 覆い茂った葉で上空からはわからなかったが、森の中はその一部が切り開かれていた。
 簡易建物が見えてきた。ここがNRの武器庫か。 

 速度が落ち、着陸態勢に入る。構成員が銃を構えて次々と飛び出してきた。撃ってきたりはしない。着陸のショックに備える。
 着陸脚が地面に着いた。さすが最新鋭機だ、思った以上に衝撃が少ない。

「はいはい」
 両手を挙げて戦意がないことを示し、機体の下からゆっくり表へ出る。
「こいつの武器を解除しろ」
 ヘリから降りてきた男が指示した。

 胸にNRの赤い幹部バッジが光っている。さっき裏通りで会った男だ。
 男たちは、レイターから銃と電子鞭を取り上げると、後ろ手にして手錠をかけた。

 赤いバッジの男がレイターの身分証を確認する。
「ほう、ボディーガード協会のランク3A。どうりで手ごわいはずだ。俺はNRパキ星支部長のゴド」
 ゴドはレイターから取り上げた電子鞭を振った。

 ブォーン。

 鈍い音を立てながらレーザー光が軌跡を描いてしなる。
 うれしくねぇ展開だ。とレイターは思った。 

 ゴドが、電子鞭をしならせながらレイターに近づいた。
「まだ、手がしびれているんだよ。先ほどの借りを返させてもらおうか」
「いや、チャラにしてやる。返さなくていいぜ」
「うるさい!」 

 ビッシーン 
 レイターの右肩を思いっきり叩く。

「うっ」
 右肩だけでなく全身に衝撃と痛みが走る。体中が痺れて立っているのがやっとだ。

「ほぅ、流石3Aだな、一撃では気を失わないのか」

 ビシーン。
 今度は左肩を打った。

 心臓が締め付けられるような痛みが走る。 
 誰だ、電子鞭の衝撃は弱いって言った奴。今度、電子鞭でぶったたいてやる。
「お前のせいで、オレの計画は全部狂ったんだ」

 ビシーン、ビシーン
 レイターの肩や胴、を次々と連続して叩く。
「そもそも交渉に応じれば人質は返す予定だったんだ。それをお前が邪魔をした」
 痛みに耐えながらレイターは思った。こいつ、さっき銃で撃っちまえば良かった。

「ホテルの砲撃から逃がしたのもお前だな?」
「お仕事だからな」 

 ビッシ、ビッシーン
 ゴドはいらだちをレイターにぶつける。
「お前さえいなければ。本部へ戻れたんだ。こんな星にいたくないんだよオレは」

 立っていられなくなったレイターが片ひざを付いた。
 このまま倒れちまえば楽だ。
  だが、まだだ……。

 レイターは肩で息をしながら、ゴドをにらみつけて言った。
「クロノス本社は、工場の拡張に、慎重だ。あんたらさえ、出て、こなけりゃ……丸く、収まったんだ……あんな、兵器まで、持ち出して、自然保護が、聞いて、あきれるぜ」
「黙れ、黙れ! お前のせいでオレは兄貴から叱責を受けたんだ」
 熱デギ放射砲はNRをさらなる高みへと引き上げる切り札だった。兄貴はそれをオレに任せてくれたというのに。
 こいつのせいだ、こいつの。

 怒りにまかせてレイターの背中をレーザー鞭で繰り返し打つ。
「くっ……」
 ぐらりとレイターの体が傾き地面に倒れた。ゴドの息も上がっていた。
「ふぅ、気を失ったか。作戦変更だ。こいつを人質にして交渉する」

 ゴドが基地へ入ろうと向きを変えた、その時。 
 基地の中から長身の男が銃を構えて出てきた。

 連邦軍の制服に身を包み、長い黒髪を後ろで束ねた男。
「連邦軍特命諜報部です。NRパキ星支部長ゴド・ドアール。あなたに逮捕状が出ています」

 一目見てゴドはこの男が何者か理解した。

 銀河連邦で知らぬ者はいない。将軍家の御曹司で次期将軍。アーサー・トライムス殿下。
「ど、どういうことだ?」
「この基地は連邦軍が占拠しました」 
 い、一体いつの間に。
「こいつがどうなってもいいのか?」
 ゴドはあわてて足元に転がっているレイターに銃を向けた。

 その瞬間、レイターが目を開いた。
「アーサーに聞いたって『どうなってもいい』って答えるだけだぜ」

 バシッツ。

 ゴドが引き金を引くより早く、レイターがゴドのすねを蹴り飛ばした。

 はずみで電子鞭が転がる。
 レイターは手錠からするりと腕を抜くと電子鞭をつかんだ。倒れた体勢のまま鞭をしならせる。
「お返しのお返しだ」

 ビッシーン。 
 電子鞭で打たれたゴドの体が地面へと倒れた。

「立てるか」
 レイターにアーサーが手を差し出した。

 その手を掴んで立ち上がりながら、レイターは文句を言った。
「親切なふりしたってわかってんだよ。ったく、あんた、俺が叩かれてるの止めもせずにゆっくり見てただろが。相っ変わらず性格悪りぃな」

 レイターの指摘をアーサーは否定しなかった。

 身体を張って倒れずに突入の時間を稼いでくれたのもわかっている。
「いいリハビリになっただろう?」
「はぁ?」
 怒っていいのか、呆れた方がいいのか反応に困るレイターにアーサーは笑顔で言った。
「冗談だ」

「あんたの冗談が面白かった試しがねぇよ」
「まだ本調子じゃないところ、悪かった」
「悪いと思ってる奴がこんなハードな仕事当てるかよ。ったく、礼も詫びもいらねぇから、その分、手当てをはずめよ」
第12話へ続く

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