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「冒険の書」孫泰蔵著

何年も前ですが、お仕事をお手伝いさせて頂いた孫泰蔵さんの著書です。
冒頭の父から子への手紙で涙が溢れてきました。泰蔵さんの学びへの真っ直ぐな「問い」から学びを再定義する本です。

お金があったら全ての学校の教員に配布したい。教育関連の人には絶対読んで欲しい。

「なんで学校に行かなきゃいけないの?」子供の素朴な問いから始まるこの旅は、泰蔵さんがタイムスリップして現代の教育を生み出してきた様々な偉人たちと対話しながら近代教育の本質を探す旅に出ます。

帯にある「君が気付けば世界は変わる」に惹かれました。自分も大学講義で「政治は変えられなくても、世界は変えられる」ということを話していました。世界は自分自身の視点でいくらでも変えられる。変わらないからといって諦めてしまっては何も始まらない。まずは自分から変わらないと世界は変わらない!

”「評価」は人間の活動の多様性を削ぐだけでなく、人間の可能性を狭めることにしかならない”。泰蔵さんは評価されることによって機械化されていく労働について「問い」を持ちます。
 私はダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」という本を思い出しました。ダニエル・ピンクはこの「評価」をモチベーション2.0と表現していいます。これは外発的動機で「外からの刺激によって対象者を頑張らせる動機付け」のことです。生産性を重視する社会においては有効で、まさに高度成長した日本の社会の背景には有効に作用しました。しかし、一時的には成長を推進しますが、長続きはしない、それどころか成果を出すことへの必死さが視野を狭め、創造性を失わせるデメリットもあります。

 「評価」が教育の背景にあり、そのことで成長してきた経済ですが、その限界を迎えた今、必要なことは「アプリシエーション(理解・感謝)」だと泰蔵さんはいいます。アメリカの作家デール・カーネギーの著書『人を動かす』を引用し”誠実に、心を込めて、相手の良さを認める”つまり、相手の良さをしっかり認めて褒めることが大切だと説いています。
人と比較されたり、他人よりも優秀な成績を得ることよりも、人は誰しもアプリシエイト(きちんと理解される)ことで双方に感謝の気持ちが生まれます。このことが学びを楽しく豊かにすることであると書いています。

 今までの様に生産性を重視してより早く多く生産できた人を評価することで成長してきた経済、そして、その生産性を支えるための能力を植え付けたのが教育で、そんな教育限界が来ています。
泰臓さんは、”世界をアプリシエーションに溢れた場にすることで社会の分断もなくなるだろう”といいます。相互理解と感謝の場を作ることがこれからの社会に必要だということを説いています。

 生産性を重視し、成果や結果論で人を評価する社会が今の教育の本質的な問題であることはとても共感できます。敗戦後日本がものすごいスピードで世界のトップに至り、物質的には豊かで安全な社会に到達しました。それは自分たちの親やまたその親たちの血の出る様な努力の恩恵でもあります。でも、それが限界を迎え始めたことは間違い無いでしょう。いくら生産性を高めようとしても空回りします。そのことに気がつかない、あるいは変えようとしない、変わらない大人たちがいまだに古い教育を行なっていることを若者たちは敏感に感じているます。2022年、不登校児童は過去最高の約24万人。登校拒否児童達の一部はこの旧体質の教育や、変化に無関心か、もしくは意を唱えることをしない教師達から積極的にドロップアウトしていく子達でもあります。

生産性重視の社会は「機械化した人間」によって成長してきました。ところが、chatGPTをはじめとするAIの進化はめざましく、「人工知能化した機械」の前にもはや「機械化した人間」はただひれ伏すしかない。それはAIが人から仕事を奪うのではなく、人間が「労働」から解放されることだと泰蔵さんはいいます。

では、どうしたら良いのか、、、
そこに現代アートの父とも言えるマルセル・デュシャンの「自転車の車輪」という作品が出てきます。「無意味」という否定から常識にとらわれず良い「問い」を立て続ける、、、この本で何より大切にされているのが「問い」です。AIが最適解を簡単に生み出す社会で重要なことは「問い」の立て方だと感じます。この本の最後の章には80の「問い」がまとめられています。
「答えようとするな、むしろ問え」いま、リスキリングが注目を浴びていますが、本質的な学びは「自分ごと」としての「問い」である事。そして、「大人と子どもはなるだけ一緒にいて、互いにラーニングとアンラーニングを繰り返し、年齢を問わず、新しく探求や学問をしたい初心者が集う場に教育の現場をグレートリセットしないといけないのではないか。。

この「問い」と共に泰蔵さんと読者がどんな旅をするのか、、、是非体験してみてください。


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