見出し画像

アート思考の基本的な考え方

アートは極端に言えばなくても良いものです。
アートがなければ生きていけないか?アーティストを除いて多くの人にとって生きていく上でそれほど重要とされているものではありません。何に使うか?難解でむしろ必要でもないモノ。一方、アートは豊かさや権力、富の象徴、または投資の対象でもあります。近年、アートの市場価値はアジア圏特に中国を中心に拡大傾向にあります。

アート思考とはアート市場の話ではなく、アートと個人の内面の話です。アート思考の概念は大きく分けて外的要因としてのアート、内的要因としてのアート思考に分けられます。外的要因として対話型鑑賞(Visual Thinking Strategies )があります。これはアート作品と向き合って、自分の目や心や頭で感じたり、考えたことを言葉にて対話をし合う鑑賞法で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が教育プログラムとして開発したものです。時に難解で観る人によって解釈は様々である事が当たり前の世界、つまり正解のない作品との対話のからイメージを膨らませ想像力とコミュニケーション能力を養います。

一方で内的要因としてのアート思考は、アーティストの内面にある想像力や本質的な衝動や直感から作品が生み出されるプロセスを意味します。近年、この発想をビジネスに活かしていこうとする動きをアート思考と呼んでいます。

ここで比較されるのがデザイン思考です。デザイン思考では顧客ニーズや満足度、つまり第三者に対しての課題解決がデザイン思考の目的となり、正解を求められます。               それに対し、アート思考は作家個人の内面的世界観や哲学から生まれるものです。作家は正解を求めて創作するのではなく、衝動的な内面への問いかけから創発し、それを形にしていきます。目的や、義務や報酬も目的ではなく、心の底から湧き上がる衝動を表に出すことで自分を保っているのです。また、アート作品は一度世に出てしまえば鑑賞する人にその価値が委ねられるため、作家の手を離れた瞬間から作品は独り歩きを始め、鑑賞する人が自由に対話することを許されます。正しいか、間違っているかではなく『何を感じるか』の世界です。

これがビジネスの世界では到底理解されるモノではありません。何に使うかわからない難解であまり必要とされないものは商品にはなりません。では、なぜビジネスの世界でアート思考が注目される様になったのでしょうか? Volatility(変動)、Uncertainly(不確実)、Complexity(複雑)Ambiguity
(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語VUCA(ブーカ)の時代といわれています。現在の社会経済環境が、予測困難な状況にあることを意味しています。今までの様に作ったら売れる単純な時代ではありません。モノが飽和して、差別化要素も作りにくい上に技術革新のスピードがこれまで以上に早くなり、つい半年前に使われていたものが、すぐに古くなってしまう時代が訪れました。さらに深刻な人口減少で市場も急速に小さくなり、同時に労働生産性も低下していく中で既存事業がいつまでも右肩上がりで成長すること自体すでに幻想でしかありません。こういった背景から新たな価値を生み出すイノベーションが求められています。

マーケティング(ロジカル思考)から消費者のニーズ(デザイン思考)、そして、消費者が見た事のないモノやサービスを自ら生み出していくApple社みたいな発想(アート思考)へ、市場は急速に加速しています。

グーグルの元CEO エリック・シュミットは
「どんな経営手法が役に立つのかよくわからない。わかっているのはこれまでの経営セオリーはこの世界では役に立たないということだ」と言っています。

2012年頃、お仕事でお世話になった孫泰蔵氏と焼肉を食べに行った時のことです。泰蔵氏はちょうどその頃、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社を立ち上げ「パズル&ドラゴン」をリリースしたばかりで、もの凄い収益になっていました。「パズル&ドラゴン」はKPIやマネタイズ、事業計画さえないゲームであったにもかかわらず時価総額1兆円のモンスターゲームになりました。その時、泰蔵氏は「もうわからない」と言っていました。大ヒットになりながら単純に喜べない、成功の理由がわからないという、その言葉が今でも頭に残っていす。ガンホーの代表取締役社長CEOの森下一喜氏はヒットの理由を常識にとらわれず右斜め上の思考を持って、分析や周囲に流されず、我が道を行くこと。分析を不要としているのではなく、自分が作りたいと思ったものを大切にすることがきわめて重要と説いています。

ここで言うアート思考とは既存の枠組みを突破して次の次元一歩踏み出すためのマインドセットだと思って下さい。
その為に必要な人の内面から湧き出る本質的な衝動や直感を呼び覚ます思考法、これがアーティストの思考法と似ているコトからそのように言われていると解釈しています。つまり、世界の見方、発見の方法をアーティストから学びその発想法をサービスや商品開発に活用する。
今、注目されている書籍で「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」 (光文社新書) の山口周さんは経営コンサルの視点から、「アート思考」(プレジデント社)は秋元 雄史さんは現代アートの視点から解説しています。
私の場合、自身がアーティストでありながらトヨタ自動車や経産省、内閣府のプロジェクトのプロジェクトマネージメントをしてきた経験からアーティストとしての自分の中でどのように思考していたか?を大脳生理学の視点も交えまとめたのが自分の提唱しているアート思考のセミナーということになります。先の見えない時代にイノベーションを起こすにはどうしたらいいか?自分の経験を元にしてアート思考を元にした発想法と組織作りがテーマーです。

アート思考でイノベーションを起こすには
●創造性の高い自立した個人を作る
1、様々なモノやコトに好奇心を持って経験的感動を蓄積する。
2、バイアス(偏見)や先入観など、思考の枠組みを外す。
3、自由にモノやコトを結びつけて物語を作る。
4、自己肯定感を養って自由に表現ができる。

●企業の目的のために自主的に動くフラットな組織を作るには
1、心理的安全性の高い環境
  ・自由に発言できる
  ・それぞれが自立してお互いを認めあえる(自他肯定)
  ・ビジョンとワクワクを共有できる
2、全員が共犯者になれる階層構造がないフラットな環境
3、モチベーションが持続できる環境

まずはアート思考で創造的で自立した個人が、心理的安全性やエンゲージメントの高いティール組織のような組織の中でイノベーションが生み出されるのだと考えられます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?